リゥユ、ガムを噛む

「なあ」


無悪善吉は竜ヶ峰リゥユに話しかける。

二人は廊下の前に立っていた。

此処は、回顧屋嶺蕩。

無悪善吉たちは、現実世界へ帰還を果たしていた。


「なに?」


竜ヶ峰リゥユは口をもぐもぐさせていた。

ほのかに薫る彼女の吐息は、甘ったるいコーラの匂いがする。

ダイエットの為に作られた、シュガーレスのコーラ味のガムを噛んでいた。


「今更だが、俺達を襲って来た奴、なんだ?」


両方とも和風な甲冑に身を包んでいた。

顔は分からないが、少なくとも禍霊では無かった。

無悪善吉たちを見て襲った、その理由とは何なのか。


「……〈戮殲鏖蒐りくぜんおうしゅう〉、あいつらは、戦闘集団」


と、竜ヶ峰リゥユは簡単に説明をした。

戦闘集団?と無悪善吉は首を傾げた。


「ナラカに侵入する鴉は、私達の様に禍遺物を回収する事を目的にしてる奴ばかりじゃないの、肉体に宿る呪いを解く為に、最下層まで行こうとする奴、他にも、ただ戦闘がしたいだけの理由を持つ奴……〈戮殲鏖蒐りくぜんおうしゅう〉は、そんな頭のイカれた戦闘集団なの」


そして、竜ヶ峰リゥユは歯軋りをした。


「その組織の中には、……ババアの弟もいる、あたしが戦ってた、呉嶺玄って言う奴……あたしとババアを裏切った、最低な奴」


無悪善吉は、何やら事情がある、と思った。


「詳しい話は分かんねぇけど、ぶっ殺したんだろ?溜飲は下がったんじゃねえの?」


殺しはしたが、それでも、生きてはいる。

竜ヶ峰リゥユは、相手が生きている事自体許せない様子だった。


「あいつは、どんな手を使ってでも、倒さないといけないの、ババアを裏切った罪は重たい、報いは絶対に受けさせる……」


心の底からの復讐心を煮え滾らせる竜ヶ峰リゥユ。

彼女の顔を覗き込む様にしながら、無悪善吉は言った。


「其処まで恨まれるなんざ、相手も可哀そうに」


そして彼女の神経を逆撫でする様な事を言った。

当然、相手の肩を持つ様な言葉に、竜ヶ峰リゥユは無悪善吉を睨んだ。

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