第13話 留守電

 夕陽が沈みかけた頃、マサたちは屋上の隅に輪になって座っていた。風は冷たく、遠くからカラスの鳴き声がかすかに聞こえる。話すべきことは山ほどあるのに、最初の言葉がなかなか出てこなかった。


 「……ねえ」カナがぽつりと口を開く。「あの留守電、やっぱり、本物だったんだよね」


 その言葉に、3人の空気が一瞬で変わる。


 マサはうなずき、ポケットからスマートフォンを取り出した。


 「証拠はこれだ。消そうと思ったけど、できなかった。……聞くか?」


 誰も否とは言わなかった。


 マサが再生ボタンを押すと、スピーカーからざらついた音声が流れる。機械のノイズの向こうで、掠れた少女の声が震えていた。


 『……もしこれを聞いてるなら、お願い……誰か……。屋上に……あのガーゴイルが……。あれは……見てる、ずっと……誰か……止めて……』


 そこで留守電は切れた。


 ユウトが顔をしかめた。「これ、あの事件の前日じゃん。なんでこんなのが今さら?」


 「発信元は不明。しかも、登録されてない番号だった」マサの声は落ち着いていたが、指先はわずかに震えていた。「でも、確かに聞こえた。あの子の声だ」


 ミナトが眉をひそめた。「あの子……って、例の被害者?」


 カナが目を伏せる。「名前、記録からも消されてたよね……まるで最初からいなかったみたいに」


 マサは空を見上げた。ガーゴイルの影がさらに長く、黒く伸びていた。


 「たぶん、これはメッセージなんだ。誰かが、今でも助けを求めてる。だから、無視しちゃいけない。俺たちが、この話の続きを……見届けなきゃ」


 ユウトが頷いた。「やるなら、ちゃんと調べよう。あの留守電が、どこから来たのか。……本当に、ただのいたずらじゃないなら」


 ミナトがポケットからノートを取り出した。「俺、図書室で見つけた。昔の新聞記事。似たような事件が、前にもあったんだ。あのガーゴイルの前で——」


 4人の目が合う。沈黙は、もう怖くなかった。


 やがて、風が強く吹き、ガーゴイルの影がまた揺れた。だが、誰も逃げなかった。


 屋上に、彼らの新しい物語が静かに芽を出し始めていた。


 

 

 

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