第26話 沖ノ島への導き
満月の光に導かれるように、舞子と鳴海は夜明け前の静かな玄界灘を渡り、神宿る島、沖ノ島の沖津宮へと向かっていました。小さな漁船の揺れを感じながら、舞子は手のひらの白い石をじっと見つめています。石は、依然として淡く光を放ち、彼女たちの進むべき海路を指し示しているようでした。
「お母さんの言っていた場所…本当にあの島にあるのかな」
不安げな鳴海の問いかけに、舞子は力強く頷きました。
「きっとある。あの光は、間違いなく私たちを導いてくれている。奈緒を助ける方法も、きっとそこで見つかるはずよ」
二人の心には、妹を救いたいという強い願いと、迫り来る影への僅かな希望が入り混じっていました。
一方、高宮祭場で栞から手紙を受け取った貞子は、静かにその内容を読み返していました。舞子の切実な言葉、そしてサービスエリアで出会った抜け殻への強い懸念。それらの文字が、今まで曖昧だった記憶の断片と重なり始め、胸の奥に鈍い痛みを呼び起こします。
(あの黒い影は…私の一部だったのか…?)
貞子は、手紙を握りしめ、遥か海のかなたに浮かぶ沖ノ島の方向を見つめました。舞子という見知らぬ女性。しかし、手紙から伝わる温かい想いは、乾ききっていた貞子の心に、微かな波紋を広げていました。自分の中に渦巻く得体の知れない感情、そして繰り返される黒い影の夢。それらの意味を突き止めたいという衝動が、静かに貞子の中で芽生え始めていました。しかし、今はまだ、手紙の言葉を胸に、静かに時が過ぎるのを待つことしかできませんでした。
東の空が明るくなる中、舞子と鳴海を乗せた船は、沖ノ島へと近づいていました。手つかずの自然が残る神聖な島は、静寂の中に強い霊力を秘めているようでした。二人は、島に上陸すると、舞子の夢で見た、沖津宮の奥深くへと続くと思われる道を探しました。
鬱蒼とした原生林の中を分け入り、岩が積み重なった険しい道を登っていくと、やがて、ひっそりと佇む社殿が見えてきました。周囲には、神聖な空気が張り詰めており、安易に立ち入ることをためらわせるような雰囲気があります。
「ここが…沖津宮…」
舞子は、手のひらの石が強く輝き始めたのを感じました。
「でも、奥に行く道はどこに…?」
鳴海が周りを見回すと、舞子は石を掲げ、静かに祈りを捧げるように目を閉じました。すると、社殿の奥の、普段は立ち入りが禁じられていると思われる場所に、淡い光が灯り始めたのです。
「あちらだ…」
舞子は、導かれるように光の方向へと歩き出しました。鳴海も、姉の背中を追うように、神聖な領域へと足を踏み入れました。二人の胸には、奈緒を救うという強い決意だけが灯っていました。それぞれの場所で、それぞれの想いを抱きながら、物語は、核心へと向かって動き始めていました。
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