第6話

 一階層と二階層が古代遺跡のような場所だったとすれば、三階層からは完全に自然界だった。


 春夜が三階層に足を踏み入れた瞬間、驚かざるを得なかった。


 まさに森のような場所が広がっていたからだ。


 コメント

 ・春夜、気をつけろ。ここからはモンスターの種類が違うんだ。

 ・ゴブリンやスライムとはちょっと違う、本格的なダンジョンの始まりって感じか?

 ・今来た。たかが三階層なのに視聴者60人超えてるけど、何の配信?

 ・無双系。

 ・ああ、配信主がとんでもない猛者なのか?

 ・初心者だよ。

 ・???


 ゴブリンやスライムとは違うという言葉に疑問を抱いた春夜が尋ねた。


「皆さん、ずいぶん心配されてるんですね。三階層はそんなに難しいんですか?」


 コメント

 ・いや、そこまで難しくはない。

 ・モンスターの種類が違うんだ。三階層からは獣系だから動きが速い。

 ・スライムやゴブリンばかり虐殺してて三階層に降りると、速さに戸惑うんだよな。速度も殺傷力も段違いだから、一度の油断が負傷どころか即死に繋がる可能性もある。


 なるほど、そういうことか。


 春夜は慎重に前へ進み出た。


 足音を殺し、ゆっくりと歩く。


 遠くから気配がした。


 近づいてみると、大きな狼が一匹、兎を狩って食べているところだった。


(ふむ、あれがモンスターか)


 春夜が身を隠していた茂みから出て、ゆっくりと狼に向かって歩き出した。


 しかし、狼の鋭敏な感覚からは隠れられなかったのか、狼はすぐに兎から口を離し、さっと遠くに距離を取ると、春夜を睨みつけた。


(確かに、動きが速いな)


 これまで相手にしてきたスライムやゴブリンとは格が違う。


 もちろん、分裂型スライムの圧倒的な速度には及ばないものの、狼の動きはかなり速い方だった。


 グルルル!


 狼が威嚇するように唸り始めた。


 春夜はゆっくりと歩いて狼に近づいたが、やがて狼は空に向かって遠吠えを上げた。


 アオォォーン!


 すると、遠くの茂みから多くの気配が感じられた。


 あっという間に三、四匹の狼が集まり、一匹だった狼は五匹になった。


 コメント

 ・こいつ初心者なのにソロプレイかよ。死にたいのか?

 ・春夜にパーティなんて必要ない。

 ・春夜の戦いを見れば、その言葉を撤回することになるぞ?

 ・新入り丸出しだな。黙って見てろよ。


 ん? パーティプレイ?


 初めて聞く言葉だ。


 パーティと言ってもお祭りのことではないだろうし、ゲームに出てくるような、複数人で狩りをする集団のことだろうか?


 そういえば、初心者講習で初心者は複数人でチームを組んで狩りをするのが良いと聞いたような気もする。


(パーティか……俺も次はパーティを組んで潜ってみようかな)


 次は次として、まずはこの狼たちを狩らなければならないだろう。


 集まった五匹の狼は、かなり素早い動きで春夜を包囲し始めた。


 ゴブリンの包囲が作戦の賜物だとすれば、狼たちは本能的にどう狩れば楽かを知っているようだった。


(ゴブリンを狩った時のことを思い出そう。あの時のようにすればいいはずだ)


 そう考えた春夜は、ゴブリンを相手にした時のように絶えず足を動かし、敵の包囲網が乱れるように誘導した。


 一対多の戦いは道場では教わらなかったが、今回の探索での戦闘経験から身につけ始めた戦い方だった。


 春夜は正眼から霞の構えへ、霞の構えから下段の構えへ。


 絶えず構えを変える。


 狼たちは春夜の動きを窺っていたが、やがて一番大きな奴が最初に飛びかかってきた。


 春夜は狼が飛びかかる瞬間を狙い、一番大きな狼に向かって同じように突進した。


 立ち止まっていては包囲されるという計算からだ。


 これもまた、二階層での集団戦で学んだ戦い方だった。


 そして次の瞬間。


 シュッ!


 春夜の剣が、飛びかかってくる狼の頭を正確に斬り裂いた。


 しかしその瞬間、春夜は驚かずにはいられなかった。


(ゴブリンより……楽だ?)


 確かにゴブリンを相手にした時は苦戦した。


 一対多という不利な状況で戦わざるを得ないというやりにくさがあった。


 だが、狼たちとは一対多で戦っても大きな困難はない。


 ただ絶えず動き回り、狼たちが包囲しにくいように位置を変えるだけで、容易に一対一の状況を作り出すことができた。


 次の狼たちも同様だった。


 春夜は二匹目、三匹目とその後の狼たちも難なく仕留めた。


 あっという間に五匹の狼の亡骸が地面に転がり、光となって消えていった。


(なんだ? 簡単すぎる。むしろ二階層より楽になったような……)


 むしろゴブリンよりも遥かに楽になったような気分。


 そしてコメントもその変化を感じ取ったのか、雰囲気が一変した。


 コメント

 ・この配信者なんなの? なんでこんなに強いんだ!?

 ・俺が言っただろ。春夜の戦いを見れば考えが変わるって。

 ・見ました? これが俺たちの春夜ですよ。新入りはさっさとフォローしてチャンネル推奨も押してけ!

 ・↑なんでお前が偉そうなんだよw


 あっという間に五匹の狼を仕留めた春夜は、息一つ乱さず、余裕のある声で尋ねた。


「おかしいですね。三階層は二階層より難しいと思ってたんですが、どうしてこんなに簡単なんですか?」


 コメント

 ・お前の方がおかしいよ。ソロプレイヤーのくせに二日で三階層まで上がってきて簡単とか言う奴はお前くらいのもんだろ?

 ・そうだよな。普通は三ヶ月かけて二階層、半年かけて三階層に上がるもんだ。

 ・とんでもない才能だ……

 ・まあ、ゴブリンは狼に比べてステータスは低いが、頭が良いから近接組と遠距離組に分かれるしな。弓兵がいないから、より簡単に感じるんじゃないか?


「あ!」


 そこで春夜は気づいた。


 遠距離攻撃がないから、こんなにも楽だったのか。


 この程度なら、このままどんどん進んでも良さそうだった。


 母さんの治療費を稼ぐためには、ぐずぐずしている時間はないのだ。

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