ヒロイン、主人公と邂逅する



「で、此処を歩いたら良いの?」


探索を開始した竜ヶ峰リゥユと幽谷りりす。

彼女の言葉に、彼女は地図を広げて確認する。


「えぇと、店長さんが言うには、此処から先、待ち人ありって」


「何?その占いの結果みたいな書き方」


白骨の槍を肩に抱きながら不審そうな顔をする。

続けて、幽谷りりすは地図に描かれた走り書きを読んだ。


「運勢、〈大凶〉、方角、〈この先に厄あり〉、恋愛、〈運命の人見つかる〉……」


「あのババア、おみくじに地図を落書きしたの?」


溜息を吐く竜ヶ峰リゥユ。

幽谷りりすは慌てた様子でフォローを入れた。


「た、多分、和ませてくれようと思ったんじゃないのかな?」


「だったら大凶なんて書くわけないでしょ……まあ」


竜ヶ峰リゥユは前に眼を向けると共に、槍を地面に突き刺した。


「此処から先は、大凶である事には変わり無さそうけど」


目の前から歩き出す、複数のモンスターの出現。

それを見たと同時に、竜ヶ峰リゥユは肩の上に乗るトカゲの頭を突く。


「ぷあ」


口を開くトカゲに、竜ヶ峰リゥユは手を伸ばすと共に言葉を掛ける。


「火箭扇と、火霊」


その言葉と共に、トカゲの肉体よりも大きなものを吐き出した。

それは巨大な扇と、神楽鈴の二つであり、彼女はそれを持つと共に、モンスターの群れに目を向ける。


大きな蟲が、廊下の奥から這い出て来る。

芋虫、百足、蟷螂、甲虫……視界に入るだけでも気色の悪い光景が広がっていた。


「火箭扇……」


巨大な扇を振るう。

それと共に発生する熱風は、空気と混ざり合うと、炎へと変化していき、蟲たちに襲い掛かった。


「ぴぎゃぐがッ!!」


奇怪な声を漏らしながらも、硬い皮膚を持つ巨大な人型甲虫が突撃して来た。

肉体に熱を宿して、今にでも肉体が発火しそうな竜ヶ峰リゥユは、神楽鈴を甲虫に向けると、手首のスナップを効かせて音を鳴らす。


しゃらん、しゃらん。

その音と共に、竜ヶ峰リゥユの肉体から発生した熱が急激に冷めていく。

彼女の熱を奪うかの様に、周囲から複数の火球が生成されると、人型甲虫に向けて飛んでいき、硬き装甲と化した殻に衝突、破壊されると共に、甲虫は燃え盛る蟲の群れへと押し流された。


「きっしょ」


燃え盛る蟲の群れを見ながら、竜ヶ峰リゥユは気色悪そうにしながら呟いた。

蟲たちは、これ以上の抵抗をする事無く、炎によって焼き尽くされる。

異臭を放つ中、近くに居た幽谷りりすが話しかけて来た。


「だ、大丈夫?リゥユちゃん」


幽谷りりすは竜ヶ峰リゥユの体調を心配した。

その言葉を受けて、竜ヶ峰リゥユは大丈夫だと言う。


「でも、呪いのアイテムを使うと……呪われちゃうんでしょ?」


竜ヶ峰リゥユが所持する呪いのアイテムの殆どは、自らの肉体に関する呪いの効果、呪詛を宿している。


「呪いのアイテムって……まあ、良いけど、前から言ってると思うけど、あたしは使い方を考えてるから、大丈夫だって」


そう言いながら、彼女は巨大な扇を幽谷りりすに見せつけた。


「これ、火箭扇、能力は振ると熱と火を生み出す、その呪詛は肉体の温度を振る度に上げ続けるって効果」


そしてもう片方、複数の鈴を取り付けた神楽鈴を見せる。


「そして、これが火霊、能力は火球を作り出して自由に動かす事が出来る、そして呪詛が使用者の肉体に宿る熱を吸収するっての」


つまり。

火箭扇を使用した際の効果で肉体に熱が上昇する。

常人ならば耐え切れない熱は脱水症状を引き起こし、最悪、肉体そのものが燃え盛り焼死してしまう。

だが、そうならない様に竜ヶ峰リゥユは火霊を使用した。

これにより、肉体で燃える様な熱を火霊の呪詛によって吸収され、肉体の温度を平常時へと戻すのだ。

これにより、呪いのアイテムの効果を実質的なデメリットなしで使用する事が出来る、と言うものである。


「二つを使う事で、あたし自体は無事なの……だから、心配する程じゃないよ」


改めて説明を行った所で、成程、と幽谷りりすは頷いた。


「あんたも、呪いのアイテムを使っておかないと、慣れないよ」


そう言って、幽谷りりすの首から提げられた彼岸花を模したペンダントに視線を向ける、幽谷りりすはそのペンダントを強く握り締めて、表情を強張らせた。


「う、うん……そう、だよね、頑張らないと……」


幽谷りりすは呪いのアイテムを使うのを恐れる。

元々、彼女は呪われている、故に呪いに関する恐怖を理解している。

自身の肉体が、これ以上に呪われると言うのは、怖れる理由としては十分過ぎるものであった。

だが、何時までも竜ヶ峰リゥユの背中に隠れているワケにはいかない。

自分自身の呪いとも、目を向けなければならない、変わらなければならない。

その為に、彼女はこのダンジョンへと足を踏み入れた。

自分を変える為に、だ。


「さて、と……講義はこれでおしまい、さっさと、仕事を終わらせないと」


そう呟いた直後、竜ヶ峰リゥユは硬直した。

暗闇で出来た壁の先に、何かが迫っているかの様な気配を感じた為だ。


「ど、どうしたの?リゥユ、ちゃん」


彼女は未だ、呪いに関する知識や理解に乏しい。

なので、この先に感じる強大な瘴気を、感じ取れずにいた。


「……後ろ、走って、この廊下じゃ、戦い辛い」


その言葉に、幽谷りりすはどういう意味なのか聞き返そうとした時。


「ちッ」


舌打ちと共に、幽谷りりすを俵持ちすると、後方へと走り出す。


「え、あ?!り、リゥユ、ちゃん!?」


何がなんだが分からない様子で、幽谷りりすは竜ヶ峰リゥユに話を聞こうとしたのだが。


(後ろ、かなりヤバイの来てる、あれ、もしかして……ババアが探して来いって言ってた奴?)


脳内で彼女は考えていた。

もしも、あの強大な力が、彼女達が探していたものだとすれば。


「あたしだけじゃ、対処出来ないでしょ、あんなものっ」


歯軋りをしながら、募らせた鬱憤を晴らす様に口に出す。

しかし、それを口にした所で、この状況をどうにか出来る筈も無かった。


「り、リゥユちゃん、どうしたの?」


そう言いながら、廊下を抜け、暗闇で満ちた大広間へと戻った。

其処は、先程、幽谷りりすがエロ触手によって掴まれた場所であった。

幽谷りりすを地面に置くと共に、竜ヶ峰リゥユは肩に置いた調教済のトカゲ型モンスター、〈辰籠〉に火箭扇と神楽鈴と収容させると、別の道具を取り出した。


「多分、あれがババアの求めてた奴」


そう言いながら、一振りの刀を辰籠から取り出した。

廊下から大広間へと顔を出すのは、上半身裸になった、肉体から黒色の泥を分泌する男性の姿であった。


「厄介にも程があるんですけど」


その男に向けて、竜ヶ峰リゥユは刀を引き抜き、対峙した。



呪いのアイテム、倶利伽羅竜王くりからりゅうおうを使う竜ヶ峰リゥユ。

刀を引き抜く事で、彼女の肉体が変化する。

頭部から角が生えて、体中に鱗が生成される。

尾骶骨からは大木の様なトカゲの尻尾が生え出した。


(取り合えず、無力化させないと)


相手を見据える。

肉体から発生する漆黒の泥と腐敗を齎す霧が顔面を覆い隠している。

その男から発生した泥が生命を宿したかの様に蠢くと、泥は複数の獣の顎へと変化させた。


「ッ、それ」


掌を開くと、大量の泥が分泌される。

男が手を振るうと、泥が津波の如く地面を浸蝕して、竜ヶ峰リゥユと幽谷りりすを包み込もうとする。

それは巨大な獣の口であり、飲み込まれれば肉体は獣の胃袋へと向かい肉体は胃酸で消化される、それ以前に泥の牙で肉体を噛み砕かれて絶命を果たすだろう。


「ふ、ッ」


地面を蹴ると共に、竜ヶ峰リゥユは後方へ跳ぶ。

そして、幽谷りりすの体を再び掴むと、泥へ届かない場所へと移動。


(くッ、やっぱ、あいつ……ッ)


脳裏に過る、ダンジョンで絶対にやってはならない事、を彼女は唐突に思い出していた。

それはダンジョン内でそれをしてしまえば死に直結する、ダンジョンを攻略する者にとっての絶対的な鉄の掟である。

その中で、ダンジョン内部に存在する七大現象が存在する。

例えば、ダンジョンは一定の期間を超えると内部で変化を齎し、最悪、ダンジョンから出る事が出来なくなる、なのでなるべくダンジョンが変化する前に撤退する事。


他にも、ダンジョン内部には呪いが充満している。

充満している呪いは結集し凝縮されると、呪いのアイテムとなったり、モンスターに変化する、即ちこのダンジョンの中では、呪いとは万物に変化するエネルギーなのだ。


その呪いが生命体へと変化する過程、呪いの泥濘と呪いの霧が発生するが、中には生命体へと変化せず、呪いの気体、液体の状態で止まった疑似生命の嵐が存在する。

それに飲み込まれれば、肉体は呪いに浸蝕され、様々な呪いを付加された状態で、生命の成り果てによって喰らい尽くされる。

生命として生まれてすらない死と生の狭間の存在、当然、それを殺す事など出来る筈がない。

故に、このダンジョン内部では、その嵐が垣間見えれば逃げる事しか出来ない、のだが。


(こいつの体内から漏れてる呪いの泥濘と、呪いの霧……間違いない、あいつは七大現象"屍餐死饗宴ししょくしきょうえん"を取り込んでるッ!!)


倒す事の出来ない不定形な怪物。

それを肉体に取り込む事に成功した、男。


「あんたが……ババアの言ってた、サカナシ、ゼンキチッ」


それが、このダンジョンへと落ちた元一般人。

鬼月高校の不良にして孤高の狼、無悪善吉であった。


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