第8話 姉は痴女ではありません。たぶん。
「なるほどねぇ〜、そうだったんだねぇ〜」
「あのぅ……姉貴、いや、姉上、そろそろ機嫌を戻しては頂けないでしょうかね?」
好川とのデートが終わり、家に帰るとすごく不機嫌なお姉さまがお出迎えした。
肩揉みをさせられことのあらましを話す羽目になっている。
姉貴曰く、胸が大きいから肩が凝るらしい。
好川が聞いたら泣くだろうなぁ。
「だから言ったじゃん? 絶対面倒なことになるって」
「そりゃそうだけどさ」
「あんたもう
「姉貴だって処女だろうが」
「それはだいちゃんがお姉ちゃんの処女貰ってくれないからじゃん」
「あーはいはい」
姉貴のこの発言は度々あるが最近わりと本気で言ってるんじゃないだろうかとたまに思う。
俺が帰って来て「肩を揉め」と言ってわざわざ谷間の見える服に着替えてきたからな。
おかげで目線を下にすればさぞ美しい渓谷が拝めるのだろうが目を逸らして今は晩御飯について考える羽目になっている。
「天才お姉ちゃんの考察ではあれだね。そのメスガキさんは育児放棄だったんだろうね。両親共働きでメスガキさんに全然構ってやってない。だから自己肯定感が上がる事がないし、愛されたくて仕方がない。だから構ってくれるだいちゃんに構ってもらってるだけ。べつにだいちゃんじゃなくてもいいんだよ。こういう女は」
「……姉貴、辛口だなぁ」
「その点私はだいちゃんにしか処女あげたくない純情乙女だし? 駆け落ちしてどこか静かなところでひっそり暮らしていこうと思ってるぜ!」
「来世に期待しな」
「わ、私のプロポーズがぁぁぁ」
頭おかしいんじゃないだろうかうちの姉貴は。
しかし姉貴の考察はわりと参考になった。
俺の話を聞いてそこから推測できるルートとしては辻褄は合っているように思う。
べつに俺も姉貴もその手の専門家ではないが、たしかに姉貴は昔から俺を溺愛していた。
毎日家に帰ってきただけでも偉いと甘やかされてきた。
まあ、その結果陰キャの割に自己肯定感の比較的高い俺になったというわけだ。
初芽ミムもかつてはオタクの姫、みたいな扱いだったが今は一般にも受け入れられつつあるというのもあるとは思うが、姉貴のお陰であるとも言えなくはない。
「そんな面倒くさい女なんてやめて、私というナイスボディの都合のいいお姉ちゃんを抱くことをオススメするぜっ! 弟よっ!!」
「同じくらいめんどいぞ姉貴。心配すんな」
「ふふっ。ブラコンほどめんどくない女もいないぜ? 全力でだいちゃんを甘やかしてやる!!」
「今でも充分甘やかされてる。お腹いっぱい」
「ええのか? ここに好きなだけ揉める乳があるんだぜ?」
「だから胸を持ち上げるのやめなさいよ……」
残念ながら、姉貴じゃ勃たないんだよなぁ。
好川ではなったのにねぇ。
つまり女の魅力は胸だけではないということを俺の息子は証明しているわけだ。
「だいちゃん」
「なんだよ姉貴」
姉貴は神妙な顔付きになって姉貴の隣に座るように促してきた。
もう肩揉みはいいのだろう。
「べつにさ、誰かを好きになるのはいいんだよ。10代のうちは色んな事で傷付くのも勉強だとお姉ちゃんは思ってるし」
俺の手を握る姉貴。
いつものブラコンムーブとは違う、ちゃんとしたお姉ちゃんの姉貴。
たまにこうなる。
こうなると俺は逆らえない。優しい姉貴だと知っているから。
「でもね、だいちゃんももうわかってると思うけれど、どれだけ尽くしても言葉が届かないこともあるんだよ。どんなに相手を想っていても」
「……わかってる」
べつに好川の事を好きなわけではない。
好きならもっと必死になっているだろう。
だからこれは恋なんかではない。
「だいちゃんは優しいからね。助けたいって思ったら、多分そうしようとするだろうし、仕方ないことでもあるとお姉ちゃんは思ってる」
助けたいだなんて、そんな大層な事を考えているんけじゃない。
けれど、見捨てられないと思っているのはそういうことなのかもしれない。
男とか女とか、そういう話じゃない。
「どれだけ助けたいと思っても、その人が本気で助かりたくて藻掻いてないならどうしようもないんだよ。だから、お姉ちゃんはその人を助けようとするのはあんまり賛成できないかな。だいちゃんが今後苦しいと思うようになるかもしれないって、辛いって、思いながらその人に依存していくようになるのは嫌だな」
「境界線は引いてるよ。ちゃんと」
「そっか」
好川は言った。
友だちだと。
だからそれ以上の事をする気はない。
友だちがほしいとは俺はあまり思っていない。
強がりとも違う気がする。
俺は今のまま初芽ミムにガチ恋してればそれで充分幸せだと感じている。
だから、好川に対してしている行動はたぶん、自分の為だ。
「まあ? お姉ちゃんとの境界線は全然引かなくていいんだけどね?! それはもうお好きなように使ってくれていいんだよ? どんなプレイも受け入れるよ?! なんなら名前を「弟の専用肉○器」とかに改名してきてもいいぜ?!」
「そんなことを要求する弟なんてろくでもないだろうが」
「あ、肉○器と書いてオ○ホと読むからね。ここテストに出ます!」
「そんなテストがあってたまるか?!」
そんなルビを振るんじゃない。
そしてそんなことを弟に言うんじゃない!
教育上ダメだと思うんだよね。うん。
弟がHENTAIになったらどうするんだよ全く。
「姉貴ってあれだよな、良い事を言っても恥ずかしくなって痴女みたいな事言って誤魔化すよな。そっちの方が恥ずかしくないんだろうかっていつも思うよ」
「なっ?! 何言ってるんだろうなぁ?! お姉ちゃんはこれでもすっごく真面目で超絶優等生で学生の頃なんて高嶺の花って呼ばれてたんですからねっ?! ホントだよ?! 誰もが私の体を見てエロいこと考えてたんだよ?! 私の穢れなき体を幾多の男たちがっ?!」
「あー、うんうん。そうだな。寝言は寝てから言おうな。姉貴」
「信じてないな?!」
「信じてる信じてる〜。愛してるよー姉貴ー」
「おい、お姉ちゃんの目を見て言え。そして私を熱烈に抱け」
「来世でな」
「う〜ん弟がつれなくて辛いぜっ!」
姉貴が高嶺の花だったかなんてどうでもいいし、姉貴が処女かどうかもどうでもいい。
「さてと、晩御飯の準備しようかな」
「はいはいはいっ! お姉ちゃんのリクエストはラザニアがいいです!」
「買物行ってないから無理」
全く困った姉貴である。
だがしかし憎めない。
うちの姉貴はそんな人間である。
……ただまあ、弟離れはしてほしいかな、うん。
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