5,長針と短針
文字盤の真ん中でも長い針と短い針が何か言い争っています。
「なんでもっと早く走れないんだ、ボクの一〇分の一も走れてないじゃないか」
と長い針が言うと、短い針が汗を拭き拭き言い返します。
「兄さんこそ、なんでもっとゆっくり走ってくれないんだ? ボクはこれ以上早くは走れないよ!」
「ちぇ、のろまな奴だな。お前と一緒に走っていたら、一周回る間に夜が明けちまう。だから先に行くよ」
と言って長い針はさっさと先へ行ってしまいました。
残された短い針は一生懸命に長い針を追いかけますが、差はどんどん開いていくばかりです。
様子を見ていたアリスは短い針が少し可哀そうになり、近寄って指で短い針の頭を後ろから押してやりました。
「イタタタ! やめてくれ!」
という悲鳴。
アリスはびっくりして、慌てて指を離して謝りました。
「ごめんなさい、少しでも助けになるかと思ったの」
短い針は首をさすりながら言いました。
「お嬢さん、ご親切はありがたいのですが、私には私の決まった速度があるのです。
ですから無理に頭を押されるとポッキリと首が折れてしまうんです」
「本当に知らなかったの、ごめんなさい」
とアリスがもう一度心から謝ると、
「分かってもらえればいいのですよ、私はこれから兄さんを追いかけなければいけないのです、だから私には構わないでください」
と言い残して、短い針は長い針の後を追いかけ始めました。
アリスは長い針には追いつけない事を知っていましたが、もう余計なことは言いませんでした。
アリスは文字盤から離れると、時計台を後にして夜空を登っていきました。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます