第2話 人間界への修学旅行

僕は天神さんの境内のおみくじ自動獅子舞キリだ。

開門前の30分、いつものように門番の狛犬さん、門内の丑さんと器から抜け出して自由時間を楽しんでいた。

その時、一人の修学旅行の高校2年生の男子が携帯で境内の写真を撮った。

俺様と波長、性格が合ったんだろう。

その少年の携帯に緑の光と共に俺様は入ってしまった。

正しくは天神さんの仕業だ。

これは俺様の初めての人間界、俗世間への修学旅行だ。

門の結界を出る時に俺様は叫んだ。

「天神さん、狛犬さん、丑さん行ってきます。」

「マサル、どうだ?うまく天神様の写真撮れたか?」

「まあな。逆光だったかな。少し緑に光ってるけどうまく撮れてる。」

「そっか。俺たち来年受験だし。うまく撮れたんら良かったじゃんマサル。」

なんだ。人間の声が聞こえる。この携帯の持ち主はマサルか。

学生か。来年受験?高校生か?

それにしてはチビだな。中学生か?

「おい、聞こえてるぞ。口の悪い、金髪獅子舞。」

「?」

まさか、この少年。この俺様、金髪獅子舞キリ様が携帯に入りこんなことを知ってるのか?まさか。

「へえー。名前はキリか。僕はマサルだ。聞こえていただろう。友達が呼んでるのをさ。」

「あー、聞こえた。」あっしまった人間に返事をしてしまった。

「獅子舞キリ、お前はあわてんぼうだな。

神社の境内の獅子舞は気安く人間と話せないはずだぞ。

悪い人間にみつかったらネットニュースであっという間に世界中にさらされるぞ。

「マサル。お前こそ、口の悪い人間だな。

俺様は由緒正しき神社の

おみくじ自動獅子舞キリ様だ。

俺様をネットにさらすな。写真をとるな。

俺様の魂が持ってかれる。」

「獅子舞キリ。2つ反論するぞ。1つ目、僕はチビじゃないぞ。高2の男子。身長は成長途中だ。2つ目、写真を撮ったのは天神様が僕にしばらくの間、獅子舞キリに人間界の俗世間を見せて欲しいと頼まれたからだ。いい神様だな。」

「そうだ。天神さんはいい神様だ。

マサル、天神さんからの言葉を受け取れる人間は早々にいないぞ。もしかしてお前もこちら側の人間か?」

「ばーか。僕はただの高校生だ。ほら、行くぞ。獅子舞キリ。あまりしゃべっていると友達に変に思われる。まあ、いつものことだからいいがな。」

友達のリキとフウマが「マサル、またブツブツ独り言を言ってるな。次に行くぞ。」

「修学旅行2日目、完全自由時間だ。行きたいところがたくさんあるぞ。」柔道部のリキがいう。背が高く、コワい顔だがいい奴だ。

甘党だ。

そして美術部のフウマ。細くて繊細。

まさに芸術派って感じだ。

フウマは絵が上手い。描いた絵はみんな生きてるようだ。

「マサル、お前の友達たちもお前以上に変わった人間のようだな。」

「こら、獅子舞キリ。僕は天神さんから頼まれたんだ。僕の携帯にいる間は僕の言うことをきくように。わかったか金髪獅子舞。」

「わかってるさ。」


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