対話戦隊ネゴシエイジャー

ちびまるフォイ

非暴力の悪事

「怪人の情報が入った。みんな出動だ」


「博士、了解した! みんな武器を持て!!」


「あ。武器はないぞ」


「へっ?」


隊員たちの武器庫にはのきなみ武器が撤去されていた。


「博士、武器がないのにどう戦えと?」


「批判があったんだ。怪人を暴力で解決するのはいかがなものかと」


「そんな言葉を真に受けるのか!?」


「真に受けなくちゃ戦隊としての活動もできなくての……」


「だが大丈夫だ博士。俺達には巨大合体ロボットがある!!」


「もちろんそれも差し押さえ済みじゃ」


「うそぉ!?」


「街の景観を損ねるし、建造物を破壊する恐れがある。

 それに子どもが真似をしたらどうすると苦情がきての」


「逆にどう真似をするというんだ!!」


「とにかく、武器も特殊な道具もロボットも使用禁止じゃ」


「丸腰じゃないか! それでどうやって戦えと!?」


「人類には他の動物とはちがう唯一の武器があるじゃろう」


「博士教えてくれ! 俺達が唯一残された武器を!!」



「対話じゃ」



「うわ……」


レッドは青ざめたがもうそれしかなかった。

怪人の暴れる現場に快速電車で向かった。


「出たな怪人! やっつけてやる!!」


「ギュヒヒヒ! いったいどうやって倒すのだ?

 知っているぞ。お前ら武器を失ったんだってな」


「そうだ。俺達は今日から対話戦隊ネゴシエイジャーになった。

 でも人類唯一にして最大の武器は残されている!」


「なんだと? そんな隠し武器がまだあったのか?」


「対話だ!! 言葉をかわしあえばわかりあえる!!」



「え、それマジで言ってる?」


怪人が素に戻るくらいには衝撃の提案だった。


「怪人、話してくれ。本当はこんなことしたくないはずだ。

 なにか破壊や暴力をふるいたくなる理由があったんだろ」


「うわ、マジで対話による解決をしはじめた!」


「話してくれ怪人……。解決はできなくても、寄り添うことはできる」


「全身タイツの不審者に寄り添われたくはない!!」


「故郷のお母さんは今のお前を見てどう思うかな……」


「うっ! やめろ! 家族を引き合いに出すな!」


レッドは怪人の弱点を把握した。こいつは家族に弱い、と。

相手の弱点を徹底的に攻めるのが対話戦隊の基本。


「怪人になる前はお前も一般の人間だったんだろ。

 それがどうして怪人なんか……」


「うるさいうるさい! 俺は怪人なんだ!

 母親なんてどうでもいい! ほっといてくれ!!」


「かあさんが~~♪ よなべ~~をして~~♪」


「歌って雰囲気を作り始めるんじゃない!! うああああ!!」


「ではお母さんの登場です」


「ママ!?」


人垣から怪人の母親、ママ怪人が現れた。


「たかし……、お前いったいそこでなにやってるんだい」


「母ちゃん……っ」


「昔はそんな子じゃなかったのに……。

 ああ、どこで私の育て方を間違えてしまったのか……」


「母ちゃんは悪くない! 俺が……闇落ちして怪人になっただけだ!」


「たかし。今からでもやり直せる。

 戦隊さまにごめんなさいして、普通の怪人に戻りなさい」


「いやだ! 俺はもうすでに悪い怪人なんだ!

 この身がどうなっても悪の道にいくと決めたんだ!」


「たかし……あんたって子は……ううう」


泣き崩れるママ怪人。

二体の怪人の様子を見て戦隊は円陣会議をはじめる。


「今回の怪人はなかなか厳しいな」

「普段は泣き落としで、だいたいいけるのに」

「あれをやるしかない」


対話戦隊は唯一没収されていなかった秘密兵器を出した。


「カモン!! 怪人爆殺ボール!!」


「そ、それは! 隊員がかわるがわるパスをして、

 最終的に怪人に当てて爆発させるよくわからん爆弾!!」


「だが我々は対話戦隊。これを怪人にぶつけて爆死させることはできない!」


「ギュヒ! 名前負けはなはだしいシロモノになっちまってるなぁ」


「あくまでも怪人には、な」


「ギュヒ?」


「怪人以外ならぶつけて爆発させるのは全然問題ない。

 ところで怪人、あの鉄塔が見えるか?」


「なにを……」


「もしもあの鉄塔の支柱が爆発で崩れたらどうなるかな?

 ああ、これはまずい、ママ怪人なんか下敷きになるだろうなぁ」


「き、貴様!!」


「ああ、なんだか狙い外れて鉄塔に蹴っちゃいそうだ。

 おい怪人。早く心を入れ替えろ、対話で解決させるんだ」


「こんなの対話じゃない! 恐喝じゃないか!!」


「爆殺ボール、セットアップ!」


「うああああ、やめろ! 蹴ろうとするんじゃない!

 わかった! もう破壊はやめる! いま対話で解決した!」


こうして怪人は懐柔されて仲良く手をつないで去っていった。

対話戦隊が今日も大活躍にて終了かと思いきや。


「大変じゃ。ついに敵の親分が姿をあらわしたぞ」


「ちっ、ちょうど対話で解決したばかりなのに!」


「どうするのレッド?」


「行くしか無いだろう!!」


戦隊は近くの電動キックボードを借りて親玉のもとにきた。


「お前が怪人の親玉だな!!」


「そうとも。私は怪人スピリチュアル。

 お前ら戦隊がここに来る子はタロットカードで知っていた」


「どうとも解釈できるそんなものに頼るとは。

 怪人の親玉といっても大したことできないんだな」


「ふふ、そうかな?」


「レッド早く対話を!」

「ああ!」


戦隊たちはいつものごとく対話モードに切り替える。


「怪人、もうこんなことはやめよう。

 戦いの先に待っているものなんてなにもない」


「ええそうですとも。しかし万物の源である宇宙を見てください。

 そこにはヒーリング・エーテルが魂を形作っているのです」


「怪人だって戦隊と争いたくないはずだ。

 本当はもっと別に解消したいことがあるんだろ?」


「魂の声を聞き、心のチャクラを開放するのです。

 そうすれば運気は自然とあなたの体や周囲に満ちるはずです」


「あダメだこいつ」


レッドはすでに対話が成立しないことを早々にわかってしまった。


「どうしたのよレッド! いつものように対話を続けるのよ!」


「いくら話しても、同じ言語を扱うだけで

 まったく同じ土俵で話している気がしないんだ!」


「言葉が通じればきっとわかりあえるわ!」


「じゃあお前同じ日本語を使えているなら、

 すべての人間と仲良くなれるのかよ!」


「努力しだいよ!!」

「無茶すぎるだろ!」


対話戦隊の中でもいざこざが始まるほどに、

今回の親玉怪人は手ごわい存在だった。


すでにグリーンなんかは懐柔されて、

怪しい数珠じゅずやらアロマなどを買い始めている。


「レッド。次はあなたの番です。

 戦隊として怪人と戦うあなたの今の立場。

 この動物占いよれば、それは求めている居場所ではない」


「まずい、こっちに語りかけてきた!」


「私はアセンションメッセージを届けています。

 あなたの言霊が、ライオンズ・ゲートを開いてくれます」


その言葉に感化されたピンクが怪人側になってしまう。


「ぴ、ピンク!!」


「怪人さま。私はどうすれば幸せになれますか?

 どうすれば望むままの人生を歩めますか?」


「すべては波動エネルギーによるものです。

 今この世界は土の時代。時代に合わせた高波動を得るのです」


「まずい、言ってることはよくわからないが

 対話戦隊が俺だけになってしまった!!」


「レッド、早くあなたも心を開くのです。

 一人でいると魂の精錬度が失われ淀んでしまいます。

 あなたのエンパシー能力はほかより優れている。

 さあ、こちらでその力を活かすのです」


「くそ、このままじゃ……!」


絶体絶命のレッド。

以前のように武器やロボで強制退場させることもできない。


そんなとき対話戦隊の家訓を思い出す。

隣人を愛せよというものだ。


「怪人……。お前はこんなちっぽけな場所でいいのか?」


「なに? ここがちっぽけ? 怪人の親玉が?」


「そう言ってる。俺達隊員も心奪われるほど、お前の能力はすごい」


「そうでしょうとも。だが、それで?

 褒めれば私が一般人の怪人化を辞めるとでも?」


「そうは言ってない。もっとお前の力を広く使うべきだと言っている」


「話がよめませんね? スピリチュアルに話してください」


「こんなちっぽけな城に引きこもって、

 スピリチュアルに当てられた人間を怪人にする生活。

 それより、もっと広大な場所で能力をいかすべきだ」


「そんなこと……できるわけないでしょう?」


「できるね」

「どうしてそう言い切れるのですか」


「お前は、俺達と組んで新しい戦隊として活躍するからだ!!」


まさかの提案をうけ、怪人の視界が広くなった。


「そんなことが……」


「対話戦隊は今日で終わりだ」


「それじゃ来週からはどうなるのですか?」


レッドは新しい全身タイツに身を包んだ。

そして新隊員を含めた新体制で戦隊の名を叫ぶ。



「来週からは、洗脳戦隊マインドチェンジャー!! だ!!!」



一般人を洗脳して怪人化させ、怪人を倒す戦隊ヒーローが誕生した。

彼らの持つパワーストーンは今ちびっこに大人気だという。

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