古代ローマの武器と飛行原理

🔴奴隷商人 (紀元前47年の物語①)

 https://bit.ly/3Ee6zMy

🔴第45話(1) マンディーサ

 https://x.gd/Z3j6T

🔴第45話(2) マンディーサ

 https://x.gd/cmmL1

「第45話(2) マンディーサ」で、

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 副官が持ってきたナイフは、ローマ軍の歩兵が使う全長40cmほどのグラディウスという両刃の短剣だった。これでいいかしら?重いかしら?と聞くと、マンディーサはグラディウスをブンブン振り回して、ちょうどいいです、使いやすいという。使いやすい?この子、人を殺したこともありそうだわ、と思った。ますます、気に入った。

 何をするんですか?と彼女が聞く。私に向かってきて、手合わせしましょうよ、手加減抜きで、と言うと、怯んだ。アイリス様相手にできません、と言う。あら?自信があるのかしら?心配しないで。私もちょっとは使えるんだから、と言った。頭を振って、どうなっても知りませんよ、とニヤッと笑う。

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とさらっと書いたが、この「グラディウス」ってなんだ?と思われる人もいるかもしれない。あるいは、古代ローマの剣闘士の映画で見たイメージで漠然と想像される人もいるかもしれない。ちょっと解説しておこう。



 昨日、マンディーサとグラディウスで試合をしたけど、この武器がなんなのかよくわからないので、絵美/エミー様に尋ねてみた。私だってクレオパトラ六世に憑依していた純粋知性体ベータの断片を持っているけれど、そのデータベースは不完全でこの世界がよくわからないことが多いのだ。私に比べると、絵美/エミー様は、1980年代とやらの今から2000年未来の女性の歴史的知識と純粋知性体アルファのデータベースの断片が記憶にあるのだから、私より物知りだ。


「絵美様、このグラディウスって、どういう武器なんです?」

「え~、アイリス、ちょっと待ってね。私は何か知っているんだろうけど、その知識がすぐ出てこないのよ・・・グラディウス・・・グラディウス・・・ああ、なるほど!」

「その知識は私がベータの断片から得ている知識みたいなものなんですか?」

「同じだと思う。自分が学習して得た知識ではなくて、私のはアルファがエミーの脳に埋め込んだ知識。それをコンピューターで検索…」

「コンピューター?」

「人間が人工的に作った機械の頭脳みたいな。その人工頭脳に聞くとデータがある限り回答してくれるみたいな?その人工頭脳を私やアイリスの脳にアルファとベータが埋め込んじゃったみたいなものね。アイリスの場合は、クレオパトラ六世の臨終の際に彼女が錯乱して、大部分の知識はクレオパトラ七世に移って、あなたには一部分だけ移ったわけだけど。で、グラディウスの話」


 グラディウスは両刃の剣で両方に刃がついている。私の故郷の日本という国でこれから数世紀経って製造される日本刀というのがあるけど、それは片刃の剣なの。


 グラディウスは両刃だから、左右どちらに振っても切れるし、突きも得意。戦場で敵がどっちから来ても、対応しやすい。グラディウスでマンディーサが素早く動いてたのは、この柔軟さのおかげね。右から斬り、左から突く、なんて動きがスムーズにできる。


 それと、両刃の剣は先端が尖ってるから、突き刺すのに最適。鎧の隙間を狙ってグサッとやるのに向いてるわ。ローマの兵士たちが敵の胸や腹を貫くとき、グラディウスは頼りになるわよ。それから、バランスが良い。両刃の剣は左右対称に作られてるから、重心が中央にあって扱いやすい。私みたいな腕力でも、振り回すのに疲れにくい。


 だけど、両刃の剣は突きに特化してる分、片刃の剣ほど重い一撃でぶった切る力は弱いかもしれないわ。たとえば、分厚い革の鎧や木の盾を一撃で叩き割るのは難しいかも。両刃はどっちでも切れるけど、逆に言えば剣の向きを意識しないと自分の動きが制限されることもある。慣れないと、振り回してるうちに自分の腕を傷つけちゃうなんてことも。それに、両側に刃があるから、研ぐのがちょっと大変。戦場で刃こぼれしたら、両側をちゃんと手入れしないと。グラディウスの刃は丁寧に磨かないと切れ味が落ちるわ。


 グラディウスは銑鉄と軟鉄を組み合わせた合金鉄材でできている。銑鉄は炭素含有量が多く、硬くて脆い鉄なの。主に鋳物に使われる。軟鉄は、炭素含有量が少なく、軟らかくて延性のある鉄で、主に溶接や鍛造などに使われる。この二つを混ぜ合わせることで、強度や硬さ、靭性などを調整できるの。例えば、高強度な鋳物が必要な場合は、銑鉄の割合を増やし、靭性が求められる場合は、軟鉄の割合を増やすなど、用途に合わせて配合を調整する。


 ちなみに、私の故郷の武器、日本刀の素材は、軟鉄と鋼(はがね)を組み合わせる製法。軟鉄は心鉄(しんがね)として、鋼(はがね)は皮鉄(かわがね)として、それぞれを重ねて鍛錬する。グラディウスの素材みたいに混ぜ合わせて合金で製造するんじゃなく、重ねて鍛錬するのが特徴。切れ味は、日本刀の方がずっと優れているし、グラディウスみたいに重さでぶった切る武器じゃない。


 アイリスとマンディーサが使ったのは、刃渡り約40センチ、柄まで約60センチほどのグラディウスで、ローマ軍の歩兵が使うものは、やや長い。刃渡り約50センチ、柄まで約70センチほど。船上で使うので少し短くしている。女性にはちょうどいい。


 グラディウスは長剣(日本刀はもっと長い。刃渡り約70センチ、柄まで含めると約95センチ程度)だけど、プギオという短剣もある。グラディウスと同じく両刃で幅広の剣身、グラディウスを短く小型にしたような形状で、全長は20〜40センチ程度。


 あと、ボウガンはムラーと私が作らせたもの。レバーを引いて矢をつがえるロングボウと連射式ボウガンがある。あらかじめ弦を引いてセットしたものに矢を設置して引き金(トリガー)を引くことで矢を発射できるようにしたものがクロスボウ。弓のように長期間の訓練が不要で、ほぼ素人でも扱える。連射式ボウガンは、ロングボウにカートリッジを付けて連射できるようにしたもの。


「絵美様、こういう古代ローマの武器は、クレオパトラの手下たちに効果がありますか?タップ・オシリス・マグナ神殿の戦闘では、敵のエジプト人兵士は、マシンガン、レーザーガン、レールガン、グレネードで武装していましたけど?」


「場合によるわよね。接近遭遇白兵戦に持ち込めば、飛び道具よりもグラディウス、プギオでケリがつくでしょう。ロングボウと連射式ボウガンも接近しての使用なら有効だと思う。第一、タップ・オシリス・マグナ神殿からぶんどったマシンガン、レーザーガン、レールガン、グレネードは数に限りがある。古代の武器と未来の武器を併用して使わざるを得ないわね」


「キメラたちはどう対処します?ジャッカル頭のアヌビスは、タップ・オシリス・マグナ神殿の戦闘では、額をマシンガンで狙えば退治できましたが…」

「アヌビスだったら、ピティアスの手下たちでもなんとか飛び道具で対処できるでしょうね。マシンガンとグレネードが有効かな?レーザーガンとレールガンは頭を貫通してしまって、アヌビスの半導体コントローラーを確実に破壊できない。トキ頭のトートはアヌビスよりも手強い。隼の頭のホルスは飛行能力があるから、私とアイリスが対処しないとダメね」



「私、飛べませんけど…」

「これから飛ぶ訓練をしないといけないわね」

「飛ぶ…そもそもどうやったら飛べるんですか?ムラー様と絵美様はどういう原理で飛行できるのですか?」


「ちょっと待ってね。ムラーはそんなこと詳しく説明してくれなかったから…人体の飛行方法…人体の飛行方法…ああ、なるほど!」

「やっぱり魔法ですか?魔法でしょう?」

「そんな、ラノベ小説じゃあるまいし…つまりね…私の頭の中のデータベースが言うのは…」


「『量子力学の不確定性原理を応用して、身体の位置の『確率分布』を操作するんだって。人間の位置を『地面にいる確率』から『空中にいる確率』にシフトさせる。私たちが持っているマイクロワームホールのエネルギーで、量子フィールドジェネレーターを発生させて、身体周辺に特殊な場を形成、電子の波動関数を操作し、位置の期待値を空中に移動、身体の質量中心を量子的に『浮かせる』ことで、反重力効果を模擬、ハイゼンベルクの不確定性を利用して分子レベルの位置制御を行い、浮遊や飛行を実現するんだそうよ。移動方向はジェネレーターの場ベクトルを調整して制御する』んだそうよ!そうなのよ!『身体の位置の『確率分布』を操作』するのよ!……」


「まったくわかりません。普通のエジプト語かフェニキア語で説明してください!」

「私だってよくわからないわよ。だいたい、20世紀に射殺される前は、私の専門は犯罪心理学だったんだから…え~っとね、…つまりね…私の頭の中のデータベースが言うことを簡単に言うと…私もよく理解していないんだけど…」


 飛行の仕組みは、量子力学の「不確定性原理」を応用したものだ。不確定性原理とは、粒子の位置や速度を同時にピッタリとは測れないというルールだ。例えば、電子のような小さな粒子は、特定の場所に「ピタッ」と固定されているわけではなく、確率として「ここら辺にいるかもしれない」という形で存在する。この確率は「波動関数」という数学的なもので表され、粒子の状態を記述する。


 私たちの身体を空中に浮かせるには、この波動関数の「確率」を操作する。イメージとしては、身体を構成する粒子(分子や原子)の「地面にいる確率」を減らし、「空中に浮かんでいる確率」を増やす感じだ。これを実現するのが、体内に組み込まれた「量子フィールドジェネレーター」という装置だ。この装置は、マイクロワームホールという小さな時空のトンネルからエネルギーを引き出し、身体の周りに特殊な場を作る。この場が、粒子の波動関数を変化させて、身体を地面から浮かせる。


 具体的に言うと、ジェネレーターは身体の周りの電子の動きを微妙に調整し、身体全体が「空中にいる」状態を高い確率で作り出す。これによって、重力に逆らって浮くことができる。飛行の方向は、この場の向きを調整することでコントロールする。たとえば、前に進みたいなら、場を前方に傾けるイメージ。この調整は、意識を使って行う。


 量子力学の核心には、粒子の状態が「重ね合わせ」という形で存在するという考え方がある。重ね合わせとは、粒子が複数の状態(例えば、地面にいる状態と空中にいる状態)を同時に持っている状態だ。観測するまでは、どちらの状態になるか決まっていない。この性質を利用して、量子フィールドジェネレーターは身体の粒子を「空中にいる状態」に導く。


 このジェネレーターは、ナノテクノロジーで作られた小さな装置で、身体の細胞やエネルギー(例えば、食べ物から得るエネルギー)と結びついて動く。脳の神経とつながっていて、たとえば「上に上がりたい!」と強く思うと、その意志がジェネレーターに伝わり、場の形を変える。これによって、身体がスーッと浮き上がる。重力はなくならないけど、量子的な確率を操作することで、重力の影響を「ずらしている」ようなもの。


 飛行のコントロールは、頭の中で「前に進む」「上に上がる」といったイメージを強く持つことで行う。例えるなら、自転車に乗るときにバランスを取る感覚に少し似ているかもしれない。最初は慣れないけど、訓練すればスムーズに動けるようになる。ムラーや私は、このジェネレーターと意識の連携を訓練して、滑らかな飛行を実現している。


「…と、こういうことらしいわ」

「なんだか、ちょっとだけわかった気がしますけど…『飛べ!』と念じると飛ぶんですか?体が?勝手に?でも、私、マイクロワームホールとか量子フィールドジェネレーターとか持ってないですよね?」

「…えっとね、クレオパトラ六世の意識の断片を継承したときに、アイリスはマイクロワームホールと連結されているそうよ」

「ウソでしょ?」

「本当だって…と、私のアルファのデータベースがそう言ってるの!」

「…私、本当に人間じゃなくなってしまったんですね…化け物になっちゃったんだ…」

「それはお互い様よ。私だって化け物にさせられちゃったんだから…」

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