クラナス・アーサー 〜三等兵、時空魔法で、宇宙の英雄となる〜 【始動編】

仲道竹太朗

プロローグ

クラナスアーサー 始動編 プロローグ


 新惑星ネオテラムが発見されて、はや3年が経った。

 技術は進んだものの資源不足にあえぐ人類たちにとって、新しい惑星発見は大きな希望が生まれたことだろう。ましてや自分らが住む惑星アースに似た環境、ワープ航法を頑張れば行けるほどの距離にあったとあればなおさらだった。

 最初の入植が行われ、調査の末多数の鉱産資源に恵まれていることがわかった。特にIT機械類に必要なレアメタル類は、もはや「珍しい(レア)」という単語が必要ないほど埋蔵しているらしい。まさにゴールドラッシュ、多数の労働者が出稼ぎにアースからやってきた。そしてそれを支えるサービス業の関係者まで。1年ほど前にはその星都、ネオテラムシティはアース首都メトロポリスに次ぐ人口になったし、総合研究大学まで立つほどに発展を極めていた。

 しかし、現在はうって変わってしまった。ネオテラムシティだけを見ても、繁栄の色を感じることができない廃墟だらけが立ち並ぶ。

 戦争が、ネオテラムをディストピアに変えた。

 半年程前、突如としてエイリアンが、ネオテラムに対して攻撃を仕掛けてきた。

 奇襲を受けた人類は惑星開発どころではなくなり、応戦せざるを得なかった。しかし応戦すればするほど、エイリアンは腐るほどに数を増やしていった。

 いつの間にか、「デノン」と名付けられたエイリアン。そう言っても可愛らしさのかけらのないものだ。人形ではあるものの、表面を柔らかい金属みたいな、鈍色の皮膚で覆っている。2足歩行タイプもいれば、4足歩行タイプもいる。中にはもう2本足を増やして6本足なんてのも稀にいるらしい。しかし彼らには共通で、頭部らしき場所から不気味な光、まるで鬼火のような青白い光を出していた。おそらくこれが彼らの頭脳かエネルギー源なのだろう。

 その頭部から細長いエネルギーレーザーを発射するのが、彼らの攻撃手段。その強力なレーザーを発射することかつ、金属のような肌は、ライフル弾を何発か打ち込まないと貫通しないほど硬い。まさに兵士そのものといえるデノンの生命体に、アース連邦軍は苦戦を強いられるのは当然だった。

 更に厄介なことに、デノンが操る「戦車」や「戦闘機」、更には宇宙戦闘艦(どれも便宜上、アース側が分類したものだ)に至るまで同じ軟金属で、デノンの上位互換とも言える戦闘能力をもっていた。

 デノンの大軍勢からの攻撃を受け、ネオテラムは陥落寸前だった。

 そして今、星都ネオテラムシティでの攻防が繰り広げられている。

 惑星の大気圏周辺では、アース連邦軍とデノン、双方の宇宙戦艦が砲撃を繰り広げていた。一列に並んだアース戦艦と、バラバラながらも陣形を組んでいるデノン艦が対峙する。アース戦艦の砲塔が回転し砲がデノン艦に向かうやいなや、光の塊が放たれる。デノン艦には当たるものの、ダメージは軽微だった。

 放ったアース艦の隣で、別のアース艦が被弾。炎を上げながら瓦解していった。

 巨艦同士の打ち合いの中、戦闘機同士のドッグファイトも行われている。どちらが相手の飛行機の後ろを取れるか、またはミサイルのロックオン圏内にいれられるのか。まさに乱戦であった。

 水色のカラリングデザインの地球連邦戦闘機が、銀色の不気味な敵戦闘機の後ろにつく。放たれるガトリング機銃が当たり、デノン戦闘機が火を吹き、そして爆発四散した。しかしそれもつかの間、後ろについた別のデノン機によって、その連邦機も同じ運命をたどる。

 その飛行機同士の乱戦は、大気圏内に入り、ネオテラム上空でも繰り広げられていた。地上支援のため、5機ほどの編隊を組んで飛んでいるアースの地上攻撃機。その獲物を仕留めるがごとく、デノンの戦闘機編隊が攻撃した。2機の攻撃機が火を吹いて墜落していく中、今度は連邦戦闘機の迎撃でデノン機が破壊される。

 空での命の奪い合いは、地表も同じだった。

 ネオテラムシティの廃墟を、前述したデノン兵、デノン戦車が闊歩している。それをゲリラ的に、瓦礫の中で身を隠しながら攻撃するアース地上軍兵士たち。アサルトライフルでデノン兵が倒れる。ロケットランチャーでデノン戦車が破壊される。「弾切れだ!」と銃を投げ捨てる連邦兵が多い一方、デノン兵は顔の発行体1つ変化させず、冷酷に反撃を行う。戦車は無慈悲にも瓦礫をまとめて撃ち抜き、運悪い地上軍兵士が吹き飛ぶ。

 惑星のどこを見渡しても、アース連邦の「宇宙軍」が苦戦を強いられているのがわかる光景だった。

 更に最悪なのが、戦っている地上軍兵士が、ほとんど「三等兵」だったことだ。もとは鉱山労働者だったのを強制的に兵士動員され、駆り出されたのだ。立派な階級の名前だけはあるものの、正式な訓練はおろか、小銃の撃ち方しか教わっていない。「ネオテラムを守るため」という名目の、アースへ人類が脱出するための捨て駒にすぎなかった。そんな烏合の衆の兵士を、デノンは容赦なく狙い打ちにしていった。

 ここには破壊と破壊された物しか存在しなかった。

 希望も、誇りも、自信もない。ましてや、「異世界への憧れ」というものはなおさら。

 そんな悲惨な戦火の中をくぐりながら、ちっぽけにも3人の三等兵が、小銃を手に持ち、必死に駆けていた。

 その中の1人、赤髪のショートが特徴の青年は、今を生き延びることだけを考えながら、死ぬ物狂いで、顔を黒く汚しながら格好悪く走り続けている。

 彼の名は、タクト。姓は知らない。

 この頃の彼に、宇宙に名を轟かす英雄の面影は、まだなかった。

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