(5)プランB

 そこには一人の男が写っている。


「なっ、何ですか、これ」


 写真の男は光沢を帯びた触手を身にまとっていた。顔面から足元に至るまで、その全身を覆いつくしている。


 悪趣味なCGだな。


「これが『東洋の誓い』の私兵です。ご覧の通り、単なる兵士ではありません」

「もちろんCGなんかじゃ………」

「ないです」


 だろうなぁ!


 俺は心の中で叫んだ。


 どれもこれも現実味がなさすぎて、頭がどうにかなってしまいそうになる。


 ………いや、もしかしたら既にどうにかなっているのかも?


「おふざけであれば、わざわざこんな手の凝った写真を作りませんよ」

「なら、この写真に写ってる触手は一体何なんですか?」

「詳細はまだ調査中ですが、教団が信者を対象に人体改造手術を行っているという情報が協力者から報告されましてね、おそらくそれによるものだと考えられます」

「………人体改造?」

「教団は超越した力を持った屈強な私兵を、大量に産み出そうとしているんです」

「………分からないな」


 小さな声でそう呟き、俺は班目さんに尋ねた。


「何故教団はそこまでして私兵の育成を急ぐんです?計画書ではそんなこと、全く触れられてなかったじゃないですか」

「すみません、説明が不十分でした。先程、貴方にお見せしたのはあくまで〝プランA〟の計画書なんです。それとは別に〝プランB〟なる計画も存在するんです」


 プランAに………プランB?


 あぁもうわけが分からない。


「プランB?」

「えぇ、計画書そのものはまだ見つかっていませんが、存在するのは確かです。大方プランAが失敗した際の保険として用意したんでしょう」

「で、そのプランBは一体どんな内容なんですか?」


 そう言うと班目さんは辺りを見回し始めた。


 何度も入念に確認してから、彼女は俺の方へ向き直った。


「これはあくまで予測ですが………」


 その声はとても小さく、さっきのヒソヒソ声と比較しても、かなり声量を抑えているのは明らかだった。


 プランBって、そんなにヤバいのか?


 身構える俺に班目さんは囁いた。


「………日本国内での武装蜂起が行われるだろうと見ています」

「ぶっ、武装蜂起?」

「プランAが失敗した場合、おそらく教団は武力で国家転覆を図ります」

「こっ、国家転覆?」


 彼女が発する言葉………その一つ一つが壮大すぎて、あまりピンとこない。


 だが彼女はお構いなしに話を続ける。


「日本政府を打倒し、『東洋の誓い』の教えに基づいた王国の樹立を狙っているんです。そうなれば我々は教団の下僕になってしまう」


 駄目だ。


 これ以上聞いてると、本当に頭がおかしくなってしまう。


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 俺は彼女に言う。


「話が複雑すぎて、頭の理解が追いつきません!もっとゆっくり丁寧に、噛み砕いて喋ってください!」

「………」


 班目さんは俺の言葉を聞いて黙り込む。


 彼女が再び口を開いたのは、それから少し経ってからだった。


「申し訳ありません。つい熱が入ってしまいました。ですが………」

「………ですが?」

「非常にまずい状況であることは知っておいてください。我々の日常に危機が迫っているんです」

「………」


 俺は彼女の言葉を聞きつつ、トイレの方へ目をやった。


「………すみません、トイレに行ってもいいですか?」

「どうぞ」


 俺は席を立ち、トイレへと向かった。


 そして男性用の個室に入り、中から鍵をかけた。

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