Beyond Dust ―復興文明、幻想異界と激突す―
EPIC
邂逅編:「巨大な前哨戦」
チャプター1:「初撃」
――その世界、その地は。一度死を迎えていた。
大量破壊兵器の使用を伴う大戦争によって。その多くが破壊され、汚染され、無へと帰したのだ。
人の犯し、繰り返した過ち。
最早、希望は無いかに思われた。
――しかし。人はしぶとく、諦めが悪く。
そして、強かった。
死の世界となったその内で、しかし生き残った人々は。
抗い、あがき、生き抜き。
そして復興の火を灯した――
復興の道を歩む最中にあるその世界で。
彼――ジョンソン ナガイは産まれ、育った。
ジョンソンの産まれは、その荒廃した世界の内では、かなりの恵まれた環境のものであった。
彼の産まれは、〝VAC〟と言う国。
Variety Alive Country――「様々の生きている国」という意味。
在る形をそのまま国名として名称した、この荒廃した世界で再び興された一つの復興国家。
歴史を紐解けば。
VACの始まりは、一つの小さな生活コミュニティであった。
そこから年月を駆け、幾多の苦難を乗り越えて着実な復興拡大を辿り。
現在にあっては、総人口を数百万人にまで回復させるに至った、巨大国家となっていた。
未だ世界には、集落や部族、一独立組織の域を出ないコミュニティが多くある中。
それは頭一つ以上、抜きん出ているものであった。
そのVACの内で。ジョンソンは裕福とまではいかないが、貧しくも無い家庭に生まれ。
貧者の苦労も、裕福な者の苦労も知らずに育った。
健やかに育ち、学校に通い学び。
学者であった父の影響を受けて、自身も学者の道をまずは進み。
しかし同時に冒険心もその心に宿すジョンソンは。そこからVACの軍事組織である〝装備隊〟、AF(Arm Force)に。
技術資格者枠の士官試験を受験し、そして入隊。
今日までを、AFの士官兼学者として。
今現在も続く復興拡大に。それに伴う偵察調査に赴き、その前線に立つ日々を送っていた。
そのある日であった。思わぬ、驚愕の事態が舞い込んだのは――
そこは、ある地域の上空。
VAC本国の、首都である〝Age One〟からは大きく遠く離れ。
最近進出から確保掌握し、復興が始まったばかりの地域。
掌握地の拡大を続ける前線が近くにあり、まだ復興発展の最中にある一地域。
その上空を、12~3機程からなる飛行体――回転翼機、ヘリコプターの編隊が飛行している。
ずんぐりぼってりした機体シルエットが特徴の、旧式の連絡・観測・輸送用中型ヘリコプターが半数程を占め。
他には。
小型・小柄の、バブルキャノピーと骨組み剥き出しのテールブームが特徴の、偵察観測・軽戦闘用ヘリコプターが数機。
比較的整ったシルエットの汎用ヘリコプターに、武装を施した攻撃機仕様の機が少数。
その内の、ずんぐりぼってりした中型ヘリコプター――名称「グレート・ホエール」(以降GW)の内の一機。
指揮官搭乗機に、ジョンソンは乗り込んでいた。
編隊が目指すは、この先にある一つの街。
廃墟から再興させ、この周辺地域の復興のための拠点となっている場所。
――数時間前。
その地域復興の拠点となっている街から、緊急の救難信号に通信が届いた。
それにより伝えられたのは、正体不明の勢力からの襲撃の報。
通信はそれだけを告げ、怒号悲鳴を背後に届けたのを最後に途絶えた。
事態の発生時には近隣の別地域で。復興開拓支援のために展開していたジョンソンと、彼の預かり率いる大隊。
そのジョンソン等に、緊急事態に対応せよとの指令が降りた。
そして現在。街への救援に向かい、合わせて発生している事態を調査すべく。
ジョンソンは大隊より、先行のために必要な隊をピックアップ。自ら指揮を執り、ヘリコプターの編隊にて急行している最中であった――
「――ッー」
GW機の乗員・貨物室から、開かれたカーゴドアより身を乗り出す者の姿がある。
それが、ジョンソン自身だ。
現在は34歳。
180cm前半の身長体躯に、最低限だが鍛えられた様子を見せ。
その身に、VAC AFの用いるカーキ色の作戦行動服(フィールドジャケット)を纏い。茶系色のキャンペーンハットを被っている。
襟には現在与えられている、少佐の階級を示す階級章。
そのジョンソンは今。元より険しい造形のその顔を一層険しい色に作って、尖る眼を機上から向こうに向けている。
向こう遠くには、すでに件の襲撃の報があった街――「ナイスシーズ」の街が見えている。
大戦争にて廃墟となり、放置されていたものを。VACが確保して修復し、この地域の復興のための拠点とした街。
最近では復興グループや、立ち寄るキャラバンで賑わい出していたそこから――いくつもの火の手が上がっていた。
「応答は?」
「いずれからも無し」
ジョンソンはその光景に、一層顔色をまた険しくしながらも。一度GW機の機内に顔と視線を戻し、コックピットに声を向ける。
それに返されたのは、機を操る機長からの端的な返答。
ここまでに隊から、通信を用いて街への呼びかけがしつこく繰り返し行われていたが。それに対する返答は一切無かった。
ナイスシーズの街は、掌握地域の前線が進み拡大するに伴い、後方となり始めていたため。守備は最低限の保安官隊が居るのみ。
襲撃が大規模なものであるならば、相応の被害に惨状を覚悟しなければならなかった。
「皆目予測がつきませんね」
そこへ別の端的な声色で、近く隣から声が掛かった。
ジョンソンが視線を移してそこに見えたのは、機内のシートに座す一人の隊員。
真っ先に目を引くは、その異様と言える顔に容姿だ。
身長170cm程の身。纏う作戦行動服にキャンペーンハットの隙間に覗き見える、顔肌から手の甲までが――皺が刻まれ、渇き、ところどころが朽ちているのだ。
申し訳ないが言ってしまえばその姿は、まるで物語に出てくるアンデッドやゾンビを連想してしまうそれであった。
――〝ユーダイド〟。
世界の荒廃に伴い起きた環境変化により、その身が突然変異に見舞われた人々。
そのゾンビのような外見から、時には差別の対象となったが。しかしその容姿と引き換えに手に入れた身の強靭さに、毒物耐性はこの荒廃した世界で武器となり。
そしてかつ。姿になりながらも、懸命に生きる彼らを。
VACは「力」の一つとして、同胞として受け入れた。
そのユーダイドである隊員。ジョンソンの指揮下である「女」隊員のエドアンズ伍長は。
一言を零しながらも、自身の装備火器である7.62mm口径のボルトアクション狙撃銃を念入りに点検している。
彼女はAFの内でも、危険作戦を担うコマンドー隊員であり。合わせて前哨狙撃員(スカウトスナイパー)だ。
「あらゆるを、想定しておく必要がある」
ジョンソンは、そんなエドアンズにそう言葉を返す。
それは合わせて、機に同乗する指揮下の各員へ、心構えを告げるものでもあった。
「間もなく街へ進入経路に入る――おい、あれはッ?」
コックピットから声が届いたのはその直後。それは街への進入開始を告げようとして、しかし他の「何か」を見つけた事により変わり零された声。
「上空、太陽からなにか――」
次に寄越されかけたコックピットからの声は。
しかし、直後に側方向こうの宙空で上がった爆音に阻まれた。
「ッォ!」
カーゴドアより向こうの宙空に見えた光景。
それは編隊中の一機のGW機が、「攻撃」を受け。機体上のエンジンより炎を噴き、次には揚力を無くし降下、墜落していく光景であった。
《やられたッ、一機やられたッ!》
《GW52が墜落するッ!》
僚機の墜落を目の当たりにし、通信上に張り上げられる各機からの音声。
それを聞きながらもジョンソンは瞬間、編隊の近くを交差して飛び抜けた「何か」を見た。
ジョンソンはカーゴドアより身を突き出し、編隊の後方に去ったそれを視線で追いかける。
「ッ!」
そして見えた物に、ジョンソンは目を見張った。
向こうの空に飛び去る姿で見えたのは、複数体の飛行物体。それはいずれも、蝙蝠のような翼を持つ、爬虫類のような生物であることが遠目にも分かる。
《あんだありゃッ!?》
《嘘だろ――モンスター、「ドラゴン」かッ!?》
それがジョンソン一人の幻覚では無いと証明し、そして代わりに表現する声が通信にまた上がる。
言葉の通り、背後の向こうに姿を見せたそれは。お伽話に登場するような『飛竜』、『ドラゴン』そのものであったのだ。
《CF13及び14、空中戦闘行動に掛かるッ》
《JY3、続く》
奇襲の一手を受けてしまった編隊だが。ジョンソン率いる彼らは、次手以降も「敵」にそれを認めるような生温い考えは持っていなかった。
すぐさま編隊の内から、小型の偵察観測・軽戦闘用ヘリコプター――「チャイルドフレンド」機の二機が、機体を傾けて離れ反転。
さらに、武装型の汎用ヘリコプター――「ジェイコブズ」機もそれに続き。
襲撃を仕掛けて来た「飛竜」の群れを追いかける。
反転し追撃に向かって行った各機は、間もなく後方向こうの空でドラゴンの群れに追い付き、それらを相手に空中戦闘を開始。
会敵からの初手こそ、相手側に一手を認めてしまったが。
不幸中の幸いか。相手は未知数だが、攻略不可能な相手では無いようだ。
各機が宙空での交戦を開始したその直後。
敵の、奇襲成功の勢いに乗っての次手を、しかし現実を突きつけ挫くように。
チャイルドフレンド機の一機が搭載の20mm機関砲にて。一体の飛竜を見事仕留め、落としせしめる姿を見せた。
《撃墜、一機撃墜》
それを知らせる通信が、ジョンソンの身に着ける簡易無線にも届く。
「CFユニットおよびJYユニット、航空優勢確保はそのまま任せる。GW48はGW52の救助に向かえッ」
それを聞き、光景を向こうの空に見ながらも。
ジョンソンは指揮下のヘリコプターの各機に。空中戦闘からの上空制圧を任せ、または今程に撃墜されたGW機の救助を指示。
「本隊は所定通り、このまま街に進入降下するッ」
そして、編隊主力の各機には。このまま本来の任務を継続する旨を、張り上げ伝えた。
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