第28話 羽田の血筋

奈緒(を支配する影)から放たれる強大な負の感情に、舞子と鳴海は圧倒されそうになります。洞窟内の空気は重く、肌にまとわりつくような不快感がありました。鳴海は、妹の変わり果てた姿に涙を浮かべながらも、舞子のそばを離れずに立っています。

「奈緒…お願いだから、目を覚まして!あなたは、そんなことをする子じゃない!」

鳴海の必死の叫びは、虚しく洞窟内に響き渡ります。奈緒は、冷たい眼差しで姉を見下ろし、嘲笑いました。

「甘いな、鳴海。私はもう、お前たちの知っている奈緒じゃない。この力こそが、真実だ」

奈緒が手を掲げると、洞窟の壁画からさらに多くの黒い影が蠢き出し、彼女の周囲を取り囲みます。それは、かつてこの地で苦しみ、絶望した人々の怨念の具現化のようでした。

舞子は、手のひらの白い石を強く握り締め、心の中で亡き母に語りかけました。「お母さん…私に力を貸してください。奈緒を…みんなを救いたいんです」

その瞬間、白い石が眩い光を放ち始めました。その光は、奈緒を取り巻く黒い靄を僅かに押し返し、洞窟内に温かい、清らかなエネルギーを広げていきます。

「これは…!」

鳴海は、突然の変化に目を見開きました。舞子の身体からも、微かな光が溢れ出し始めています。それは、羽田の血に眠る、巫女としての力の萌芽でした。

「奈緒!あなたの心には、まだ温かい光が残っているはずよ!思い出して!私たちと一緒に過ごした、楽しい日々を!」

舞子は、精一杯の声で奈緒に呼びかけます。白い石の光を浴びながら、彼女は一歩、また一歩と、奈緒に向かって歩き出しました。

奈緒は、舞子の放つ光に、一瞬怯んだような表情を見せましたが、すぐに嘲弄的な笑みを浮かべました。

「無駄だと言っているだろう!お前たちのそんな光など、この闇には勝てない!」

奈緒が手を振り上げると、黒い影が一斉に牙をむき、舞子と鳴海に襲い掛かってきました。鳴海は、舞子を守るように前に立ちますが、その力は圧倒的です。

「鳴海さん、危ない!」

舞子は叫び、手のひらの白い石を掲げました。すると、石から放たれる光が奔流のように広がり、襲い来る黒い影を弾き飛ばします。しかし、その勢いは衰えず、再び二人に襲い掛かってきます。

絶体絶命の状況の中、舞子は、以前母から聞いた言葉を思い出しました。「困った時には、満月の光に石をかざしなさい。きっと、あなたを導く光が見えるはずだから。」

今、この洞窟には満月の光は届きません。しかし、舞子の手のひらの石は、確かに月の光を宿している。彼女は、最後の力を振り絞り、白い石を奈緒に向かって掲げました。

「奈緒…!あなたを、必ず救い出す!」

その瞬間、舞子の身体から、今まで感じたことのない強烈な光が迸りました。それは、白い石の光と、彼女自身の内なる力が共鳴し、増幅された、希望の光でした。光は、奈緒を取り巻く黒い靄を激しく揺さぶり、その中心にいる奈緒の表情を、一瞬苦悶に歪ませました。

しかし、影の力もまた強大でした。光と闇が激しくぶつかり合い、洞窟全体が激しいエネルギーに包まれます。舞子は、意識が遠のくのを感じながらも、奈緒に向かって手を伸ばし続けました。

その時、舞子の背後から、もう一つの強い光が差し込んだのです。それは、洞窟の入り口に現れた、見慣れない女性が掲げる、同じように白い光を放つ石でした。

「諦めないで…!その光は、きっと届く!」

女性の声は、舞子の意識の中に、温かく響きました。その声には、どこか懐かしさを感じました。

一体、この女性は誰なのか?そして、この光は、奈緒を救うことができるのか?激しい光の中で、舞子の意識は、再び闇へと沈んでいきました。

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