聖域の翼
demekin
第1話
「第一章 異変の始まり
1
ひんやりとした風が広大な樹海上空を拭き渡り、この世界の秋を深めていた。ここ、アゲイトと呼ばれる世界の樹海では、秋の深まりは風と共にやって来る。秋を深める風はまず樹海の北にある山脈を越えて樹海へと吹き降ろし、落葉樹の葉の色を緑から灰色に塗り替える。そして風が全ての落葉樹が葉の色を変え終ると、木の葉は枝を離れて風に飛ばされ青と水色と白に彩られた真昼のアゲイトの空を、粉々になるまで舞い続ける。樹海の秋を象徴する景色の一つだ。
葉の落ちた後の落葉樹の森では、様々な姿の生き物達が姿を見せる。時々巨大な樹々の枝や幹を、六本足の獣が駆け抜けていくだけだ。しかしそんな落ち葉舞う森の上空を掠め飛ぶ者がいた。五羽の銀色の羽毛に覆われた巨大な鳥とその背に騎乗する、緑の衣服を身に着け、同じ色の帽子を被った五人の人間達だ。
全身を銀色の羽毛に被われ頭に赤い冠毛を持つ巨大な鳥は、銀色に薄く金色の混じる翼を大きく広げ、少し長めの尾の付け根から伸びる飾り羽をなびかせながら樹海の空を緑の服を着た人間、樹海の鳥使いと呼ばれる人間と共にアゲイトの空を渡っていく。鳥使い達は、相棒の巨鳥と共に広大な樹海のあちこちに赴き、樹海の巨樹や生き物たちが生み出す様々な恵みを受け取ると、それを樹海周辺の町に持っていき、自分たちが必要とするものと交換する。鳥使い達は樹海の中でも普通の人間が入れない、深緑と呼ばれる樹海の大半占める場所に住み、何世代にも渡ってこのこのような生活を続けているのだ。そして今日も、銀色の巨鳥と鳥使い達は樹海の恵みを求め、樹海の空を飛び続けていた。
樹々の間を舞う無数の落ち葉を見て、銀色の巨鳥の背に装着した、足の無い椅子に似た騎乗具に乗った緑の衣服の人間……樹海の鳥使いと呼ばれる人間達は、自分達が今日の目的地に近付いているのを知る。この枯葉舞い散る森の上空を、北の山脈に向かって進むと、広大な川が見えてくるはず。この大河の流れに沿って暫く飛んでいくと、彼らが目指している場所がある。巨大な樹木が生い茂る樹海の中でも、ひときわ太い幹と枝を持った樹木、鳥使い達が肥えた巨樹と呼ぶ樹木が密生している場所だ。肥えた巨樹の森に行き、肥えた巨樹の樹皮や巨樹に寄生する植物を採集しに行くのが、この季節に鳥使い達が行う仕事の一つになったいた。鳥使い達と彼らが騎乗する銀色の巨鳥ベヌゥ達は、肥えた巨樹の森への旅の登城にあったのだ。
木の葉の嵐の中を飛び続け、舞い散る木の葉が少しづつ消えていくと、巨大な川の姿が見えてきた。そして川の姿を見付けると同時に、銀色の巨鳥達は次々と鋭い鳴き声を上げる。巨鳥た達は大河の流れに、何かを感じ取ったらしい。はたして鳥達は、何を感じ取ったのだろうか? 鳥使い達は巨鳥が感じ取ったものを確かめるべく、銀色の巨鳥、ベヌゥを大河へと進ませた。
鳥使いを乗せた巨鳥達が大河の流れの真上に来た時、さっそくそれは姿を表した。煌めく水面から突然、白い大きな生き物が姿をあらわしたのだ。大河に住む巨大な魚に似た獣、バイーシーだ。バイーシーを見るとベヌゥ達は、水面近くまで高度を下げバイーシーを追うようにして、川の真上を流れに沿って飛んでいく。ベヌゥ達は大河を見て感じ取ったのは、この大河に住む生き物だったのだ。そしてベヌゥ達が泳ぐバイーシーの真上来ると、バイーシーは水中から大きく飛び上がり、全身を巨鳥や鳥使い達の前にさらす。そしてバイーシーの見事な跳躍を目にしたベヌゥ達は、自分たちのすぐ下まで飛び上がったバイーシーに向かって一斉に鋭い鳴き声を上げる。この瞬間にベヌゥ達と、ベヌゥに何かを伝えに来たバイーシーとの意識の交流が成立したのだ。ベヌゥ達との一瞬の交流を終えるとバイーシーは、身体を旋回させてから水中に飛び込み姿を消し、ベヌゥ達は高度を上げて川面から離れ、大河の向こう岸に上空へと飛んで行く。バイーシーからベヌゥ達に伝えられ、ベヌゥ達から鳥使いへと伝えられて来たものを確かめる為に。
大河に住む生き物バイーシーは、銀色の巨鳥ベヌゥとの交流の中で、ベヌゥ達に驚くべきことを伝えていた。バイーシーがベヌゥ達に伝えたことは、ベヌゥを通じてパートナーの鳥使い達に伝えられ、鳥使いが持つ意識を共有する力、イドを通じて鳥使い達全員に伝えられる。そしてバイーシーが伝えたことの重大さを認識した鳥使い達は肥えた巨樹の森に行く予定を変え、バイーシーが伝えたあるものを確かめに為に、大河の向こう岸へと翼を進めた。
大河の生き物バイーシーが銀色の巨鳥達に意識を通じて伝えたものは、大河を渡った向こう岸にあるはずだった。大河の向こう岸には広い河原が広がっており、その河原を横切って進むと、高い岩壁が姿を見せ、ベヌゥと鳥使い達はその岩壁めがけて飛んでいく。そして岩壁へと近づいていく間に、岸壁にみえていたものが、恐ろしく背の高い樹木が密生する森なのをを確かめた。空に向かって真っすぐに立つ幹と、幹の上にだけ緑の葉をつけた枝がある大樹が密生する様子が、まるで岸壁の上に植が物茂っているように見せている。鳥使い達が守りの森と呼ぶ場所だ。大河の生き物バイーシーはこの場所のある重大な異変を感じ取り、肥えた巨樹の森に向かうベヌゥと鳥使い達を見付けるとベヌゥ達に異変の様子を伝え、姿を消したのだ。ベヌゥ達はその情報をパートナーの鳥使い達に意識を通じて伝え、ベヌゥ達から情報を受け取って行先を変えた鳥使い達はベヌゥ達と共に、さっそく守りの森で異変を探し始める。
異変はすぐに見つかった。大河から枝分かれして守りの森に流れ込む支流に沿って守りの森の上空を進んで行くと、深い緑色をした巨樹の森に茶色く変色している一画が、鳥使い達の目に入ってきた。異変を見付けた鳥使い達はそれぞベヌゥに高度を下げるように合図を送ると変色した森に近づき、森の上空を旋回しながら変色の原因が何かを確かめた。
守りの森の変色は、常緑樹が丸ごと茶色く変色しているのが原因だった。本来なら赤土の様な色の巨樹の幹や枝が暗い茶色に変色し、冬でも落ちない巨樹の葉が、焦げ茶色になっても枝に付いている。そんな巨樹の一団が、森に変色した区域を形作っている。なんとも無残な光景だ。巨樹の森の異変をベヌゥの背中から確かめた鳥使い達は、それぞれ森の上空を旋回するベヌゥ達に、巨樹の枝に止まるように合意識を通じて指示を送る。鳥使いの指示を受け取った巨鳥達は旋回していた上空から降下すると、変色した巨樹の横にあるひときわ巨大な樹木の枝に、ベヌゥ達を止まらせた。ベヌゥ達がそれぞれ巨樹の太い幹から真横に枝分かれしている太い枝に、一つの枝に一羽づつ止まると、鳥使い達はベヌゥの背中に装着した騎乗具と鳥使いの身体とを繋ぐ命綱を取り外し、巨樹の枝へと降り立つ。
巨樹の枝に降りると鳥使い達は、一斉に変色した巨樹に目をやり、変色の様子を観察した。樹海の異変をいち早く察知し、異変に対処するのも鳥使いの仕事だ。鳥使い達が変色した巨樹の観察を始めると、鳥使いだけでなく、ベヌゥ達も変色した巨樹を見詰め、自分たちが見た光景を鳥使い達の意識に伝えて来る。これで鳥使い達は、人間よりもはるかに鋭いベヌゥの目を通して見る事を、可能にしたのだった。そして鳥使い達と意識を繋げたベヌゥの目は、変色した巨樹の細かな様子を、鳥使い達に伝える。
まずベヌゥの目が鳥使い達に伝えてきたのは、巨樹の幹の表面の様子だった。護りの森の巨樹の樹皮は、普通なら明るい茶色をしているのだが、ベヌゥの目を通して見ると、変色した巨樹の樹皮はくすんだ茶色に変わっている。しかし樹皮は変色していても虫食後が見られたり、ボロボロになっているようなことは無い。
[あぁ、なんてこと……確か二週間前にはこんな異変は無かったはずなのに]
変色した巨樹を見ている鳥使いの一人、少し大柄な女性の鳥使いが巨樹を見た感想を、鳥使い達が持つ特別な力を使って他の鳥使いやベヌゥ達の意識に伝える。
[確かに、二週間前にここを通りかかった鳥使い達からは、何の異常も報告されていない。こんな速さで巨樹が枯れるとは、聞いたことが無い]
今度は年配の男性鳥使いが巨樹を見た感想を鳥使い達の意識に伝えた。
[虫の仕業なのかしら]
今度は鳥使い達の中で一番若い女性鳥使いが、自分が感じた疑問を鳥使い達に伝える。すると先の男性鳥使いが、自分の考えを鳥使い達に伝える。
[多分、虫では無いだろう。巨樹の表面に虫が開けた穴らしいものは無いし、樹皮がボロボロになってはいないし、虫が掘り返した後の木屑がついている箇所もない]
年配の男性鳥使いは、すぐに虫の影響を否定した。
[何か、感染力の強い病気で変色しているのでは?]
今度は鳥使い達の中で一番若い男性鳥使いが自分の意見を鳥使い達に伝える。そして年配の男性鳥使いは自分の意見と共に、ベヌゥが見た巨樹の様子も一緒に伝えてきた。ベヌゥの鋭い視力は、変色した巨樹の幹の細かな状態まで、しっかりと捉えている。ベヌゥの視点で見ると、巨樹の幹の表面はただ色が変わっているだけだ。しかし変色した巨樹の枝には茶色くなった巨樹の大きな葉だけでなく、焦げ茶色の塊となって枝からぶら下がっている葉もあった。
[守りの森の樹でこんな状態になったのを、初めて見たよ。普通巨樹が枯れたら、葉や小さな枝の多くは落ちてしまうものだ]
他の鳥使い達よりも少し高い枝にベヌゥを止まらせている若い男性鳥使いが、今の自分の気持ちを伝えてくる。
[あぁ、私もだ。おそらくこれだと、樹木全体が弱っているのだろう。此処に仕事で来た鳥使いが、ただ枝が変色しているだけだと思って、うっかり弱った枝にベヌゥを止まらせかねない。それ以上に、守りの森が全て枯れるのが恐ろしい]
若い男性鳥使いに続いて、年配の男性鳥使いが自分が感じた懸念を鳥使い達に伝えた。確かに、年配の鳥使いが思っているとおりだ。守りの森は、鳥使い達にとって大切な場所である聖域を取り囲むように存在する森だ。守りの森のおかげで、聖域は上空からでしか見えない隠された場所になつているのだ。
[モリオン]
[はい]
年配の男性鳥使いが、若い女性鳥使いにイドを使って呼びかけ、指示を伝えた。
[私と他の鳥使い達は、予定通り肥えた巨樹の森に行く。君は鳥使いの村に帰り、この状況を長老達に詳しく伝えてくれるかい]
[私がてすか? 長老ビルカ。今日はカサブタダケを取ってくると、薬草師に言ってきたんですよ]
年配の鳥使い、長老ビルカの指示に、モリオンと呼ばれた若い女性鳥使いは、困惑を隠さずに、自分の気持ちをイドで仲間に伝える。
カサブタダケはこの時期に肥えた巨樹にだけに発生する茸で、喘息の薬の材料になる茸だ。しかしこの茸は、樹の幹に発生すると三日間で大きく成長して採集するのに適当な状態になり、その後は一日でしぼんでしまう性質がある。今日中に採集しないと後がないのだ。三日前にカサブタダケが発生し始めたと言う知らせをきいたモリオン達にとって、今日がカサブタダケを採集できる唯一の日だ。この日を逃すのは惜しい。
[カサブタダケは私達が必ず、君が教えてくれたとおりに採ってくるよ。君には守りの森で見た事を長老達に、詳しく説明してほしのだよ]
[わかりました、長老ビルカ。村にかえります]
長老ビルカに諭され、モリオンは村に帰ることを決めた。モリオンへのイドの力を通じての指示と同時に、あるものを姿をモリオンの意識に伝えて来た。
[わかりました、長老ビルカ。村に帰ってこれのことを調べてきます]
長老ビルカの指示を受け取ったモリオンはすぐにパートナーである巨鳥ベヌゥの背中に飛び乗ると騎乗具と身体を命綱で固定し、他の鳥使い達に手を振るとベヌゥを飛び立たせる。そしてモリオンとべヌゥが惑星ピティスと三つの月が姿を見せている空へと上昇していくのを見ると、鳥使い達は一斉にパートナーのベヌゥに飛び乗り、モリオンとは反対の方向へと飛び立った。
若い女性の鳥使いモリオンを乗せたベヌゥは守りの森を飛び立つと、夕暮れが近づく中、鳥使い達が住む鳥使いの村に向かって飛行を続けた。枯れ葉が舞う落葉樹の森を抜けると、青と水色と白の入り混じった空高く上昇し、そこからは鳥使い達が住む村を目指してまっすぐに飛行を続ける。モリオンが鳥使い村への飛行を続けている間にも、様々な情報がイドを通じてモリオンの意識に伝わってくる。とんな異変なのかはまだはっきりしないが、どうやら異変が起きたのは、守りの森だけでは無いようだ。深緑と呼ばれる樹海の中心部で異変が起きているのは、守りの森と深緑の南にある柱の木の森だけだが、新緑を取り巻く樹海周辺部と呼ばれる場所では、五か所以上の異変が確認されているようだ。樹海に何が起きているのだろうか? モリオンは不安を感じながらベヌゥとの飛行を続け、夕方が近づくころには、鳥使いの村がある山に辿り着く。
鳥使いの村は、樹海にある切り株の様な形をした山の頂上につくられていた。広く平らな山の頂上には村に住む人々の住居や村人の生活を支える施設が数多く立ち並び、山の中腹には山腹をえぐり取ったような崖とその下の平らな広場の様な土地がある。この広場の様な土地は、ベヌゥ達の離着場になっている。モリオンとベヌゥが鳥使いの村の上空まで辿り着くとモリオンはベヌゥを、離着陸場に向かってゆっくりと下降していった。
パートナーのベヌゥが離着陸場に着地し地面に蹲ると、モリオンは命綱を外してベヌゥの背から降り、騎乗服と襟のあたりでつながっている帽子を背中にずらし、型のあたりさぁジェダイド、休憩場に入りましょう」モリオンがパートナーのベヌウ、ジェダイドに声を掛けるジェダイドは再び立ち上がり、モリオンと共に崖の下に開いている洞窟の入口に向かった。
洞窟の中に入ると、光を放つ特殊な石に照らされ、床に落ち葉が敷き詰められた空間が広がっている。この大きな洞窟の中は、飛行を終えた鳥使いやベヌゥ達が寛ぐ場所となっている。洞窟の中ではモリオンとジェダイドの他にも、三組の鳥使いとベヌゥが暫しの休息をとっている。モリオンはジェダイドを洞窟の真ん中あたりまで誘導すると背中の騎乗具を外し、他のベヌゥ達が寛いでいる横に座らせた後、洞窟の壁に近寄っていく。洞窟の壁には沢山のフックが取り付けられていて、騎乗具や布が掛けられていた。鳥使い達は仕事を終えると、騎乗具を自分専用のフックに掛けておいている。モリオンも騎乗具を自分のフックに掛けると、もう一つあるの自分専用のフックにかけていた布を持ってネフライドの元に戻り、ベヌゥの身体を丁寧に拭き始めた。飛行から帰った鳥使い達かする、いつもの日課だ。一通りネフライドの身体を拭き終わって布を元に戻そうとしたとき、モリオンは親しい女性鳥使いが洞窟の中にいるのに気づく。かつてモリオンを指導してくれた先輩鳥使いのカーネリアだ。これから仕事に行くのだろう、騎乗服姿で騎乗具を装着したベヌゥを連れて外の離着陸場へと歩いている。
「ただいまカーネリア」
モリオンは布をフックにかけるとカーネリアに声を掛け、ネフライトを連れてカーネリアと一緒に歩き始めた。
「これから仕事に行くの?」
モリオンはさりげなく、カーネリアにこれからの予定を聞く。
「えぇ、そう。これから発光石を取りに行くところよ」
カーネリアは、これから暗いところで光を放つ石、発光石を採取する仕事にだ。
「大変ねぇ」
発光石の採取は、石が光を放つ薄暗い夜に、専用の道具を使って行われる。一晩中かかることもある仕事だ。
「まあね。でも今から取りに行くのは、このあいだ村の近くの崖で見つかったものなの。すぐ帰れるわ。あなたは? ジェイドとは無上手くやってるの」
今度はカーネリアが、モリオンに訪ねる。
「もちろん、上手くいってるから安心して。ジェイドが樹海周辺部にいるときは会う事が出来ないけど、三週間前にに村に帰ってきてはずっと一緒にいるから」
モリオンは伴侶であるジェイド(カーネリアとは双子の兄弟)とは何時も一緒にはいられない。その代わりに二人ている時間を大切にしていることをカーネリアに伝わるように話し掛ける。
「私はこれから会議の間に行くところ。護りの無森の異変のこと、イドで伝わっているでしょ」
「もちろん。まぁ、大雑把にだけどね」
「私はこれから、自分が見た異変の様子を、長老達に説明しなきゃならないのよね」
離着陸場まで歩きながら、モリオンはイドの力で護りの森の異変のありさまを、カーネリアに伝える。
「なんとまぁ……早く良い対応策が見つかればいいけど」
枯れた巨樹の異様な有様に、カーネリアは眉をひそめて見せる。
「えぇ、でも原因が何もわかっていないの。
こまったことに……」
話しながらモリオンはジェダイドの背中を軽く二、三回叩。もう自由にしていいと言う合図だ。合図を受けたジェダイドは木の葉の上から立ち上がるとモリオンから離れ、仕事の後の食事をとりに、洞窟の入口へと歩いて行く。
「たいへんねぇ。でも、早く会議の間に行ったほうがいいわ。長老クリスタが待っているから」
ジェダイドが洞窟から出で行くのを見送ると、カーネリアは村の長老達の取りまとめ役である長老クリスタの元へ早く出向くよう、モリオンを促す。
「えぇ、そのつもりよ」
「頼むね、モリオン」
モリオンとの話を終えるとカーネリアは、ジェダイドの近にいるパートナーのベヌゥ、ブルージョンに近寄ってその背中に騎乗具を装着すると、パートナーと一緒に離着陸場へと出ていった。
「行ってらっしゃい、カーネリア」
モリオンはカーネリア達が洞窟から出ていくのを見届けると、洞窟の奥へと向かう。
洞窟の奥には地下に通じる階段があり、モリオンは長老達と話をするために、光を放つ石で照らされた階段を降りていく。階段を下り地下の通路を進むと、村の長老達が集まって話し合いを行う会議の間の扉の前に辿り着く。モリオンがゆっくりと扉を開け中に入ると、広い室内に置かれた丸いテーブルに着席した五人の長老と植物の専門家としての植物の治療師、灰色ノシャツと厚い記事で作られた黒いズボンを着たサイノンが待っていた。
「モリオンが参りました」
会議に間に入ったモリオンはまず、長老の印である丈が足首まである上着を着た長老達に一礼すると、長老達から声をかけて来るのを待つ。
「私達のそばにいらっしゃい、モリオン。事の次第は、ちゃんと全鳥使いと長老達に伝わっていますよ。もちろん植物の治療師にも」
真っ先に声を掛けてくれたのは、長老達の取りまとめ役をしている女性長老クリスタだった。モリオンはクリスタに言われたとおりに、長老達が着席するテーブルに近づいていく。テーブルの上には、集中力を高める降下のあるお茶の入った茶器と湯呑、そしてに三枚の絵が描かれた紙が置いてある。イドの力を持たない長老達や植物の治療師のために、元鳥使いの画家がイドを通じてみたものを絵にしたのものだ。
「よく仕事を中断してかえってきてくれましたね」
「有難うございます。長老クリスタ。でも、今は不安でいっぱいです。カサブタダケを採ったことがない人達に、仕事を任せてきたので……それに、仕事を中断して帰ったことを、製薬所に伝えていません」
クリスタが労いの言葉を掛けてくれたのに、
モリオンは自分の仕事の心配事先に口にしてしまい、気まずく思いをする。
「まぁここのところは、長老ビルカ達にまかせましょうよ。みんなないろんな仕事をしてきた人たちだから、大丈夫でしょう。製薬所へは伝令係が、事の次第を伝えに行きました」
モリオンが気まずく感じているのを察してか、クリスタは優しい口調でモリオンにかたりかけてくれる。そしてここから話は本題へと入っていく。
「長老ビルカがイドを使って、全ての鳥使いと長老達に、守りの森の状況を知らせてくれました。何とも奇妙な出来事ですね。まず変色した巨樹を見て貴方が感じた事を、説明してくださる」
モリオンがテーブルの横に立つと、クリスタはモリオンに守りの森の異変の様子を説明するように促す。
「はい、解りました。私は長老ビルカがかえってきたら製薬所に行か無ければならないので、そう時間がありません。しかし短い時間の中で、できるだけ詳しく説明したいと思います」
モリオンはテーブルに着席している長老達を前に、自分の見た事を話し始めた。
聖域の翼 demekin @9831
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