第36話 跡

スタルツィアを出てシュタレスティアに入る。


屋敷へ帰るための森に入るとユーリス様の様子が変だった。


「ユーリス様…?どうかなさいましたか…?」


「跡をつけられている。」


「え!?」


馬車の小さい小窓から見ようとすればユーリス様に止められる。


「怖いでしょ?見ないで。」


ユーリス様は私の手を強く握る。


「ユーリス様、いつからつけられていると…?」


「スタルツィアを出る少し前からみたいだ。」


みたい…?


「みたいってどういう…」


「跡をつけてきている奴らをスタルツィアを出るときに見たんだ。怪しいとは思ったが大して気にしていなかった。だけど、シュタレスティアに入ってから確信したよ。跡をつけられているってね。」


気づかなかった…

まさか自分たちが跡をつけられているなんて…

なぜ、私たちが跡をつけられなければならないのか分からない。


もしかして、私たちが調べようとしていることに関係が…?


そうやって考えていると、突然馬車が止まる。

突然止まったせいで私は座っていた椅子から落ちそうになった。だけど、それをユーリス様とレイスが支えてくれたおかげで何もなかった。


「なんだ、突然。」


周りを見れば、あの時と同じ光景…

そう、私がこの国に来たとき、盗賊たちに囲まれたときと同じ光景だった。


「囲まれてるな…」


どうすれば…

見た感じ、あの時の盗賊たちより人数が多い。

これじゃ、ユーリス様一人では手に負えない。


「マーガレット。ここで大人しく待っていてね。」


私の頭を撫でて、外へ出ようとするユーリス様。


ユーリス様は一人でどうにかするつもりだわ…!

ダメ…この人数ではいくらユーリス様でも無傷でいれるとは限らない。リスクはあるけど…やるしかない。


「レイス。あなたはここにいて。」


「マーガレット様…?」


「あなたはここで自分の身を守っておくのよ?いることがバレないように姿勢を低くして隠れておきなさい。」


「でも、マーガレット様は!?」


「…レイス。心配しないで。私は大丈夫だから。」


「でも…!!」


「主人の命令よ。」


「…っ!」


ごめんね、レイス。こう言えばあなたは何も言えないでしょ…?大丈夫。安心して。必ず、あなたの元へ帰ってくるから。


「マーガレット。俺は一人で大丈夫だから。」


そう言っているけど、ユーリス様も分かっているはず。この人数相手に一人で立ち向かうなどどれだけ大変なことか。


「ユーリス様。今は、ユーリス様のお願いを聞くことはできません。この人数をユーリス様一人で相手をするというのはいくら腕が良く、スピードもあるユーリス様でも大変です。私もお手伝いいたします。」


「ダメだ。危険だよ。ここにいて。」


「何を言われようと私はユーリス様と共に戦います。私も剣術を嗜んだ身ですよ。安心してください。派手なことはしませんから。それに、お怒りでしたらあとで聞きますから。今はもう、時間がありませんよ…!」


そう。こうやって話しているうちに、敵が近づいてくる。窓からチラッと見えた。沢山の人たちの中に、あの時私とレイスを襲った盗賊がいた。


「ユーリス様。あの中に私たちを襲った盗賊がいます。」


「…盗賊団ということだね…」


「はい。」


「マーガレット、君に一つ剣を貸すよ。俺のそばから離れすぎないようにね。だけど、無理はしないこと。危なくなれば、すぐに隠れて。あと、屋敷へ帰ったら覚えておきなよ?」


「…はい…ありがとうございます…」


そして私はユーリス様から剣を受け取り、馬車にレイスを残して馬車の外へ出た。もちろん、馬車の扉をきちんと閉めてね。

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