来䞖はこの人ず関りたくないず思ったのに。

ありた氷炎

🌞

 ああ、来䞖はこの人ず関わりたくない。


 僕の最埌の意識はそれ、だった。



「いずる」


 神様は僕の最埌の願いを聞いおくれなかった。

 そい぀は、僕の前に再び珟れたから。


「䜕か甚」


 前䞖で僕の䞻人だった男ず瓜二぀の顔を持぀幌銎染、長野蟰芋。

 今の圌は僕よりも䞉぀幎䞋で、珟圚䞭孊䞉幎生。

 隣同士で、無芖するわけにもいかず、前のように奎隷のように仕えるなんおぱっみらだったので、圌ずは心の壁を築いお接しおいる。

 倚分圌には蚘憶がない。

 あれば絶察に高飛車な態床を取られるに決たっおいるから。

 もしかしお圌は生たれ倉わりではないかもしれない。

 でも顔が䌌すぎおいるずころが怖い。

 圌の隣に䜏んでいるこずが嫌でたたらなくお、高校は別のずころいく぀もりだったけど、受隓に倱敗。

 地元高校にいくしかなくなった。

 倧孊はどうにか頑匵っお、隣の県の倧孊に行くこずが決たった。

 こうしお圌に呌びかけられるのも埌少し。

 䌑みもできるだけ垰っおくる぀もりはない。

 圌もいずれは家を出るだろう。

 そうしたら頻繁に家に垰っお芪孝行をする぀もりだ。


「いずるなんで、遠いずころにいくんだよ」

「勉匷したいこずがそこの倧孊にしかなかったからだ」


 芪を玍埗させるためにそういう理由を䜜った。

 前䞖のこずなんお、挫画や小説じゃあるたいし、信じおくれるわけない。

 隣ずは仲がいいので、絶察に僕の気持ちをわかっおくれるわけがないし。


「元気でな。蟰芋」

「いずるの銬鹿」


 おっきな瞳に涙を最たせお、圌は僕を詰った。

 やっぱり違うかもしれない。

 蟰芋は可愛すぎる。

 あんな暪柄で、高飛車な圌ず違い過ぎる。

 だけど顔がそっくりすぎお、疑いが捚おきれない。

 背䞭に芖線を感じ぀぀、僕は玄関の扉を開け、自宅に入った。


「いずる。たたあんたは蟰芋ちゃんに冷たくしお。あんなに慕われおいるのに、冷たいんだから。あんたは」

「冷たいものなにも、普通だろう」


 お母さんは蟰芋を女の子か、䜕かず思っおいるのか。

 確かに芋た目は可愛いし、女装したら䌌合うかもしれない。

 だけど、あい぀は立掟な男だ。

 本人だっお女の子扱いされたら、怒っおいたじゃないか。

 たあ、いい。

 こんなこずで悩むのもあず少しだ。


 倧孊に行ったら、もう圌のこずで悩たされるこずはない。


 二週間埌、僕は隣の県に行き、倧孊の寮に入った。

 芪に文句蚀われながら、䌑みの日も垰らず、友達を遊んだり、バむトをしお過ごした。


「いずる。俺、高校生になったんだ。いずるず同じ高校だ」

「知っおる」


 蟰芋から䞀週間に䞀床の割合で電話がかかっおきた。

 最初はずらなかったんだけど、お母さんからなじられたので、仕方なく取っおいる。

 話は圌の近況だ。

 適圓に話を合わせ、バむトに行くからず電話を切る。


 酷いかな。

 だけど、関わりたくない。

 蟰芋の声が埐々に、前の圌に近づいおいる気もする。


「䞭島」


 ある時の電話で、ふず蟰芋がかすれた声でその名を呌んだ。

 心臓が止たるかず思った。

 それは前䞖の俺の苗字。


「䞭島っお子がクラスメヌトにいおさ。可愛いんだ」

「そ、そうか。よかったな。告癜するのか」

「たっさかあ。ただ奜きじゃないし」

「そうか」


 心臓の錓動が倖に挏れるんじゃないかず思うくらい、早鐘を打っおいた。

 い぀ものように甚事を䜜っお、電話を切っおから僕はベッドに倒れ蟌んだ。


「  偶然だよな」


 蟰芋は前䞖ず圌ず同じ顔だ。

 だけど、あんなに可愛い蟰芋が圌の生たれ倉わりだず信じたくない、そんな思いが生たれおいた。


「でも、もしかしお」


 それ以来、僕は蟰芋の電話をほずんど取らなくなった。

 お母さんからなじられおも、甚事があるずうそぶいた。

 実家に垰らず、3幎をここで過ごした。

 そしお倧孊4幎の時、俺は圌ず再䌚した。

 

「いずる」


 䞉幎芋なかった蟰芋は、身長がすっかり䌞びおいお、僕より高くなっおいた。声も随分䜎い。

 圌の笑顔ず裏腹に僕の背䞭に冷たい汗が流れる。


「どうしお、ここに」

「俺もここに入寮したの。今幎から倧孊䞀幎生。よろしく。先茩」

 

 話し方は倉わらない。

 だけど。


「うん。よろしくな。えっず、僕、これからバむトだから。たた」

「忙しいんだね。やっぱり。うん。たたね」


 僕は逃げるように圌の前から立ち去る。

 背䞭に突き刺さる芖線が怖くお、眩暈がした。


 あれは蟰芋じゃない。

 圌だ。

 なんおこずだ。

 やっぱり蟰芋は圌だったんだ。

 恐怖心で䜓が震える。


 前䞖の圌は恐怖の察象だった。

 逆らえない䞻で、死ぬずきは喜んだくらいだった。

 圌は僕に暎力を振るこずはなかった。

 ただ芖線で、蚀葉を僕を詰った。

 やっず圌から離れられたず思ったのに。


「え俺の郚屋いいけど。なんで」

「ちょっず事情があっおさ」


 バむト先の友達に頌んで今日は郚屋に止めおもらうこずにした。

明日からどうすればいいんだ。圌は倚分、僕の郚屋の番号を知っおる。お母さんなら絶察に話したはずだ。

 垰れない。

 ずりあえず友達の家から倧孊に盎接向かった。

 友達は事情は聎かなかったけど、青ざめた顔をした僕を心配しおか、今日も泊っおいいず蚀っおくれた。

 倧孊に行き、講矩を受ける。

 そしお教宀を出ようずしたずき、蟰芋が珟れた。


「いずる。なんで垰っおこなかったの」

「えっず、友達ず遅くたで飲んでいお」


 僕はすでに二十歳を超えおいる。

 蚀い蚳にしおは十分だ。


「そうなんだ。いずるは䞋戞だず思ったけど」


 蟰芋は僕を少し芋䞋ろしお笑う。

 その笑みはたさに圌ず同じ。


「ごめん。ごめん。いずるはこっちのほうが奜きなんだっけ」


 蟰芋は気が付かなかったずばかり、衚情を倉える。

 無邪気な笑みの蟰芋。

 それだけみれば、昔の蟰芋だ。


 ヌヌあなた、䞉日月なのか


 そう聞いお、確かめたかったけど、僕は䜕も口に出さなかった。

 逃げるように圌の傍から逃げようずする。

 しかし蟰芋は俊敏で、僕の腕を぀かむ。


「どこいくのいずる。講矩はもう終わりだよね。アルバむトも今日はないはずだし。それずも友達の家に行くの䞉幎も䌚っおいなかったんだ。俺のこず優先にしおよ」


 少し甘えるような蟰芋。

 䞉぀歳䞋の幌銎染がそこにいた。


「いずる。話したいこずがいっぱいあるんだ。俺の郚屋にきおよ」


 掎たれた腕に力がこもる。


「わかった」


 逃げられない。

 僕はもう囚われおしたったみたいだ。

 

「入っお」

「お邪魔したす」


 蟰芋の郚屋は俺の䞋の階。 

 倧孊の寮は䞀぀の敷地を貞し切っおいお、そこに䞉぀の建物がある。䞀぀は寮監の家、あず二぀は寮生のためのアパヌトだ。普通のアパヌトを倉わらない。䞉回建おのアパヌトだ。

 郚屋の間取りも䞀緒。

 蟰芋の郚屋にはただ段ボヌルが積んであっお、匕っ越しおきたばっかりずいう感じだった。


「お茶飲む」

「ありがずう」


 腹をくくった僕は、冷蔵庫から差し出されたペットボトルのお茶を玠盎に受け取った。


「座っお」


 蚀われるがたた、ちゃぶ台の傍に眮かれた座垃団の䞊に座る。


「俺を避けるのは、俺が䞉日月だから」


 やっぱり。

 蟰芋は䞉日月、䞻だった。


 反射的に僕は俯いおいた。

 怖い。

 もうだめだ。

 䜓䞭から汗が噎き出しおいるんではないかず思うくらい、緊匵でどうにかなりそうだった。背䞭もぐっちょり濡れ始めお気持ち悪い。


「そんなに怖がらないで。いずる。俺は蟰芋だよ。君の䞻人だった䞉日月は、昔。俺は君ず新しい関係を䜜りたいんだ」

「あ、新しい関係」


 䜕を蚀っおいるんだ。

 この人は。


「そんな颚に怯えないでよ。俺がいずるっお呌ぶずい぀も笑顔を芋せおくれたでしょ。兄貎颚も吹かせおたし」


 蟰芋はくすくすず笑う。


「い、い぀から蚘憶が」

「うヌん。い぀からかな。生たれた時から」


 生たれた時からだったら、ずっず挔技をしおいたっおこずか


「いずる。俺はね。そう蚀っお怖がる䞭島が嫌だった。たあ、俺のせいなんだけどね。䞭島が他の奎に向ける笑顔ずか、ずおも綺麗で、俺はそれが欲しかった。だから、知らないふりをした。無邪気な子䟛の圹、うたかっただろ」


 蟰芋は誰からも奜かれる子䟛だった。

 朗らかで優しくお、ちょっず短気で。


「党郚、挔技だったのか」

「うん。そうだよ。おかげで、君の笑顔をずっず芋れた。䞭島の時に芋たかった衚情党郚。あ、ただ芋おないものもあるか」


 䞉日月は、蟰芋は嬉しそうに笑う。

 

「ねえ。いずる。俺の圌氏になっおよ。どうせ、ただ圌女もいないんだよねもしかしお圌氏がいるの」

「い、いないよ。そんなもの」


 僕はゲむじゃない。

 前䞖では散々な目にあわされたけど、生たれ倉わった僕は綺麗な䜓で、女の子に察しお奜きっお感情も生たれたこずもある。告癜する勇気がなくお、幎霢圌女いない歎だけど。


「だよね。おばさんも蚀っおたし」


 䜕でも話すわけではないけど、僕はお母さんに嘘を぀いたこずがない。

 時たた圌女できたかどうか聞かれお、正盎にただっお答えおいたっけ。


「だったら、いいよね」

「よ、よくないどうしお男の君ず。なんでたた」

「俺、ずっずいずるが奜きだった。いずるのこずしか芋えおいない。最初は䞉日月の気持ちに匕きずられおいたけど、今は違うっおわかる。俺は䞉日月だけど、䞉日月じゃないよ」


 蟰芋がおかしい。

 いや、䞉日月だったらこんなもの。

 だから、圌ずは関りたくなかったんだ。

 神様は、僕の願いを聞いおくれなかった。


「返事できないもしかしお奜きな人いるそれっお昚日泊たった人のこず」

「違う。吉野はそういうや぀じゃない」

「ぞえ、吉野っおいうんだ。いいなあ。俺もそこで働いおいい」

「だめだ」

「なんで䞀緒にいたい。いずるが働くずころ芋おみたいし」

「蟰芋には向いおないよ」

「えそうかな」


 蟰芋は党然僕の話を聞いおくれなくお、こういうずころは本圓に䞉日月だ。嫌だ。嫌だ。

 蟰芋も僕ず䞀緒に働くこずになった。

 匕っ越し業者で、荷造り、運送っず、力仕事だ。

 蟰芋には党然無理だず思った。

 なのに、圌は普通にこなしおいお、バむト先の評刀もよかった。

 

「じゃあ、お疲れ様でした」

「うん。たたね。蟰芋くん」


 い぀の間にか吉野ずも仲良くなっおいお、僕は退路を断たれた感じだ。


「吉野さんは、本圓の普通の友達なんだね」

「そうだよ」


 バむトから垰る途䞭、蟰芋が笑顔でそう蚀い、僕は短く答える。

 蟰芋は䞉日月みたいに匷匕だけど、怖くはない。

 僕を支配しようずはしない。

 詰ったりしない。


「ねえ。いずる。俺を圌氏にただできない」

「無理」


 だから僕は油断しおいた。

 圌が䞉日月だっおこず、忘れおいたみたいに。


「もういいや。いずる。俺は、早くいずるず䞀緒になりたい。だっお、いずるは奜きだろう」

「䜕、蚀っお」

 

 蟰芋はもう僕の話を聞かなかった。

 䞉日月ず䞀緒。

 無理やり郚屋に連れ蟌たれお、奪われた。

 䞀緒だ。

 蟰芋なんおいなかったんだ。


「  ごめん」


 情事が終わった埌、汚れたシヌツの䞭で力なく暪になる僕に䞉日月は謝る。

 䞉日月は謝ったこずはなかった。

 だけど、するこずは同じだ。

 僕は服をかき集めお身に着けるず郚屋に戻った。


「もういやだ」


 やっぱり今䞖も䞀緒だった。

 圌ずは離れられない。

 

 僕は汚れた䜓のたた、郚屋を出た。

 向かうずころは、あの時ず䞀緒。


 もう来䞖なんおいりたせん。

 このたた消しおください。


 厖から飛び降りようずした瞬間、䜓を掎たれた。


「ごめん。䞭島、いずる。ごめん」


 僕を掎んだのは䞉日月、蟰芋だった。

 泣きながら僕に䜕床も謝る。


「死なないで。お願いだから。もう君には觊れない」


 それから、僕たちの関係は倉わった。

 ただの幌銎染。

 蟰芋はアルバむトもやめた。 

 僕を避けるようになった。

 

 よかった。

 これで圌ず離れられる。


 だけど、なぜか、今床は僕の芖線が圌を远っおしたう。

 圌の姿を探しお芖線を圷埚わせる。

 圌は僕に付きたずったのが嘘のように、僕を無芖しお誰かず楜しそうに談笑しおいた。


「いずる。あのさ、蟰芋くん元気」


 バむト先で吉野が聞いおきた。


「うん。元気そうだよ。どうかした」

「いや、それならいいんだけど。あのさ、俺の郚屋に泊たったのは、蟰芋くんのせいだろ」


 僕は答えなかった。


「あ、おかしなこず聞いおごめん。今はうたくいっおるなら、いいや。䜕かあったら盞談に乗るから」

「うん」


 僕はかろうじおそう返事をした。

 うたくいっおる䜕が

 僕ず圌はそういう関係だず思われおたのか

 いやでも、いたは。

 

 僕は䞉日月から離れたかった。

 今䞖では圌ず関係のない人生を歩みたかった。

 だけど、今、僕は圌の圱を远っおいる。

 あの倜のこずを思い出しお、寂しさを玛らわしたり。

 そんな自分が嫌になる。


 倧孊四幎の埌半はほずんど講矩はない。

 卒論のために教授の郚屋に行くくらいだ。


 

「蟰芋くん」


 いちゃ぀いおいるカップルを芋るのは珍しくない。

 だけど、男は蟰芋だった。

 キスをした埌、䞀緒にどこかに消えおいく。


「えっず、僕」

 

 涙が䞀粒頬を䌝った。

 それは数を増しお、気が぀けば号泣しおいた。

 ずおもじゃないけど、研究宀なんおいけるわけがなくお、庭の陰のベンチに座っお気持ちを敎理しようずする。


「  いずる」

「蟰芋」

「なんで泣いおいるの」

「いや、別に」


 よりにもよっお蟰芋に、䞉日月に芋぀かるなんお最悪だ。


「あ、僕、甚事があるから」


 ベンチから立ち䞊がっお行こうずしたら、腕を掎たれる。


「その涙は俺のせい」

「違う」


 即答できた。

 

「嘘だ。俺はみおた」

「どうやっお」


 反射的に僕はそう聞いおいお、慌おお口を抌さえるが埌の祭りだ。


「君は俯いおいお、気が付いおなかったず思うけど、俺はずっず芋おた」

「悪趣味だ」

「それは蚀えおる。だけど、俺は嬉しかった。君が俺のせいで泣いおいるこずが」

「最䜎だ」

「ねえ。いずる。付き合っお。酷いこずはしない。我慢する。だから」

「わかった」


 僕の返事は早かった。

 圌の姿を远っおいた。

 圌が誰かずいるのを芋るず、気持ちがもやもやずした。

 どうしお、圌の傍に僕がいないのかず思ったこずもある。


「ありがずう」

 

 ちゅっず頬に柔らかいものがあたり、涙ずぺろりず舐められる。


「ちょっず、埅っお」

「誰もみおないよ」


 圌がしたこずはそれだけ。

 その埌、僕ず圌は健党は男男亀際をした。

 友達の延長みたいな。

 たたにキスはされたけど、軜く觊れる皋床。

 そんな関係が続いお、僕は就職した。

 寮を出る前の晩、僕は圌に願った。

 酷く恥ずかしかったけど、離れ離れになる前にしたかった。

 前ず違っお優しい圌ずの情事。

 

 圌が倧孊卒業たで離れ離れ、就職しお䞀緒にたた暮らすようになった。

 関係は良奜で、お互いの芪にもい぀の間にかばれおいた。

 

 今䞖では関わりたくないず思っおいたのに、今では来䞖でも䞀緒に過ごしたいず思っおいる。

 そんな自分が䞍思議だ。

 神様はこれを芋越しお、僕を圌を再び䌚わせたかもしれない。


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