『俺達のグレートなキャンプ24 冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究』

海山純平

第24話 冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究

俺達のグレートなキャンプ24 冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究


第1章 突飛な発案

「今回のキャンプは、冷しゃぶに合う奇抜なタレを研究するぞおおおおっ!」

石川の雄叫びが本栖湖に反響し、湖面が揺れたかのような錯覚を起こした。近くの釣り人が竿を取り落とし、鳥たちが慌てて飛び立った。

「は?冷しゃぶのタレ?頭大丈夫?熱中症?」

富山は目を白黒させながら、まるで世紀末を見たかのような表情で石川を見つめた。その視線の先では、石川が両腕を大きく広げ、まるで新興宗教の教祖のごとく天を仰いでいた。隣では千葉が、まるで初めてディズニーランドに来た子供のような目の輝きで拍手喝采していた。

「だってさぁ!夏のキャンプといえば冷しゃぶに決まってんじゃん!でも、いっつもポン酢だのごまだれだの、もううんざりなんだよ!俺たちはグレートなキャンプをするんだぞ?ならタレもグレートじゃなきゃダメだろ!」

石川は胸を張り、まるでそれが宇宙の真理であるかのように断言した。彼の「奇抜でグレートなキャンプ」は、いつも常識を吹き飛ばす突飛な展開で仲間を振り回す。

「それ、めっちゃ面白そう!血が騒ぐ~!」千葉は全身でテンションを表現し、飛び跳ねた。「どんなタレ作るの?頭の中はもうタレまみれ?」

「いやまだ考え中!でもな、俺はミントチョコ味のタレを検討してる!」石川は確信に満ちた顔で言った。

「はぁ?豚肉にミントチョコ?お前の舌、大丈夫?」富山の顔がみるみる青ざめていった。「それって食べ物で遊んでない?」

「遊んでねぇよ!真剣勝負だ!奇抜っていうのはな、常識を超えることなんだよ!チョコミントアイスは美味いだろ?なら豚肉にだって合うかもしれないじゃん!」

石川の熱弁に、富山はまたため息をついた。頭を抱え、心の中で「なぜ私はこの人についていくのか」と自問自答する。しかし、彼女はよく知っていた。石川のこの狂気じみた情熱こそが、彼らのキャンプを特別なものにしていることを。

「じゃあ僕は…そうだ!コーラとケチャップを混ぜたタレはどう?ぶはははっ!」千葉が突然悪の科学者のように高笑いした。

「おおっ!それすげぇ!食べ物界の革命児だな、千葉!」石川は千葉の肩を力いっぱい叩いた。

「ちょ、痛いって!でもありがとう!」千葉は嬉しそうに頬を掻いた。

富山は二人のハイテンションな掛け合いを見ながら、心の中でつぶやいた。

「この世の終わりが来たのかしら…」

第2章 奇抜な材料集め

「よーし!じゃあ材料を集めるぞおおおっ!出陣だ!」石川は剣を掲げる騎士のようにフライパンを振り上げた。「富山、お前は何のタレを作る気だ?」

「え?私もあの狂気に参加するわけ?」富山は頭がクラクラしてきた。「普通のごまだれでいいわよ…」

「んなわけあるかーーーっ!」石川の叫びに近くのテントが揺れた。「それじゃあグレートなキャンプにならない!頭の歯車をグルングルン回せ!」

「うわぁ…」富山は両目をぎゅっと閉じ、脳内会議を開いた。「じゃあ…梅干しとバジルとオリーブオイルのタレはどう?変だけど、一応食べられそうなレベルで…」

「おおっ!それ意外とマトモじゃん!でもいいぞ、許す!」石川は親指を立てた。「よっしゃ、買い出しいくぞぉ!」

三人は近くのスーパーに急行した。石川はミント、チョコレートソース、ウィスキー(!?)を手に取り、千葉はコーラ、ケチャップ、カレー粉(!?)を選び、富山は梅干し、バジル、オリーブオイルを恐る恐る籠に入れた。

「あ!これも必須だ!」石川が突然叫び、ブルーチーズを手に取った。その匂いに周囲の客が数歩後ずさった。

「それもタレに入れるの?匂いだけで卒倒しそう…」富山が青ざめた顔で尋ねた。

「奇抜さの大爆発だろ?香りが鼻腔をブッ刺す感じ!」石川は猛獣のような笑みを浮かべた。

レジでは三人の買い物籠を見た店員が、明らかに動揺した表情を隠せなかった。

「あの…これ全部、料理に?」レジ係が恐る恐る尋ねた。

「そうです!冷しゃぶのタレ研究なんです!人類の舌の限界に挑むんです!」千葉が火星人に遭遇したかのような興奮した表情で答えた。

「そ、そうですか…救急車の番号は119番ですよ…」レジ係はレシートに救急番号を念のため書き添えた。

キャンプ場に戻った三人は、まるでオリンピック選手のように気合十分だった。石川は両腕を広げて宣言した。

「俺たちのグレートなキャンプ、冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究、今から開幕だぁぁぁ!」

周囲のキャンパーたちは、まるで危険生物を見るような警戒心と、電車の事故を見てしまった時のような罪悪感入りの好奇心で三人を見つめた。

第3章 タレ研究開始

テーブルの上には、白く茹でられた豚肉のしゃぶしゃぶが、冷水でキュッと締められ、魂の抜けた目で自分の運命を待っていた。

「まずは俺の『ミントチョコブルーウィスキータレ』だ!」石川は小さなボウルにミントの葉を拳で殴りつぶすように刻み、チョコレートソース、醤油、ごま油、そしてブルーチーズを鬼の形相で混ぜ始めた。最後にウィスキーを「火を噴くドラゴン!」と叫びながら投入した。

「うわぁ、なんか地獄の釜の匂いがする…」富山が片手で鼻をつまみ、もう片方の手で扇ぎながら言った。

「それが奇抜のエッセンスってもんだろ!」石川は薬品混合の科学者のような精度で最後の調整をし、完成したタレを宝物のように持ち上げた。「第一号の完成だ!」

石川のタレは、沼地のような茶色と緑が混じり合い、表面には不穏な油の膜が浮かび、まるで呪いのポーションのような見た目だった。

「次は僕の『コーラケチャカレータレ』の登場だ!」千葉はコーラをグラスに注ぎ、ケチャップと醤油、そしてカレー粉を加えた。「あ、もっと複雑な味にしたいな」と言って、蜂蜜とにんにくも加えた。混ぜると、まるで泥沼から引き上げられたばかりの古代の壺のような色合いになった。

「お前のそれ、もはやタレですらなくない?」富山が首をかしげ、遠巻きに眺めた。

「奇抜よりカオスじゃん、素晴らしい!」石川が両手で拍手した。

「最後に私の『梅バジルオリーブタレ』…」富山は梅干しをつぶし、バジルを細かく刻んで、オリーブオイルと少量の醤油を混ぜた。彼女のタレは見た目は他の二つより人間向けの食べ物に見えたが、それでも通常の冷しゃぶタレの範疇からは遙かに外れていた。

「よーし!俺たちの三種の狂気タレの完成だ!」石川は戦いに挑む武士のような表情で宣言した。「さあ、人類の舌の新たな地平を開拓するぞ!」

第4章 衝撃の試食

「いただきまーす!」三人はまるで最後の晩餐を前にしたかのような緊張感で声を合わせた。

石川は自分のミントチョコブルーウィスキータレに豚肉をつけ、「歴史的瞬間だ!」と言って勢いよく口に放り込んだ。

一瞬、彼の表情がまるで窓の外を見ると大型トラックが突っ込んでくるのを目撃した人のように凍りついた。続いて、彼の顔は七色に変化し、瞳孔が開いたり閉じたりを繰り返した。

「う、うぐっ…これは…!」石川はむせながらも言葉を続けた。「最初にミントの清涼感が舌を刺して、次にチョコの甘みが広がり、そこへブルーチーズの濃厚な風味が襲いかかり、最後にウィスキーの炎が口内を焼き尽くす!だがそこに豚肉の旨味が不思議と調和して…これは…まるで舌の上でロックフェスティバルが開催されてるようだ!」

彼は興奮で震える手で再び肉を取り、タレにつけた。「やべぇ…クセになる!脳が混乱してるけど、手が止まらない!」

千葉も自分のコーラケチャカレータレを試した。肉を口に入れた瞬間、彼の目が飛び出し、口から煙が出そうになった。「うほぉっ!これ、舌が何言ってるかわかんない!甘い!辛い!酸っぱい!うま味!全部が喧嘩してる!でも…でも不思議と次の一口が欲しくなる!まるで味覚のジェットコースターだよ!ガタンゴトン上がって、急降下して、グルングルン回って…ヒャッホー!」

富山は二人の様子を見て、自分のタレへの恐怖が倍増していた。「もう帰りたい…」と思いながらも、意を決して自分の梅バジルオリーブタレに豚肉をつけ、覚悟を決めて口に入れた。

「あれ?これ…」彼女の目が徐々に開いていった。「梅の酸味が最初にビシッと来て、次にバジルの香りがふわっと広がって、オリーブオイルのまろやかさが全体を包み込む…これ、めっちゃうまいじゃない!豚肉との相性も抜群!もう一回食べよ!」彼女は急に食欲全開モードになり、次々と肉をタレにつけて食べ始めた。

三人の奇妙な試食会は、隣のサイトのキャンパー家族の注目を集めていた。特に、小学生の男の子がまるで動物園の珍獣を見るような目で彼らを見つめていた。

「あの…何をやってるんですか?」父親らしき人物が好奇心と警戒心が入り混じった表情で近づいてきた。

「俺たちのグレートなキャンプ、今回は冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究です!」石川はまるでオリンピック金メダリストのような誇らしさで答えた。「よかったら人体実験に参加しませんか?」

「人体実験って…」父親は引きながらも、どこか惹かれるものを感じているようだった。

「お父さん、僕やってみたい!」小学生の男の子が興奮して飛び跳ねた。

「そうそう、子供はまだ味覚が固まってないからこそ、新しい味の発見ができるんだ!」石川は得意げに言い、ミントチョコブルーウィスキータレを少し分けてあげた。

男の子はそれを試し、まるでジェットコースターに乗っているかのように表情がコロコロ変わった後、「うわぁ!口の中で戦争が起きてる!でもなんか、もう一回食べたい!」と言った。

それを見た父親も負けじと「じゃあ、私も…」と千葉のコーラケチャカレータレを試した。一口食べると、彼の顔は赤と青を行ったり来たりし、最後に「これ、どう表現したらいいか…まるで口の中で花火大会が開催されてるような…焼肉屋にあったら絶対注文するわ!」

「ほらみろ!俺たちのタレは人々を狂わせる力がある!」石川は勝ち誇ったように叫んだ。

すぐに噂は広がり、他のキャンパーたちも興味津々で集まってきた。「私たちも味覚の冒険に参加していいですか?」と、若いカップルが声をかけてきた。

「もちろん!みんなで舌の限界を突破しよう!」石川は腕を広げて歓迎した。

あっという間に、彼らのテントサイトは「奇抜タレ研究所」と化し、次々と新しいアイディアが飛び交った。キャンプ場のおじいさんがわさびとはちみつのタレを考案し、試食した人々が「痛い!甘い!でも止まらない!」と叫び、外国人バックパッカーがカレー粉とヨーグルトと醤油のタレを作り出し、それを食べた人が「インドと日本が口の中で国際結婚した!」と絶叫した。

「石川、またやっちゃったね…全キャンパーを巻き込む味覚テロ…」富山はあきれながらも、自分のタレが予想外に人気で、内心は誇らしかった。

「それがグレートなキャンプの真髄だろ!明日からこのキャンプ場の伝説になるぜ!」石川は両手を天に掲げて宣言した。

第5章 大どんでん返し

夕暮れが近づき、キャンプ場全体が「奇抜タレグランプリ」の熱狂に包まれていた。すべてのキャンパーが参加者となり、自分のお気に入りのタレに投票する。

「優勝発表だぁ!」石川がドラムロールの音を口で再現しながら叫んだ。「そして栄えある第一位は…富山の梅バジルオリーブタレ!」

「は?私?」富山はまるで宝くじに当選したかのように口をポカンと開けた。「私のが一番奇抜じゃなかったのに…」

「だって一番マジでうまかったからだよ!」小学生の男の子が両手を上げて言った。彼の口の周りには梅バジルオリーブタレがべっとりとついていた。

「奇抜さもいいけど、実用性も大事ってことだな!富山、お前すげぇよ!」石川は彼女の背中をバシバシと叩いた。

「ちょっ、痛い!でも…ありがとう」富山は照れながらも嬉しそうに笑った。

そのとき、びしっとしたスーツを着た男性が近づいてきた。「皆さん、素晴らしいイベントですね。実は私、日本キャンプ協会の者なのですが…」

男性は彼らの「奇抜タレ研究会」に感銘を受け、次の月のキャンプフェスティバルの公式イベントとして「革命的冷しゃぶタレコンテスト」を企画したいと持ちかけてきた。さらに、富山の梅バジルオリーブタレを商品化したいというオファーまで出した。

「マジかよ!?」石川は椅子から転げ落ちるほど驚いた。「俺たちのくだらないノリが全国区になるのかよ!」

「くだらなくないよ!これ、料理革命の始まりだよ!」千葉は全力でハイジャンプした。

「まさか私のタレが商品化されるなんて…」富山はあまりの展開に頭がクラクラしていた。「これって夢?」

「夢じゃねぇよ!現実だ!俺たちのグレートなキャンプが歴史を変えたんだ!」石川は声を振り絞った。

夜が更けていく中、キャンプファイアーを囲んだ彼らは、冷しゃぶのタレを片手に語り合った。

「石川、次は何をするの?」千葉がまるで子供のようにワクワクした様子で尋ねた。

「次はな…」石川は炎を見つめながら言った。「焚き火で作る世界一高いマシュマロタワー対決だ!高さ3メートルを目指す!」

「はぁ!?それ絶対崩れるし火事になるでしょ!」富山がパニック声で叫んだ。

「大丈夫、大丈夫!どんなに危なくても、みんなでやれば楽しくなるって!」千葉がピースサインを作りながら言った。

「そうだよ、みんなでやるからこそ楽しいんだ!たとえ火だるまになっても!」石川も同意した。「これが俺たちのグレートなキャンプってもんだろ!」

富山はあきれた表情を浮かべながらも、笑みを浮かべた。確かに、彼らと一緒にいると、どんな馬鹿げたことでも最高の思い出になる。それがわかっているからこそ、彼女は毎回石川の狂気の渦に飛び込むのだ。

「次回の『俺達のグレートなキャンプ25 焚き火で世界一高いマシュマロタワー対決』、命知らずな奴らは全員集合しろー!」石川は夜空に向かって雄叫びを上げた。

周囲のキャンパーたちは「またあの狂人たちか…」と呟きながらも、すでに次回の彼らの冒険に密かに期待しているようだった。

こうして、「俺達のグレートなキャンプ24 冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究」は、予想外の大成功と次なる危険な冒険の予感を残しながら幕を閉じたのだった。

翌朝、キャンプ場を去る三人。富山の梅バジルオリーブタレのレシピを求めるキャンパーたちが長蛇の列を作る中、石川は満足げに言った。

「よーし!マシュマロタワー用の消火器、忘れずに買っておくぞ!」

「それより救急車の予約した方がいいんじゃない?」富山はため息交じりに言った。

「大丈夫!千葉の父ちゃん、消防士だし!」

「それが安心材料になるわけ!?」

三人の笑い声が、朝の本栖湖に響き渡った。

(おわり)

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『俺達のグレートなキャンプ24 冷しゃぶに合う奇抜なタレ研究』 海山純平 @umiyama117

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