ブラコン妹は恋人に頭が上がらない

木場篤彦

第1話妹の胸騒ぎ

 私は放課後になると、教室を飛びだす勢いで廊下に出て、下のフロアに下りる階段に向かって走り出した。

 隣のクラスの教室から教諭が鋭い声で私を攻撃してきた。

「おいっ、君ぃっ度会わたらいさん廊下を走るんじゃない!聞いてるのか、君ぃっ!?」

 私は教諭の小言を無視し、脚を動かし続け廊下を駆け抜けた。


 教諭が顔を廊下に出す前に逃げ切れ、階段を一段飛ばしで下りていく私。

 踊り場に両脚がついた瞬間に頭上から私を呼び止める声が聞こえ、ブレーキを掛けた。

「おぉ〜いシズちゃん!急いでるとこ悪いけどさ、私じゃセンセーに頼まれた多い荷物ぅ運びきれないから手伝ってよぅー!」

「ん〜っ!雲林院うじいさんかぁ、えぇっ……大変そうだそりゃ。うん、良いよ。何処までぇ?」

「ありがと、シズちゃん!えっとね——」

 大きな段ボールの上に三箱の小さな段ボールを載せたのを抱え持ち、視界が遮られていた雲林院は腕をぷるぷる震わせながらお礼を述べた。

 私は彼女のもとに駆け寄り、大きな段ボールを代わりに抱えた。

 私と雲林院は荷物を指定された教室まで運んだ。


 雲林院が頼んできた教諭に報告するまで付き添い、上級生の教室に居た教諭に報告をした彼女と教室を出ようとした瞬間に、ある女子生徒が話題にしていた人物の名前に身体が強張り、脚を止めた。

「シズちゃん?どうしたの、もう帰ろ……?」

「あっ……あぁ、うん」

 私は彼女に手首を掴まれたままに教室を出た。


 あの人は苦手だ……度会洋佑おにぃちゃんと同級生だとしても。


 何故だか……胸騒ぎがする。

 雲林院に握られた手が震えているようだ。


 校舎を出ても、雲林院は私の手を握り続け、帰してくれない。


 私が雲林院と別れ、全力疾走で自宅まで帰宅し、玄関扉を開けた。

「ただいっ——」

 私は快活な挨拶を言い終える前にある異変に気付き、途切れた。


 玄関に揃えて脱がれた二足の靴が瞳に映り、動揺した。

 度会洋佑のスニーカーの隣に並べられたもう一足の靴——誰かのローファーが私の呼吸を乱した。

 私は物音を立てないようにローファーを脱ぎ、スリッパを履いて、リビングに脚を踏み入れる。

「お兄ちゃーん……?」

 硝子のローテーブルに開けたままで食べかけのスナック菓子の袋とグラスが二つ置かれていた。

 同性じょしが上がり込んでいるのは、確信した。

 洋佑あにの自室がある二階から物音が聞こえてこない。


 私はお手洗いを済まそうと部屋から出てくる洋佑か上がり込んでいる同性じょしが物音を立てる瞬間タイミングを逃さないとダイニングチェアに腰を下ろし、瞼を下ろした。



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