第30話 今宵復活するのは<< >>
特別監視区域の一つ空軍基地。
今は空軍基地の大部分の警備を第三大隊に任せている。
そこの総責任者は
情報が常に漏れているのなら既に敵は警戒態勢を取っているはずだ。
つまり現在進行形で警戒態勢を取っていないのはまだ気づいていないからだ。
もしくは彼女も捨て駒だったのか?
そもそも揚羽の警戒範囲が狭くなったのは小田信奈と会話を初めてからだ。
つまり……小田信奈を餌に元守護者の注意を牧から遠ざけた?
その割には警戒態勢が思ったより厳しくない。
まるで奪い返してくれと言わんばかりに……
「とりあえず着いたはいいけどさてどうしたものかな……絶対罠だよな」
正規の入り口には三十人ほどの兵士が検問から中の主要通路に掛けて規則正しく配置されている。
「時間が惜しい。なにより牧さんの安全が最優先だ」
耐久性に優れた黒をベースにした白の刻門が刻まれたマントが揺れる。
それはオルメス国を代表する総隊長、副総隊長、守護者だけが羽織ることを許された物。故にそのマントを羽織っている人間を軍関係者が見間違えることはない。
歩を進める度に赤い長髪が躍る。
赤い眼はただ真っ直ぐ前だけを見ている。
空軍基地と外を繋ぐ入り口は一本道。
その道は懐かしい気持ちにさせる。
それは揚羽だけでなく。
「と、止まれ! ここは守護者様の許可なしでは入れ……ッ!?」
「どけ! 裏切り者に用がある!」
魔力回路をぶん回して戦闘態勢に入った揚羽に検問兵の声が震える。
カタカタと鎧が小刻みに震える音があちこちで聞こえ始める。
「聞こえなかったか? 道を開けろ!」
「は、はひぃ!」
息が詰まるような重圧に検問兵が道を開ける。
圧倒的な力の前に検問兵が屈していく。
戦うことすら愚かだと身体の細胞に直接叩き込む揚羽の姿は既に悪魔。
揚羽が奥へと進んでいく。
それを確認した検問兵たちはこそこそと逃げ始める。
「まさか引退された揚羽様が来るとはな……」
「は、早く逃げるぞ……」
「あんなに怒り狂ってるあの人を見るのは三回目だ……」
「なんだよあの凄まじい覇気は……総隊長しかあんなの止められねぇよ……」
「と、とりあえず、不法侵入者として田中総隊長に報告――ッ!?」
逃げ出した検問兵の行く手には。
オルメス国が誇る最強と呼ばれる者がいた。
「お前たちコイツ等を拘束」
田中総隊長率いる大隊にあっけなく確保された検問兵たちは察した。
自分たちの悪事が全てバレていることに。
そして妙なことに全員が女性兵士であることに違和感を覚えた。
「どうして私がここにいるかわかる?」
「…………なぜですか?」
「女王陛下からの勅命を受けたからよ。だから諦めなさい。第二魔法師団は予定通り空軍基地全域に結界を張って周囲の眼を攪乱!」
「大魔法陣発動! 領域展開!!」
「もっと出力あげて! 魔法師名同士が闘うのよ! こんなボロい結解すぐに壊れる!」
「全員、出力を最大まで上げろ!!! 気合だぁ!!!」
「「「「「おおおおおッ!!」」」」」
指示役が声を張り上げる。
既に八割。それでボロいと言われたら全力しかない。
だが全力で魔法を使えばすぐにばててしまう。
それでも――やるしかないのだ。
田中総隊長に逆らえる人間を指示役は女王陛下と一人しか知らない。
それだけ怒らせたら超恐いのだ……。
最近ただでさえ機嫌が悪い……ここで弱気になれば。
「私たち第二魔法師団の本気を持って揚羽様の戦闘環境を作るぞ!」
「「「「「おおおおおッ!!」」」」」
田中の指示を受けた第二魔法大隊は空軍基地全域を覆う特殊な結解を張り外部から人が侵入できないようにした。
「第四騎士兵団は中から出てくる逃亡兵の確保と外部からの奇襲に備えて!」
迅速な動きであっという間に第三大隊が占領していた空軍基地を包囲した田中は「さて、決着つけに行きますか」と不敵な笑みを見せるのだった。
その笑みは味方にとっては頼もしい物でも敵からすれば恐ろしい笑み以外何者でもなかった。
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