第30話 再会と新たな謎


夜明けの光が、沖ノ島の静かな海を照らし出していました。舞子と鳴海は、意識を取り戻した奈緒を支えながら、島の一角にある小さな休憩小屋にいました。羽田雫は、静かに三人を見守っています。奈緒はまだ虚弱な様子ですが、瞳には以前の優しい光が戻り、姉たちに申し訳なさそうな表情を浮かべています。

「ごめんなさい、お姉ちゃん…舞子さん…。私、一体何を…」

奈緒の震える声に、舞子は優しく手を握りました。

「もう大丈夫よ、奈緒。辛かったわね」

鳴海も、妹の頬にそっと触れました。「本当に…心配したんだから」

二人の温かい言葉に、奈緒は小さく頷きました。そして、視線を雫へと向け、戸惑ったように問いかけます。

「あの…あなたは…?」

雫は、優しく微笑みながら奈緒に語りかけました。「私は、舞子のお姉さんのような存在よ。あなたのことは、少し前から気になっていたの」

その言葉に、奈緒はますます不思議そうな表情を浮かべます。舞子もまた、雫の言葉の意味を測りかねていました。

「雫姉さん…一体、どうして奈緒のことを…?それに、あの時、あなたが持っていた石は…」

舞子の問いに、雫は静かに答えます。「私の持っていた石も、あなたと同じ。羽田の血を受け継ぐ者に与えられた、特別な力を持つものなの」

「そんな…羽田の血を引く者が、他にもいたなんて…」舞子は驚きを隠せません。母からは、羽田の血筋は途絶えてしまったと聞かされていたからです。

雫は、少し寂しそうな表情で遠くの海を見つめました。「色々な事情があったの。一族は離散し、その力も隠されるように生きてきた…でも、その血は確かに受け継がれている」

そして、再び舞子に向き直り、真剣な眼差しで言いました。「舞子、あなたも感じているはずよ。この地に蔓延る負の連鎖…かつての貞子の怨念が残した、深い闇の存在を」

舞子は、サービスエリアで出会った抜け殻のような存在、そして奈緒を支配した黒い靄を思い出しました。「はい…確かに、恐ろしい力を感じました」

雫は頷きます。「あの抜け殻は、かつてこの地で巫女としての力を得る前に悲劇的な運命を辿った貞子の、強い怨念が形になったもの。そして、あの黒い靄は、人々の心の闇や負の感情を増幅させ、利用しようとする、さらに根深い存在なの」

「そんな…では、奈緒を操っていたのは…」鳴海は息を呑みました。

「ええ。あの影は、抜け殻の力の一部を利用して、奈緒の心の隙間に入り込んだのでしょう。そして、その力を増幅させ、世界を変えようとしていた」

雫の言葉に、三人は言葉を失いました。あまりにも大きな、そして恐ろしい存在の影を感じずにはいられませんでした。

「では、あの洞窟にあった光は…?」舞子が問いかけます。

「あれは、この沖ノ島に古くから眠る、封印の力よ。歴代の巫女たちが、負の力を鎮めるために祈りを捧げ、その想いを石に込めたもの。あなたの石も、そして私の石も、その力と共鳴するの」

雫は、手のひらの白い石を優しく撫でました。「でも、あの封印は、完全に力を失っているわけではない。再び活性化させることができれば、この地の負の連鎖を断ち切ることができるかもしれない」

「では、どうすれば…?」舞子は、希望の光を見出そうと、身を乗り出しました。

雫は、静かに首を横に振ります。「簡単なことではないわ。失われた力を取り戻すためには、多くの困難が待ち受けているでしょう。それに…」

雫は、少し躊躇うように言葉を切りました。「…まだ、全てが終わったわけではないの。あの黒い影は、再び現れる可能性が高いわ」

その言葉に、三人の表情は再び険しくなりました。妹を救うことができた安堵感は束の間、新たな脅威の存在が、彼女たちの心に重くのしかかります。

「では、私たちはどうすれば…?」舞子は、不安と決意が入り混じった表情で、雫に問いかけました。

雫は、舞子と奈緒、そして鳴海を静かに見つめ、力強く言いました。「私たち羽田の血を引く者は、この地に宿る負の連鎖を断ち切る使命がある。共に戦いましょう。あなたたちの力が必要なの」

その言葉に、舞子と鳴海は固く頷きました。奈緒もまた、申し訳なさそうな表情から一転、決意を宿した瞳で前を見据えます。

「私にできることがあれば、何でもします」

三人の決意を確かめた雫は、わずかに微笑みました。「まずは、この島を出て、安全な場所で態勢を立て直しましょう。そして…かつての貞子について、もっと詳しく調べる必要があるわ」

夜明けの海は、静かに輝いています。しかし、舞子、鳴海、奈緒、そして羽田雫の心には、新たな戦いの予感が静かに燃え上がっていました。彼女たちは、まだ見ぬ敵に立ち向かうため、共に歩み始めることを決意したのです。それぞれの胸には、故郷を守りたいという強い願いが宿っていました。

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