第5話 裏切り3


チャイムに反応はない。


何事もないようにかかってきた電話への苛立ちと複雑な感情を無理やり押さえ込んで、私はポケットから合鍵を取り出す。


(……とにかく休みたい)


カチリと鍵を開けて、彼の部屋に入る。

部屋にはやはり誰の気配もない。


けれど自分の部屋に一人でいるよりはずっと気が楽だった。

この部屋には彼との記憶がたくさん詰まっている。


(帰ってくるまで、待ってよう……)


そう思ってリビングへ向かったとき、テーブルの上に置かれた一冊のアルバムが目に入った。


表紙を見た瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなった。


(……あっ、見てくれてるんだ)


それは、私が誕生日にプレゼントした“ふたりの思い出アルバム”だった。

表紙には、私が手書きした日付と小さなイラストが描いてある。


何気なくページをめくる。

ふたりで行った水族館、夏祭り、彼の誕生日に作った手料理の写真……。


(懐かしいな……)


微笑みながら指を滑らせていたそのとき、不意に目に止まったページがあった。


1枚の写真の下に、もう1枚――重なっている。


(……あれ? 私、こんなふうに写真重ねたっけ?)


疑問に思ってそっと2枚目を引き抜いた。


次の瞬間、私は固まった。


写真に写っていたのは、私ではなかった。


そこには――


かなこと私の恋人、翔が仲良く並んで笑っているツーショット。


室内っぽい背景。

近すぎる距離。

軽く寄り添うようなポーズ。


(……どういうこと?)


手が震え、写真を落としそうになった。


(かなこと……翔……?)


胸の奥が、ギシギシと音を立てて壊れていく。


なんで、かなこがここに?

いつ、どこでこんな写真を撮ったの?

この写真を彼はどういう気持ちでこのアルバムの中にしまっていたの?


問いが次々に浮かぶのに、答えはひとつも見つからない。


声も出ない。

涙も出ない。


呆然と立ち尽くすだけだった

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