チャプター3:「超人」
ジョンソンと一個班は、戦闘捜索を行いながら街路を進み、街の区画を少し移動。
「――ッ、発見!」
一つの交差路を曲がったタイミングで。
その向こうに「それ」は発見され、エドアンズが知らせる声を張り上げた。
向こうに見えたのは、このナイスシーズの街の住民が十数名。そして保安官隊の数名の姿。
そしてその彼らが、漆黒の衣装装備の集団――「敵」に襲われる光景だ。
保安官隊と住民は街路の真ん中付近で、建物を背にして追い詰められてる。逃走の最中に、街路の前後から挟み撃ちにでも遭い追い込まれたか。
数名きりの保安官隊が住民を庇い護り、必死に戦っているが、。その護りはすでに崩され欠けていた。
一方の敵集団はモンスター――オークを前に立てて保安官隊を襲い、脅かし。
さらには馬の胴体よりも大きな爬虫類型モンスター――『陸竜』などと呼ぶべきか。
それを用いる騎兵、竜騎兵が。騎手が陸竜を操り吠えさせ牙を剥かせ、また保安官隊に住民を煽り脅かしている。
「数名、後方監視に着けッ。他は突っ込むぞッ」
保安官隊に住民等の状況に、最早一刻の猶予も無い。
ジョンソンはそう判断すると、数名に後方監視を、他の者には突入を指示。
そして直後には自ら最初を務め、大口径リボルバーを翳して、向こうへ踏み入るべく駆け飛んだ。
「妙な技で手間かけさせやがって……オラァァっ!!」
包囲襲撃の現場では。今まさに一体のオークが大斧を振りかぶり、拳銃の弾切れを起こした一名の保安官を、断ち切り屠らんとする瞬間があった。
「――ご゜ぴょッ!?」
しかし直後、その大斧が降り降ろされる前に。そのオークは米神から血飛沫と脳症を噴き散らかし、思いきり真横に吹っ飛んだ。
オークはそのまま側方向こうの地面に突っ込み沈み、そのまま動かなくなった。
「!」
襲われていた保安官は突然のそれに驚くが、次に別の気配を感じて振り返る。
そのちょうど瞬間。その場に遮蔽を踏み越え、ジョンソンが飛び込み現れた。
ジョンソンの突き出しているリボルバーからは、うっすらと硝煙が上がっている。
オークは踏み込んで来たジョンソンに、容赦なく頭部を撃ち抜かれ屠られたのだ。
「な――ごびぇっ!?」
そのジョンソンは、今に屠ったオークにはすでに興味も示さず。リボルバーの銃口を別方に向け、再び発砲。
別方の向こういた二体目のオークを、その脳天を撃ち貫いて屠る。
さらにそこへジョンソンに続くように。
サービスバトルライフル等を装備する、隊員等数名が続け飛び込んで来て。各個判断で射撃戦闘行動を開始。
まずは保安官隊と住民の周りから、敵を順次射撃にて退けて剥がし。場を確保して、保安官隊と住民を守るため隊形を構築展開。
そして場が確保され、隊形構築が成された所へ、さらに畳み掛けるように。
軽機関銃が瓦礫に据えられて配置。そして正面向こうで狼狽を見せる黒衣の兵たちに、唸り射撃掃射を注ぎ始めた。
「このまま押し上げろッ――ッ、あれは!」
ひとまずの隊形を成し、押し上げるための戦闘行動を始めたジョンソン等。しかしジョンソンは直後にすぐさま、新たな問題を向こうに見つける。
現在位置の、住民の主たる一団から少し離れた向こう。
そこに母親と女の子が分断され取り残され。数体のオークや、それを指揮するであろう竜騎兵に囲まれていたのだ。
その敵たちは、ジョンソン等の出現に狼狽を見せながらも。逃げて引くついでに母子を攫っていく気か、次にはオークたちが母子を脅かしながら引き放し、それぞれを乱暴に捕まえた。
「まずい、数名――ッ」
「私が行きますッ!」
「ッ!エドアンズッ!?」
ただちに呼応、救助を。そう思い指示の声を張り上げようとしたジョンソンだが、しかしそれよりもさらに早く。
一人、班を離れ飛び出し。向こうへ飛ぶように駆けて行ったのはエドアンズだ。
「――ッ!」
駆け、向こうへ距離を詰めながらも。エドアンズは次には構えた狙撃銃を発砲。
それは見事、向こうのオークの一体にヘッドショットを決めて崩し沈めて。捕まえられていた女の子を解放する。
しかしまだだ。
エドアンズはボルト操作での狙撃銃の再装填から、再び発砲。次にはまた別のオークが頭を撃ち抜かれ吹っ飛び、母親が解放される。
女の子はまず泣きながらも、真っ先に母親に走り寄り、母親も女の子を迎え抱き庇う。
方や、オークたちに竜騎兵は突然の事態に。立て続けに倒れ崩れた仲間、配下を前に困惑している。
「突っ込むッ」
それをチャンスと、エドアンズは駆け切りその場に突っ込んだ。
そして遠慮はしていられないと。次には女の子を抱く母親の服を、少し乱暴になりながらも掴み捕まえる。
「走ってッ!」
そのまま促しながら、母子を引っ張り連れてその場を駆け抜け。
そしてその先にあった商店建物の開けっ放しの扉に、ほぼ投げ込む勢いで母子を避難させた。
そこからさらにエドアンズ自らは、残る敵を相手取るべく。狙撃銃を構え直しながら身を翻そうとした。
「ッ!」
しかし――瞬間に彼女の身に走ったのは、殺気。
それを感じ取った瞬間、エドアンズは考えるよりも前に側方へ飛んだ。
その直後。今の瞬間までエドアンズが居た場所を、破壊が。
一体のオークが降り降ろした大斧の一撃が襲った。
「ッ゛」
その一方。かろうじてそれを回避したエドアンズは、退避した向こうに突っ込み転がり。身を打ちながらも視線を起こす。
「――!」
そしてエドアンズはそこで、自身が囲われている状況に直面した。
敵が狼狽する中を狙ったつもりだったが、敵の持ち直しは想定よりも早く。
エドアンズの飛び逃げた先では、二体のオークが待ち構え囲い。その背後には竜騎兵が忌々し気な様子で控えていた。
「なんだこいつは、アンデッドか!?やってしまえ!」
次には陸竜に跨る黒衣の騎手が、忌々し気に発する。
そして命じられるままに、オークの一体が大斧を振るい上げる。
方やエドアンズは、咄嗟の回避で身を打った影響か。嫌でも感じる危機の意識に反して、体が咄嗟に動かない。
ここまでか。エドアンズはそんな覚悟を心に浮かべる――
「――んなオイタァ、させるワケ無ェだろッ!!」
なにか、雑な言葉づかいで。張り上げた声が割り入ったのは瞬間だ。
「げびぇァっ!?」
そして、エドアンズに大斧を振り降ろそうとしていたオークが。しかし妙な悲鳴を上げて、身を拉げ曲げて真横へ吹っ飛んだのは同時であった。
「ッ!」
思わぬ現象自体に、また別の意味で目を剥くエドアンズ。
そしてしかし、視線を少し移せば。
そこに現れ立っていたシルエット――オークたちよりも、さらに一回り巨大な存在が目に映った。
2m半に届く程の身長。そして携えるはこれみよがしに太く強靭な肉体。
その肌色は少し灰色掛かった濃紺色。知らぬ者が見れば、新たなオークの同胞かと思っただろう。
しかしその青色の巨人は、今にオークを吹っ飛ばしたのは自分と誇示するように。戦闘靴を履いたその堅牢で大きな片脚を、蹴り張っ倒す形で突き出している。
そして、その巨体に合わせて誂えられてはいるが。纏うはジョンソンやエドアンズと同じ、カーキ色の作戦行動服にキャンペーンハット。
それは、VAC AFの隊員である事を示した。
――〝スーパー・ヒューマン〟。
とある薬学実験が元となり誕生し、その実験の暴走漏洩により世界にその存在が広まる事となった強化人間。一種のミュータント、メタヒューマン。
その恐怖される外見特性から、ユーダイドと同じく時には差別の対象となったが。
多くは荒廃した残酷な世界を、懸命に生きようとする咎無き者等であり。
VACは彼等をまた、力として、同胞として迎え入れた。
現れたのは、そのスーパー・ヒューマン(以降SH)のAF隊員。
もちろんジョンソンの指揮下の者であり。別のGW機から別箇所に降下した彼が、今丁度この場に駆け付けたのだ。
「――オォラッッ!」
「げき゜ゃっ!?」
そのSHの隊員は、一撃目より続ける動作で。今度は真横にその太い腕を振り払い。
その繰り出された裏拳が、横背後にいた二体目のオークの顔面に直撃。
SHのその腕力で、致命傷の域でオークの顔面を潰しながら。オークの巨体をしかし悠々と背後へ吹っ飛ばして沈めた。
「な、なんだキサマはァっ!?」
同胞と類似しながらも、しかし敵対行動を見せて来た、彼らからすれば正体不明の新手であるSH隊員に。
また近くに居た三体目のオークは狼狽の声で叫びながら。大斧を振り上げ、SH隊員に向けて降り降ろす。
「ハン」
しかし。それはオークよりも一回り体躯で勝るスーパーヒューマン隊員に、片手で易々と受け止められた。
「な!?――うァっ!?」
そしてSH隊員は。そのままオークの腕を捻り、脚を掬って転倒させ。
「がっ!うが……!?――びゃげ゜っ!?」
最後に、SH隊員はその強靭な脚で。プレス機で圧するが如き強烈さで、オークの頭を踏み抜き潰して、えげつなく仕留め屠って見せた。
「な……!?て、敵の亜人か!?く……掛かれ!陣形を組んで押さえ込めっ!」
正体不明の新手に、次々に屠られたオーク達を前に。残された竜騎兵は臆した様子を見せ、己は一騎引いて逃げながら。
配下の部隊をけしかけようと叫ぶ。命ずる言葉から、この場の指揮官級らしい。
それに応じて向こう背後では。ジョンソン等の隊に退けられ、一度引くことを余儀なくされていた敵兵たちが。雑ながらも隊形を立て直し、ドカドカと進み上げて来ていた。
オーク達が雑把な造りの木製の盾を構え、荒い隊伍を組んで再び押し上げ迫り。
背後には数名の重装鎧などの黒衣の兵が、何か命じるものらしき声を張り上げている。それは指揮命令のものか、もしくはなにか督戦に近いそれにも見えた。
「なんだアイツは!?」
「裏切りモンか!?」
「構うかヤっちまえっ!!」
荒々しい動きで押し上げ迫りながら。オーク達の荒げ張り上げる声が届く。
「いっしょにすんじゃぁ――ねェっつのッォ!」
しかし、当のSH隊員は。
その青肌の米神に青筋を浮かべ、不快そうに零しながらも。
次には下げ控えていたある「巨大な得物」を、繰り出し腰だめで構え。
そして――その「咆哮」を唸らせた。
唸り上げたのは――20mm機関砲。
原型は航空機関砲である物を改造し、SH隊員が個人で携行運用できるようにした凶悪すぎる代物。生身、あるいはそうでなくとも単身の存在に向けるには、残酷過ぎるそれ。
そかしそれが、向こうの敵の隊伍に、一切の容赦なく襲い注いだのだ。
――結果は、その射撃投射の一薙ぎで形となった。
オークたちの木製の厚い盾も、黒衣の兵たちの鎧も。
20mm機関砲弾の前には紙切れ同然であった。
一薙ぎされた機関砲の投射火線は、敵の隊伍を端から。並べた果実でも弾き砕くように消し飛ばし。
オークたちも、敵兵たちも、その大半は悲鳴すら上げる事無く。
己たちの身に何が起こったのかも気づけぬまま、血肉の欠片となって地面に散らばる末路を迎えた。
「――完了ォッ」
そしてその締めくくりを飾る様に、SH隊員が一声を上げ。
唸らせた20mm機関砲が、シューと砲身の熱し焼けた音を上げて伝えた。
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