(2)バイト探し

 そうして俺は次の日から、新しいバイトを探し始めた。


 だがあの喫茶店の神バイトを最初にしてしまったためか、どの求人もかなりキツそうに思えてなかなか決められずにいた。


 ここから三駅行ったところにある、ファミレス。時給は最低賃金ちょうど。面倒な客に対応することを考えるとこれは割に合っていない。


 続いて引っ越しのバイト。一回の参加でかなり稼げるが、長時間拘束される欠点がある。最悪、大学生活に影響が出るかもしれない。これも無しだ。


 それから大学前のコンビニ。論外だ!論外!あんな重労働、俺に出来るわけがない!


 前に友人が一か月だけ、コンビニに勤務していたことがあるが、覚えなきゃならないことが多すぎてキツいとぼやいていた。


 たばこの銘柄、レジ前に並べるホットスナックの調理方法、郵送の手続きの仕方………。


 俺は臨機応変に行動することが苦手だ。とても務まらないだろう。


 そうしてひとしきり求人広告を見た後、俺はベッドに寝転がった。


 あのバイトが良すぎたために、すっかり目が肥えてしまった。これは果たして良いのか、悪いのか………全くもって分からない。


 俺はバイトのアプリを閉じ、SNSを開く。


 そして何気なく、いくつかのコメントを流し見した。


【SNSでのバイト募集に応募し、犯罪行為に加担か⁉都内在住の無職の男を逮捕!】


 へぇ~SNSでバイトの募集。物騒な世の中になったなぁ。


 そう思った俺は検索フォームを開き、そこに「#バイト募集」と打ち込んでみた。


 すると自分の想像を遥かに上回る、おびただしい数の求人情報がヒットした。


【バイトを募集します!日給は十万円です!単純作業ですので、難しくありません!応募される方はDMをください!#バイト募集#楽#副業】 


【ペットの犬が逃げ出してしまいました!探すのを手伝ってくれる方を募集します!謝礼金は七万円です!連絡、お待ちしてます!#バイト募集#犬#脱走】


【関東圏在住の方に限定し、ベンチャー企業でのバイトを募集したいと思います!場所は都内で、期間は一週間です!ホテル代・食事代はこちらが負担します!お給料は一週間で二十万円です!ご興味がある方は是非、お気軽に連絡してください!#バイト募集#関東#都内#ベンチャー】


 ………うわ、こんなにあるのかよ。


 ってか、これだけ怪しさ全開なのに応募する人がいるってことが信じられないな。


 俺はヒットした求人情報を流し見していく。


 どれもこれも給料がうん十万なのに、肝心の業務内容についてはあまり詳しく書かれていない。軽くふわっと記されているだけだ。


 こんなの、さすがに俺でも応募しないぞ。楽して稼げる………そんな旨い話、世界中のどこを探しても見つかりやしない。


 それは分かっている。


 スマホの画面をスクロールし、蔓延る情報の数々に目を通していく。


 そして俺は一件の求人情報に目を止めた。


【募集のお知らせ。条件:一年以上の長期間に渡って務めていただける方。給料は日払いの五千円………】


 俺は鼻で笑った。


 ここまでくるともはやギャグだ。 


 一年以上の長期間、毎日五千円を支払うだってぇ⁉そんな大金、どこから湧いてくるのか是非とも聞いてみたいものだなぁ⁉


 小馬鹿にしつつ、俺は続きを読み進める。


【………※条件あり。①バイトであることを明かしてはならない。②勤務中は本名を名乗ってはならない。③この仕事をしていることを誰にも話してはならない。以上の条件が満たせる方はDMをください#バイト募集】


 うおっ、ただでさえ怪しいのに条件付きかよ、しかも三つときた。マジモンの闇案件じゃないか。


 第一なんだよ、「バイトであることを明かしてはならない」って。


 明らかに本来の意図を隠す気がない!ここまで露骨な犯罪勧誘が他にあるか⁉


 それがあまりにも馬鹿馬鹿しくて、俺は一人でひたすらに笑い転げていた。


 ひとしきり笑った後、俺はあることを思いついた。


 ………こういう如何にもな情報にわざと引っかかって、話のネタを作るってのはどうだろうか?間違いなく盛り上がるぞ!


 今思えば、この時の俺はどうかしていた。いつもなら絶対関わろうとしないはず。おそらく一周回って恐怖心が薄らいでいたんだ。


 まぁ危なそうなら逃げればいいし、偽名を使えばさすがに足もつかないだろう。


 そのままの勢いで俺はDMの欄を開く。 


 全てはここから始まった。いや喫茶店の閉店が決まった時点で、既に始まっていたのかもしれない。


 この先に一体何が待ち受けているのか、当時の俺はもちろん知る由もなかった。


《初めまして。求人の案内を見て連絡しました》


 俺はDMの欄にそう打ち込み、送信ボタンを押した。


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