第18話 ものすごい掘り出し物


「なにをやってるんだよ、ショウタ?」

「地図で検索しているんだ。掘り出し物をね」


 そう、俺の地図なら、何万と並ぶ商品の中から、お値打ち品を見つけ出してくれると考えたのだ。


「おもしろそうじゃないか! 早くやってみてくれ」


 検索ワードを『掘り出し物』にして、俺は画面をタップした。


「おわ、赤いマークが無数に出てきたぞ!」


 あまりの多さに検索した本人が驚いてしまったよ。

 リストの数は百以上だ。

 ここに出品されているのは盗品が多いから、定価よりずっと値段が安いのかもしれない。

 もしくは本当の価値がわからない素人が販売をしているかのだろう。


「どうするんだ、ショウタ? これじゃあ確認しているだけで日が暮れちまうぞ」

「そうだなあ……。検索ワードを『掘り出し物』にするからヒット数が多すぎるってことだろう。だったら『すごい掘り出し物』、いや『ものすごい掘り出し物』で検索してみよう」

「それだ!」


 たちまちリストの数は減り、赤いマークは七つだけになった。

 だが、このうちの四つは美術品である。

 絵画だの壺だのには興味がないので、こちらは省いてしまうか。

 そういうのは生活に余裕が出てからだ。

 いまはもっと、役に立ちそうな魔道具なんかが欲しいのである。

 転売を好きにもなれないしね。

 俺は実利よりロマンを選ぶ男なのだ。


「買うとしたらこの三つだな」


 俺はリストをレミィに見せた。


 浮遊マント(500レーメン)

 カーキ色をしたボロボロのマント。

 裾の糸がほつれて、いくつも垂れ下がったボロボロのマント。

 これを着た状態でほつれた糸を一本切れば、ふわふわと浮かぶことができる。

 ただし空を飛べるわけではない。

 あくまでも浮くだけである。

 強風に流されないように注意が必要。


 エカテリーナの乗馬鞭(2000レーメン)

 全長35センチメートルの短い乗馬鞭。

 力強き大地の精霊の力を借りた攻撃ができる、地の精霊使いにのみ使える武器。

 持ち手の底部を回して出力が調整できる。

 その威力は岩をも一撃で砕くほど。

 大昔の女帝が愛用していた鞭。

 女帝エカテリーナは数多の求婚者をこの鞭で打ち据え、生涯独身を貫いたという伝説が残る。


 隠形の札(10レーメン)

 極東の呪術者が生み出した御札。

 額に張れば他人から姿が見えなくなる。


 画面を覗きながらレミィも興奮気味だ。


「こんなお宝、滅多に見つかるもんじゃないぜ。それがこの価格で買えるなんて!」

「だけど、本当にそんな能力があるのかね?」


 画面には商品の写真が載っているけど、どれも古く、汚い。

 とてもそんなすごいアイテムには見えないぞ。


「だからこそ、アホな人間どもには真価がわからないのさ。どれもお値打ち価格だぜ。買っちまえよ」


 いちばん高い女帝エカテリーナの乗馬鞭でさえ2000レーメンだもんなあ。

 迷うことはない、騙されたと思って買ってしまうとするか。

 俺たちは蚤の市をまわり、三つのアイテムをすべて購入した。



 買い物を終えると、すでに正午をかなり過ぎていた。

 パンと煮込みを売る露店があったので昼飯はそこですませることにした。


「くず肉の煮込みらしいけど、けっこう美味いな」


 大鍋で作る煮込みにはスジや内臓などの部位が使われている。

 値段は安いが期待以上の味だ。

 硬くてボソボソするパンも、煮込みのスープに浸して食べればそれなりに美味しかった。


「ショウタ、飯を食い終わったらアイテムを試してみようぜ」


 もぐもぐと煮込みを咀嚼しながらレミィが提案してきた。

 本当によく食べる妖精である。

 そのくせ魔結晶での魔力補給も定期的にしたいらしい。

 まあ、魔力贈りのついでだからいいんだけどね。


「俺もそう思っていたんだ。目立つのは嫌だから、人目につかないところへ行って実験してみよう」


 食事を終えた俺たちは郊外へと足を運んだ。

 都ではあるが、2キロメートルも歩くと森があり、そのあたりに人はいなかった。


「どれからいってみる?」

「まずは鞭からやってみようぜ。ちょうど大きな岩もあるし」


 背の高い樹々に囲まれて、これまた大きな岩があった。

 高さは1・5メートルくらい、横幅は2メートル以上もある。

 地の精霊使いのみが使えるようだが、俺はどうなんだろう?

 俺、自分の属性がなんだかよくわかんないんだよね。


「ショウタなら大丈夫さ。地の精霊たちもきっと力を貸してくれるって」

「よーし。大地の精霊たち、俺に力を貸してくれよ」


 持ち手の底部についた黒い金具を回し出力を最大にする。

 お、足元から力強い応援を感じるぞ。

 姿は見えないけど、大地の精霊さんたちが動き出したのだろう。


「大地の精霊たちが喜んでるぞ。ショウタに助太刀できるのが嬉しいみたいだ!」


 俺はエカテリーナの鞭を振りかぶり、大上段から思いっきり岩を打ち据えた。


 ガーンッ!


 真っ二つに割れた岩を見て俺の腰まで砕けてしまったよ。

 これも精霊たちが力を貸してくれたおかげか。

 だけど、こんなものを人間には使えないな。

 即死どころの話じゃない、体は破裂し、全身の骨が粉々になってしまうだろう。


「驚いたな、ここまですごいアイテムだなんて……」

「大地の精霊たちが偉そうに胸を張っていやがる。あいつらのドヤ顔をショウタにも見せてやりたいよ」


 大地の精霊のドヤ顔か、俺も見てみたいよ。

 きっといい顔をしているんだろうな。


「よし、鞭の威力はよくわかった。次はマントの力を見せてくれ」


 レミィのリクエストがあったので、俺は畳んでおいた浮遊マントを広げた。

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