奈落、門がある
竜ヶ峰リゥユが無悪善吉に近付いた。
「そこら辺の説明しとかなくちゃ、手当たり次第回収しそうだよね、あんた」
既に指環を回収した無悪善吉に向けて、少し遅れた発言を行う竜ヶ峰リゥユ。
「まず最初に、禍遺物には等級があるの」
等級は三級~特級があり禍遺物は、能力の強さ、呪いの効力、道具の希少性から等級が定められる。
「簡単に言っちゃうと、高ければ高い程、売買の値段が高くなる」
三級相当の禍遺物であれば、約1000万以下。
二級相当の禍遺物であれば、1000万から1億以内。
一級相当の禍遺物であれば、1億以上の値打ち。
特級に至っては、時価となっている。
なので、等級が高ければ高い程に、売却時の値段も高くなるのだ。
「効力が高ければ高い程、呪いの純度が高いから、高く売れるんだよね」
幽谷りりすも当初、その敵と対峙した時、簡単に禍遺物を回収してぬか喜びをしたものだ。
「基本的には、だけど、大抵の禍遺物は同じモノが多いから、多ければ多い程に価値が低くなる、同種の禍霊が出た場合、禍遺物もドロップするけど、当然同じアイテムだから、その指環、名前が〈大金剛力士の指環〉って言うけど、等級は三級」
だから、無悪善吉の両手で作ったおわんの中に入った指環を指差して言った。
「値段にして言えば、十万円くらい」
一個、十万かと、無悪善吉は思った。
先述の話からして、値段は最低に近いが、十分な値段だろう。
「十万?結構高いじゃねえかよ」
十万の指環が十個で百万円。
先程の敵を百体倒せば百個の指環が手に入るとして、一千万の値段で売却出来る。
そう考えれば、回収しておいて損はないと思ったのだが。
「百個で十万円、なんだよね……嵩張るし、売れた場合に限るから」
そう聞いて、無悪善吉は途端にこの指環に興味を失った。
単純に考えれば、百体の化物を倒して十万円、と考えると、労力の割に見合わない代物だったからだ。
「……要らねぇじゃねえかコレ」
ゴミを見る様な目を浮かべて無悪善吉は手放したくなった。
「効果もそれなりだしね……」
効果。
この大層な名前が付けられた指環を装着する事で何が起こるのか、無悪善吉は聞いた。
「効果ってどんなのだよ?」
近くに居た竜ヶ峰リゥユが代わりに話し出す。
「装着したら筋力と膂力の強化」
指環を装着すればする程に、物理的攻撃力が上昇する効果を持ち合わせているらしい。
それを聞いた無悪善吉は、売る事に関しては無価値だが、使用する分には十分な効力では無いのか、と改めてこの指環に関する価値を見出した。
「はあん……売れないけど、使えば強くなるんだな、俺が個人的に貰っとくか……」
無悪善吉の戦闘スタイルは基本的にステゴロである。
これを装備すれば、筋力や力が上昇するのならば、装着して損はないと思っていたのだが、竜ヶ峰リゥユがその考えを打ち棄てる様な事を言い出した。
「その指環の呪詛だけど、使う度に筋肉が増量し続けるってもんだから、効果は基本的に永続、使い続けると筋肉繊維に埋もれて死ぬよ」
全身から筋肉繊維が溢れ出して、肉に埋もれる自分を想像する。
デメリットの方が強いと感じた無悪善吉は、ばっちいものを捨てるかの様に、指環をその場に投げ捨てた。
「……やっぱ要らねぇよ、こんなの」
一応、幽谷りりすがその指環に関してフォローを入れる。
「他の禍遺物と併用すれば、強いかも知れないけど……」
けれど、どの禍遺物と組み合わせれば強いのか考えつかず、言葉は次第に尻すぼみに消えていく。
間髪入れずに、竜ヶ峰リゥユが不要である事に関してきっぱりと言い切った。
「物理攻撃するよりか、他の特殊能力で戦った方が効率が良いしね」
他の禍遺物の方が、より特別な能力を所持している。
もしも単純な力に惹かれて装備すれば、それこそ後になって後悔してしまう。
その言葉で、無悪善吉は完全に諦める事にした。
両手に付着した砂を手で払う。
「ふう、危うく、俺が筋肉達磨になる所だったぜ」
自分のみっともない姿を想像しながらそのような未来にならなくて良かったと、心の底から安堵する無悪善吉。
無悪善吉のバカ騒ぎを無視するように竜ヶ峰リゥユは歩き出した。
「早く進むよ、もしかしたら、同業者の〈鴉〉に出会うかも知れないし」
同業者その言葉を聞いて無悪善吉は新たなる疑問を浮かび出した。
「同業者?……そういや、他にも俺らみたいなのが居るのか?」
自分たち以外にもこうして呪いのアイテムを回収するチームが存在するのかと2人に聞いたのだ。
すると幽谷りりすは無悪善吉の質問に答える。
「あ、うん……ナラカは、複数の門があるからね」
門という言葉に無悪善吉は首を傾げた。
「門?」
その名前から察するに出入り口のようなものだろうかと無悪善吉を察した。
歩きながら竜ヶ峰リゥユが代わりに答える。
「そ、ナラカは基本的に異次元空間だから、空間が不安定じゃないと繋がらないの」
彼女は門がなければダンジョンに入ることはできないことを告げた。
「稀に、強力な呪いが現実世界にあると、それを回収する為に開く事もあるけど」
無悪善吉は店長が言っていたことを思い出す。
迷宮は生きていると彼女はそう言っていた。
生きているからこそ腹が減るし食べ物を求めて蠢くのだと。
「ああ、俺みたいにか」
無悪善吉が迷宮へと落ちた理由がそうだった。
「まあ、基本的にナラカに移動する手段は限られてんの」
基本的には門を使って迷宮へと移動する。
それが原則であった。
「けど、門はナラカと現実世界を繋ぎ止めるトンネルみたいなもの、一度繋げる事が出来たら、後は出入りが自由」
逆に門がなければ彼女たちは仕事をすることができない。
門があるからこそ鴉として仕事をしているようなものだった。
「当然、他の鴉も同じ様に門を持ってるってワケ」
「なら、一家に一台、奈落門があるのか」
それならば自分の自宅にも一つ門を作っておきたいなと無悪善吉はそう思った。
そうすれば自分が朝目覚めた時にいち早く出勤することができる。
無悪善吉の甘い考えに対してそれはできかねるといった具合に竜ヶ峰リゥユは行った。
「他の鴉が仕事をする場合はね、けど、あんまり門を増やす事は無いよ」
その口調はどちらかと言えばあまりおすすめすることはできないと言った具合でありしかし理由を聞かない限り無悪善吉もまた納得できない様子だった。
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