13 クソデカ激怒

 しょんぼり顔のぽてとをヨシヨシしたところ、「ウー」と唸られてしまった。しょんぼりしている上に機嫌が悪いらしかった。


「どうしたんですかぽてとは」


「いや、散歩中にお腹の調子があきらかにおかしいブツを出してね……とりあえず検便することになった。結果は1週間後だって。整腸剤が出たからそれを飲ませて様子見」


「大変でしたね。ぽてと、お前変なもの拾い食いしたんじゃないだろうな?」


「ウー……」


 ぽてとは唸るものの、吠える元気はないらしい。


「叔父さん、あたしたちにもぽてとの責任をなにか背負わせてください。いつまでもぽてとの可愛さにただ乗りするのは申し訳ないです」


 妹がかっこいいことを言い出した。俺も同じことをよく考えていたので、俺もそう思います、と付け加える。


「でも……ぽてとにせよ先代のおもちにせよ、私のエゴで飼っているものだし……」


「ぽてとは家族ですよ。おもちだって家族でしたよ。子供みたいなものなんだからみんなで面倒をみるべきです」


 俺がそういうと、叔父さんはちょっと困った顔をした。


「じゃあ……ご飯代を少し出してもらえたらありがたいかな」


「わかりました!」


「もちろんです!」


 ぽてとは叔父さん手製のご飯を食べている。ちゃんと手作りドッグフードの本で学んだ、ブロッコリーやキャベツ、鶏のササミ、コメのメシなどでできた手作りのご飯だ。そのご飯代は毎月結構な額になっているはずだ。

 そう思っていたら叔父さんはホームセンターのレジ袋をどさりと置いた。どうやらドッグフードを買ってきたらしい。レシートを見て代金の一部を叔父さんに渡す。


「手作りドッグフードやめるんですか」


「うん……獣医さんになにを食べさせてるか聞かれて、手作りの食事を食べさせてるって言ったら、なるべくなら市販の、ちゃんとしたメーカー品のドッグフードがいいって言われちゃってね。ほらぽてと、ご飯にしよう。お腹空いてるだろ?」


 ぽてとはいつもの食器に入れられたいつもと違うドッグフードの匂いをすんすんとかいで、「こんなまずいもんくえるかよ」という顔をした。叔父さんが手のひらにドッグフードを一粒拾って顔の前に差し出すと、ぽてとは困った顔をしてからぱくりと食べ、結局お腹が空いていたのかドックフードをぺろりんちょと平らげてしまったのだった。もちろん整腸剤が隠されていることにはまったく気付かなかった。


「いまはチワワ専用とかシーズー専用とかミニチュアダックス専用とか、そういうドッグフードがあるんだねえ」


 叔父さんはしみじみとそう言い、自分の夕飯を用意して食べ始めた。


 ◇◇◇◇


 しばらく穂希さんは我が家には来なかった。荷物は置いていっているので、まあそのうち戻るだろう、と思っていたのだが、あまりにも戻ってくる気配がない。

 妹はインステのDMを何度か送っているようだが、返事もこない感じらしい。というかなぜインステのDMなんていうまどろっこしい連絡手段を選ぶのだろうか。ふつうメッセージを送るのに特化したアプリで連絡するものではないのか、と思ったが妹はヤベェ量のメッセージを未読スルーしており今更開く気はないらしい。

 高校のころはこんなではなかった。いつからこんな「文字を読むのが面倒くさい」人間になってしまったのか。

 穂希さんと交換した連絡先はインステだけだそうで、他に連絡のつけようがないらしい。


 なお穂希さんが戻ってこない間にぽてとの検査結果が出た。生煮えの鶏肉に中ってお腹を壊したらしいとのことだった。


「やっぱり市販のドッグフードが一番いいのかもしれないねえ」


 と、叔父さんは弱気だ。だがもうぽてとのお腹は平常運転に戻っており、心配しなくてよさそうだった。


 さて、そんな平和な日常がしばらく続いていたころ、みんなで夕飯を食べているとドアをドンドンされた。なんだなんだと出ていくと、いつぞやライヴダンジョン社に突撃していた身なりのいい女の人が憤怒の表情で立っていた。


「どちらさまですか」


 叔父さんが穏やかに声をかける。


「小石浜穂希の母でございますっ!!!!」


 女の人がでっかい声を出して、思わずぎょっとする。穂希さんのお母さんだ。


(おい清花。お前穂希さんになにをした)


(なんもしてないよ! ダンジョンで知り合ったんだからダンジョン配信に誘ったとかじゃないし!)


「……とりあえず上がってください。お茶をお出ししますね」


「いりませんっ!!!!」


 なんだこのクソデカ激怒おばさんは。

 叔父さんがお茶を沸かして来客用の湯呑みについで茶托に乗せて出したものの、穂希さんのお母さんは激怒そのものの顔をしており、とてもとても冷静に話せる状況ではないようだった。


「ダンジョン配信のせいで穂希……娘の縁談が破談になったんですよ!?!? 生まれる前から決まっていた縁談が!!!! あなたがたは責任をとってくださるんですか!?!?」


「そう言われましても……ダンジョン配信者になったのはお嬢さんのご意志でしょう。たまたま清花がお嬢さんとダンジョンで友達になってしまっただけで、ダンジョン配信に誘ったとかではないと思いますが」


「承知しておりますッ!!!! でも破談になった縁談は戻ってこないんですよ!?!? 娘にとって最良の選択をしたというのに!!!!」


 穂希さんのお母さんは怒りで我を忘れているように見えた。風の谷の姫様ならこの怒りを鎮められたりするのだろうか。

 全く筋の通っていない激昂おばさんを前に、我が家の三人は固まっていた。(つづく)

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