人類、呪いが使える
全人類には、異能力を所持していると呉白蘭はそう言っているのだ。
ちゃんちゃらおかしい事ではあった、異能力とは、物を手を使わず操作したり、火や水、自然現象を操る力であると、無悪善吉は認識していたからだ。
「対象に対して、強烈な負の感情を浴びせると、肉体に変異を齎すもの」
呉白蘭は、人間が持つ異能に関する事を話し出す。
人間には感情がある、その感情はエネルギーであり、肉体から放たれるエネルギーを浴びた人間に悪影響を及ぼす力であると告げた。
人々は感情を発信し、それを受信する事が出来る。
個人の強い感情を発信させれば、それを受信した人間は、強い感情を浴びて体調を崩す事がある、と。
「人はそれを呪いと呼び、発露した呪いは暗い場所を求める」
そして、放出された悪感情は宿主の元へ戻る事は無い。
光が地面に向けて降り注ぐ様に、重力が地面を抑え付ける様に、悪感情と言うエネルギーも同じ様に、地面へと落ちていく。
二千年以上も昔から、悪感情が発生したことにより、地層にエネルギーが充満してしまった、それが何れ結晶となり空洞となり、異空間へと変貌していった。
「それが、ナラカと呼ばれる呪いの巣窟」
其処までの説明を受けて、何となく無悪善吉は理解していた。
「はぁん……で?」
要するに、人の力で異空間が出来た、悪い意味で。
それだけ理解して居れば良いと、無悪善吉は解釈した。
話を続ける呉白蘭。
「ナラカは呪いが充満しているから、常人が入れば致死量の呪いを受けてしまう」
当然、呪いが充満している。
普通の呪いを宿していない人間が入れば、その時点で肉体に悪影響を及ぼし、精神に支障をきたしたり、肉体が本人の望まぬ姿へと変貌したり、最悪、苦しみの果てに絶命をしてしまう。
普通の人間は、入る事等出来ない場所なのだ。
だが、何事も例外と言うものが存在する。
それが、最初から肉体に呪いを宿している者、である。
「呪いを最初から宿している人間は当然耐性を持つ、だからナラカで活動出来るの」
しかし、何故呪いを宿すと無事であるのか。
其処が、無悪善吉には理解出来ない事であった。
「……言ってる意味が分かんねぇよ」
もっと深く説明を求める無悪善吉に、そうね、と唇に指を添えた状態で呉白蘭は例えばを考えた末に無悪善吉に説明する。
「ようするに、フグが毒があるのに死なないのはそういう体質だからって話よ」
これ程分かりやすい説明もないだろう。
すっと、彼女の説明が無悪善吉の中に入り込んだ。
「あぁ……成程」
握り拳を作って、もう片方の手を叩く様な相槌の仕草を行った。
「稀に、ナラカは餌を求めて、自らの体内に人を招き寄せる事もあるけれど……」
後ろについて来る無悪善吉の方を見た。
彼女の説明に無悪善吉は引っ掛かった様子で聞く。
「……おい、なんだよ、その言い方、まるで生きてるみたいに」
ナラカと言う迷宮が、さながら生命の様に活動している。
呉白蘭の言葉は、少なくとも無悪善吉にはその様に聞こえていた。
何かしらの比喩である可能性もあったが、呉白蘭はそうだ、と言いたげに首を縦に振った。
「ええ、生きているの、ナラカは」
少なくとも、呉白蘭はそう思っているらしい。
何故ならば、と前置きを置いた末に、彼女は理由を口にする。
「人間の一番人間らしい部分を糧にして成長しているんですもの」
悪感情……憎悪や悔恨、嫉妬や憤怒、それらの感情は、人間の素を引き出す部分であり、その悪感情を糧に成長をするナラカこそ、生物であり、人間に近しい存在であると呉白蘭は思っていた。
「まあ、ナラカが生きている生きてないは、人によって考えが違うけれど」
しかし、彼女はその考えを、他の人間に押し付ける気は無い様子だった。
そう言って、自分の考えを伝えるだけ伝えた後に、先程の質問に対する答えを口にする。
「とにかく、君はナラカに入った、当然、その肉体には呪いが宿っている」
ナラカは悪感情を喰らう。
時に、悪感情を宿す大きな獲物を、迷宮へと引き摺り込むのだ。
それが、無悪善吉がある日突然、ナラカへと落ちた理由であった。
「他人から人に酷く呪われた時、肉体に宿る呪いを持つ者、禍憑と言うの」
他者から酷く呪われた存在。
禍いに憑かれた存在、故に、禍憑と呼ばれているのだ。
その説明を受けて、無悪善吉は鼻で笑う。
「おいおい、それだと俺が酷く人から恨まれてる様な言い方じゃねぇかよ」
さながら、自分には縁もゆかりもない話であると笑い飛ばす様に。
しかし、彼女は既に無悪善吉の概要を理解している。
「君は暴力事件を何度も起こしておいて、よくもまあ恨まれて無いって言えるわね」
彼ほど、他人から恨まれている人間は少ないだろう。
問答無用で暴力で解決する様な人間が、他人から呪われている事は明白。
無悪善吉は、その話を誤魔化す様に視線を逸らしていた。
「……君の父親から聞いていた話からすると、多分、そんな単純なものじゃないけれど」
ぼそりと、呉白蘭はそれ以外の要因もあると、呟いたが、その言葉は無悪善吉の耳には入らなかった。
それ程までに小さい言葉であり、ある意味、それは独り言でもあったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます