霊童忌憚
一途貫
壱 墓石の怪童
時は戦国。世は戦人が散らす闘争の血と、人の死に導かれし妖魔にまみれていた。都は飢えと渇きに満たされ、里には恐れがはびこる。登る者の絶えたこの山にも、今や一人の剣士が歩くだけであった。橙に暮れた夕日を背にし、剣士は木々がざわめく山の中を進む。藍染めの袴を羽織り、獣道を踏み抜く。上衣の袖から覗く引き締まった腕は、戦を切り抜けてきた剣士とは思えぬほど色白い。だが、その手は小柄な身の丈にそぐわぬほどの太刀を携えていた。魔性の類いを怖れぬその黒き瞳は、畏怖さえ感じられる。
この剣士、名は『
さても、この剣士が山に入った故も、その生業のためにある。かの剣士の雇い主曰く、この山には人を食らう妖怪がいるそうだ。山の奥深くに潜み、死霊共を操り、人に災禍をばらまく。その姿は童に見えれば、入道雲ほどの大きさの化け物に見える、奇怪な妖魔である。骨も残さず喰われるため、人々は妖魔を追うことは能わない。やがては野に棲む獣達も、その化け物を忌み嫌った。
山を宵闇が覆い始める。妖魔共が地から這い出る刻がきた。蒼は獲物を射るが如く目つきで、木々を見渡す。鞘に手をかけ、いかなる時でも抜き出せる体勢に入った。用心深く、草履で草木を踏みしめる。煩わしい日輪が失せたためか、木枯らしが叫び声を上げるように蒼に吹き付けた。後ろ髪を結う紐についた銀の鈴が、見えざる者共を怯えさせるように高鳴る。蒼は何かの気配を感じ、太刀を鞘から半分抜き出す。肌に当たる空気が冷たい。山々に生える丈の長い草が、蛸の触手のように不気味に揺らめく。風も鎌首をもたげるように、地に落ちた枯れ葉を薙ぐ。
その時、蒼の背後に、青白い人魂が現れた。蒼は太刀で切り払おうとするも、鞘を抜きかけたところで手を止める。木々の隙間から次々と人魂が現れ、蒼の側を通り抜けた。人魂達は、見知らぬ訪問者のことなど気にもとめない。蒼にはそれが何やら不吉なことの前触れだと感じられ、人魂の後を追う。青白い人魂の輝きは、山肌を行灯のように照らす。退治屋を怖れて逃げているつもりなのか、はたまた山に迷い込んだ命ある者を、人ならざる力でくびり殺すつもりなのか。蒼は得体の知れぬ死霊達から、一切の視線をもそらさず捉え続ける。急な山の斜面をものともせず、人魂達は波打つように草をかき分け登っていった。だが、蒼も死霊達と一定の距離を保ち続けたまま、山を駆け上る。各地を妖魔退治で渡り歩いたこの剣士にとっては、山の獣道を上ることなど造作も無い。藍色の具足に包まれたしなやかな足が、叢を散らしていく。
人魂が山の奥に入る頃には、日輪も沈みきり、山は
「あれ? お侍さん。そんなところで何してるの?」
童は蒼の気配に感づいたのか、霊を撫でるのを止めて立ち上がる。着ている白い半纏はすり切れ、長年着回しているようだ。骨張った華奢な手足も、泥にまみれ土気色になっていた。とてもではないが、生者とは思えない。透き通り、今にも消えてしまいそうな声。はたしてこの声に騙され、喰われた人間は幾人に及ぶのだろうか。霜雪に染まった髪は束髪されておらず、禿髪のように伸びきっていた。声色からして、おそらく男子なのだろう。だが、肉が落ちて落ち窪んだ瞼から覗く大きな瞳は、あどけない童とはほど遠い。死霊のみを映す瞳は、不気味ささえ感じられた。その姿は、人の子より夜叉の子に近い。蒼は太刀を半分抜き、童を睨めつける。人魂達は水鳥が田から一斉に飛び立つように狂騒した。
「そなた、何者だ? 何故この山に居る?」
「僕? 僕はこの山に住んでいるんだ。お侍のお姉ちゃんこそ、なんでここに来たの?」
漂う人魂のように、生気の感じられない悠々とした口調の童。蒼は太刀を抜き放ち、その切っ先を童に向ける。鋭く光る白銀の刃に照らされ、蒼の瞳も灰色にぎらつく。
「私は妖魔を屠る退治屋だ。この山に人を喰らう妖魔がいると人づてに聞き、退治しに参った。そなたが件の妖魔なれば、今ここで斬り伏せてくれよう」
蒼は刃のように冷たい口調で言い放つ。その目には、情など一切無かった。退治屋としての、残酷なまでに冷徹な瞳だ。だが、童はまるで自分の身など意に介さないように、墓石の前に立っていた。人魂達は童を取り囲み、威嚇するように激しく発光する。
「僕、人なんか食べたことないよ」
「嘘を申すと今すぐにでも斬るぞ。この死霊共に、人々を襲わせたのだろう」
蒼の脅しにも、童は動じない。だが、童を取り囲む死霊達が騒ぎ出す。その中でも、ひときわ大きな人魂が、童と死霊を守るように現れた。青紫色の大きな人魂は、蒼を憑き殺さん勢いで、大気を揺るがす。蒼もこの巨大な人魂を斬り伏せんと、太刀を構えた。蒼の持つ太刀はただのなまくらではない。破魔の力によって打たれた霊刀だ。人はおろか、妖魔も斬ることさえ造作もない。太刀を両手で握り、蒼は人魂達と距離を詰める。手慣れた太刀筋で、蒼は刀を振りかぶった。
「待って、父ちゃん」
童は大きな人魂の前に立つ。童は何やら、死霊達に話しかけていた。今まさに切られんとする身とは思えぬほど、穏やかな口調だ。その時ばかりは、蒼は目の前にいる童が、ただの男の子と変わらぬように思えた。青紫色の人魂が、不服だと言わんばかりにせわしなく明滅する。
「大丈夫だよ。あの人はきっといい人だよ」
童が人魂と会話する様子を見て、刀を降ろす。死を目の前にしても顔色すら変えない童の姿は、蒼には気味が悪いと同時に、違和感さえあった。どうもこの童は、殺気が感じられない。むしろ、死を隣人か何かと思っているようにも感じられた。かつて蒼と相対した妖達は、どんなに本性を隠そうが、死を前にすれば殺気立ち、襲いかかった。だが、今はどうだ。この童は自分を斬りに来た退治屋に襲いかかろうとしない。あろうことか、死を目前として、言葉を交わす余力すらあるのだ。本当に、この童が人を食う妖魔なのだろうか。蒼の胸の中に、靄のようなものが渦巻く。騒ぎ出す人魂達を背に、童は蒼の前に進む。土にまみれた細い足からは、想像もつかないほどしっかりとした足取りだ。
「……いいよ。僕を斬っても。父ちゃんが言ってた。死んだら、幽霊になれるって。父ちゃん達と同じ幽霊になれるなら、僕は全然怖くないよ」
蒼は童の突然の行動に、すぐさま刀を突きつける。これは謀っているのだろうか。それとも本心なのだろうか。蒼は目を細める。人魂達がすぐさま、童の周りを取り囲んだ。先ほどとは異なり、威嚇ではなく童を守るようだ。切っ先を見据える童の瞳は僅かに揺らいでいた。何処か儚い光が、一瞬瞳の中をよぎる。訴えかけるように、人魂達は何度も発光した。
「みんなと一緒になりたいんだ。だからお姉ちゃん、僕を斬ってよ」
切っ先を掴み、童は首元に当てる。手から血の雫が垂れても尚、童は悲鳴一つあげない。青紫色の人魂が、即座に童の手をつかみ、刀から遠ざけようとする。だが、実体を伴わないその体は、童の手を通り抜けるだけであった。首元に死が近づく童の子には、無邪気な笑顔が浮かんでいた。顔をしかめ、蒼は童の手を刀から離させる。
「…………止めだ。死を願う者なぞ、気味が悪くて斬る気も起きぬ」
蒼は苛立たしげに刀を鞘に収めた。自分を斬るのを止めた退治屋の姿を、童は不思議そうに見る。
「あれ? 斬ってくれないの?」
「止めだと言っている。二度も言わせるな」
語気を荒くする蒼。ここまで死を願うとは。蒼には、この童が並みの妖魔よりも恐ろしく思えた。だが、蒼とて退治屋。依頼を受けた以上、引き下がるわけにはいかない。現に、この山に人食いの妖魔が現れ、里人が食い殺されているのだ。今、この童が牙を剥かずとも、いつか本性をさらけ出すのかも知れぬ。斬らぬとは言えども、蒼はこの怪童に心を許そうとはしなかった。
「だが、今夜はここに居させてもらおう。そなたが仮に妖魔ではないとしても、私はこの山の妖魔を斬るという役目があるのだ」
「うん、いいよ。お姉ちゃんは悪い人じゃなさそうだし」
蒼は墓石の側に腰を落ち着ける。童は胸を弾ませ、蒼の方へとたどたどしい足取りで行こうとした。だが、それを拒むように、蒼は鞘に入ったままの太刀で、童を制す。
「勘違いするな。私はそなたを信用したわけではない。少しでも人を食うそぶりを見せたら、すぐにでもこの太刀で斬るぞ」
太刀に阻まれ、童は不満げに肉のない頬を膨らませる。こうしてみると、普通の男の子と変わらない。異様に痩せていることと、人魂と言葉を交わせるという点を除いては。蒼は距離を置いたまま、人魂と戯れる童の姿を見ていた。
夜も更け、虫の音も静まった頃、蒼の腹の虫も鳴り始めた。蒼は腰帯に下げた包みから、握り飯を取り出す。異形の者がいるとはいえ、空腹では戦うことすら敵わぬ。蒼は横目で童と人魂達を見つつ、握り飯を口に運ぶ。童は相も変わらず人魂達と戯れていた。時々、童は物欲しそうな顔で、蒼を見る。ふと、蒼はこの怪童に興味が湧いた。山中に住む奇妙な童は今までに見たことがない。ましては霊と戯れる童など。
「そなた、名は何という?」
「僕? 僕は“ミタマ”。父ちゃんが付けてくれた名前なんだ」
蒼に話しかけられ、ミタマと名乗った童は蒼の方に身を乗り出した。だが、蒼が太刀に手を掛けるのを見てすごすごとたじろぐ。
「父? その人魂のことか?」
「うん、僕の父ちゃん。みんなは“オヤダマ”って呼んでるんだ」
ミタマは、ひときわ大きい青紫色の人魂に体を寄せる。親玉というだけあり、蒼の肌に感じられる霊気も、明らかに他の人魂達とは異なっていた。その輝きは神々しく、畏怖さえ感じられる。
「霊が父とは面妖な。そなたは生まれてから今に至るまで、この山に棲んでいるのか?」
「うん、生まれてからずっと父ちゃん達と一緒だよ。父ちゃんはちょっとおっかないけど、とっても優しいんだ」
人間との対話は初めてであるのか、少し声を弾ませるミタマ。だが、オヤダマは警戒するように、ミタマの側を離れなかった。蒼も太刀から手を離す気にはなれない。このオヤダマも、人を喰らう恐ろしい妖魔なのかも知れない。いくら人魂達とミタマが楽しげに話していても、蒼の緊張の糸はほぐれなかった。ミタマと霊達が交わす言葉は、蒼には聞き取ることができない。所詮は化生の者。会話をすることも能わないのだろう。蒼にはそれが、何処かもどかしいとさえ感じられた。今まで蒼が斬ってきた妖魔には、人の言葉を紡ぐ者もいた。だが、言葉の形こそ人の物だが、中身は心なき妖魔の物であったのだ。もし、妖魔と言葉を交わし、命を散らす事なく事を納めることができるのであれば。不意に浮かんだ、叶いもしない願いを消し去るように、蒼は首を振った。
「ねえ、お姉ちゃんはなんて名前なの? どうしてタイジヤなんかになったの?」
いつの間にかミタマが蒼の顔を覗き込んでいた。虚ろだった瞳は、好奇心に揺れている。蒼は素早く墓石から離れ、近くの杉の木の側に腰掛けた。
「言ったはずだ。私はそなたを信用していない。妙な詮索はよせ」
蒼は心を閉ざし、冷たく言い放つ。ミタマは肩を落とし、人魂達の側に座った。死人のような
「…………蒼だ」
「アオ? それがお姉ちゃんの名前なの?」
「…………」
ミタマは食い入るように蒼と距離を詰める。先ほどのやりとりで蒼は疲れ果て、もはやミタマを追い払う気にもなれなかった。残った握り飯を全て頬張り、蒼はそっぽを向く。
「よろしく、アオ姉ちゃん」
自分を追い払わないと分かった途端、ミタマは嬉しそうに蒼の背中に触れる。霊に魅せられている身でありながら、ミタマの手は存外暖かい。魂の抜けた人形のような顔も、天真爛漫な子どものようだ。小枝のような手だが、僅かに生気が感じられた。
「馴れ馴れしいのは止めろ。餓鬼は嫌いだ」
蒼はミタマの手を払う。軽く払ったつもりだが、ミタマの体はたやすく草むらの上に転がる。オヤダマはすかさずミタマの前に躍り出て、激しく威嚇した。蒼はミタマに背を向け、墓石の裏に隠れる。
「でも、アオ姉ちゃんはやっぱり良い人だよ。山の麓に住んでいる人は、僕に石を投げたり、『バケモノ』って言って怖がっちゃうけど、お姉ちゃんは刀を抜いても、僕を斬ったりしないからね」
ミタマは俯き、墓石の裏にいる蒼に語りかける。人魂達が、蒼に寄り添うように集まった。こんな童が、本当に人を食うのだろうか。元より人食いであれば、いつでも蒼に襲いかかって食えたであろう。蒼の胸中の靄が、ますます渦を巻く。だが、退治屋である以上、蒼はそれ以上ミタマに近づかなかった。
「そなたが私を食おうとせぬから斬らぬだけだ。私は退治屋。そなたは妖魔。お互い気を許せる間柄ではなかろう」
蒼は突き放すように吐き捨てる。ミタマは何か言いたげに唇を動かしたが、ついぞ言葉が出ることはなかった。夜風に包まれ、ミタマの目はまどろんだ。眠たげなあくびをし、ミタマはオヤダマに抱きつく。淡い光で、オヤダマはミタマを包んだ。人魂達も、互いの身を寄せ合う。
「でも……嬉しいよ……。僕、人間とこんなに話したの……初めてだよ」
寝言のように、小さく呟くミタマ。赤子のように体を丸め、ミタマはオヤダマに身を預けた。
「童は早く寝ろ。それから、私のことは蒼でいい」
「うん、おやすみ……アオ」
ミタマは夢見心地の面持ちで、ゆっくりと目を閉じる。眠りに落ちるとミタマは、あどけなく、童らしい寝息を立て始めた。蒼はひとまず安堵し、墓石の裏に寄りかかる。この怪童が寝ついている間は、蒼もしばしの間、依頼の事を忘れられた。墓石の裏から、蒼は顔を出す。ミタマは安らぎに満ちた顔をしていた。その姿は
「案ずるな。そなたの熱のない身体なぞ布団にすれば、あの童は風邪を引くと思っただけだ」
人の言葉を、オヤダマは一言一句理解しているかなぞ、蒼は知りもしない。ただ、蒼の言葉を聞くと、オヤダマはそれ以上何もしなかった。一日の疲労が大波のように押し寄せ、蒼は墓石に身を預ける。蒼は木々の隙間に覗く夜空を見上げた。雲一つ無き夜空だ。この夜空の元に、人を喰らう妖魔は本当にいるのだろうか。蒼は疑念を振り払うように、顔を俯けた。どうも気に掛かる。蒼は退治屋となってこの方、他人に興味なぞついぞ持ったことがなかった。あるのは依頼の話と、報酬だけだ。それがどうだ。今は童一人の寝付きすら気になって仕方が無い。空模様とは対照的に、蒼の胸中には靄が広がる。靄を忘れ去るように、蒼は目を閉じ、自らを夢の中へと投じた。
鳥のさえずりに耳をくすぐられ、蒼はゆっくりと瞼を開ける。木漏れ日が朝を告げるように、墓石に降り注ぐ。蒼は大きく伸びをし、墓石の裏からミタマの様子をうかがう。ミタマはうずくまり、何かを咀嚼していた。時折、手から何かの汁がこぼれ落ちる。蒼の頭の中が凍り付く。自分の中によぎる予感に突き動かされ、蒼は太刀を取り、ミタマの前に躍り出た。
「あ、アオ。おはよう」
ミタマは何かを頬張ったまま、顔を上げる。その手には、食べかけの柿が握り締められていた。よほど腹が空いていたのか、柿は食い散らかされ、ミタマの口の周りには柿の汁がへばりついている。オヤダマは蒼の太刀を見た途端、大気を震わせる。朝とはいえど、山中は闇夜と同じくらい暗く、オヤダマの姿は一段と妖しく見えた。
「この山で取ったんだ。アオも食べなよ。すっごく美味しいよ」
ぎこちなく、口元を痙攣させて笑うミタマ。ミタマは太刀に目もくれず、蒼にまだ口にしていない柿を差し出した。蒼は意表を突かれ、思わず太刀を落とす。オヤダマは今にも飛びかからんばかりの勢いであったが、太刀を落とす蒼を見ると攻撃の矛を収める。蒼はミタマが人を食っていたわけではないと分かると、ホッと胸を撫で下ろす。同時に、自分がなぜ、こんなにも安堵しているのか不思議に思った。
「どうしたの? アオ」
「……いらん。私は腹など空いておらぬ」
蒼は顔を背け、ミタマに柿を突き返す。ミタマは何か言いたげに口を動かすが、魚のように口だけが動くばかりだ。茫然自失のまま、ミタマは柿を受け取る。蒼は足早に太刀を拾い、その場を立ち去ろうとした。
「ねぇ、どこに行くの?」
「里に戻る。そなたなど、斬るに値せぬからな」
蒼はミタマに背を向け、墓石から離れていく。その後ろ姿を、ミタマは寂しげに見ていた。寂しさを紛らわすように、ミタマは持っている柿を強く握る。ミタマの胸からは、何か熱い感情がこみ上げてきた。
「ねぇ、アオ!」
ミタマは大声で、蒼を呼び止める。その声は消え入りそうなものではなく、芯の通った力強いものであった。蒼は声に後ろ髪を引かれ、立ち止まる。ミタマは溢れる想いを抑え切れず、言葉を続けようとした。
「昨日は……着物を着せてくれてありがとう」
どう言葉に表わせばよいのか分からず、しどろもどろするミタマ。小柄なミタマは、その体には大きすぎる蒼の着物を腕いっぱいに広げ、蒼に渡す。
「ねぇ、よかったらまた来てくれないかな? 僕、アオの事をもっと知りたいんだ」
「……」
蒼はミタマの言葉を、肯定も否定もしない。黙したまま、ミタマの羽織を受け取った。蒼は羽織を着て山を下りようとする。山のざわめきに紛れて、ミタマの腹の音が微かに聞こえてきた。蒼は包みから残った握り飯を取り出し、ミタマに投げ渡す。見たこともない奇妙な物体に、ミタマとオヤダマは首を傾げる。
「柿ばかり食っては体に毒だ。これでも食べて精を付けろ」
蒼はそれ以上何も言わず、足早と草むらをかき分けていく。ミタマはしばらくの間、蒼の姿と握り飯を交互に見ていた。視界から蒼の姿が居なくなるまで。しばしの間、ミタマは腹が空いていることも忘れていた。
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