第41話 年越しの空と、新年の約束
クリスマスイブの、あの特別なメッセージのやり取りから数日が過ぎた。
街を白く覆っていた雪はほとんど溶けたけれど、空気は真冬らしくキリリと冷え込み、空はどこまでも高く澄み渡っている。
俺は、陽菜さんが編んでくれたマフラーを毎日愛用していた。それだけで、寒い冬の日も、心がぽかぽかと温かくなるような気がした。
冬休みも、残すところあとわずか。
年末の大掃除を手伝ったり、遅れ気味だった宿題のラストスパートをかけたり、時々はカメラを持って冬の澄んだ光を探しに近所を散歩したり。そんな、穏やかな日々。
でも、頭の片隅ではいつも、陽菜さんのことを考えていた。今頃どうしてるかな、元気に過ごしてるかな、と。
クリスマスにもらったカメラのキーホルダーは、カメラバッグの一番目立つところにつけている。
そして、大晦日の夜。
家族で年越しそばを食べ、紅白歌合戦をぼんやりと眺めながら、俺はスマホを片手にその瞬間を待っていた。
リビングの時計の針が、まもなく真夜中を指そうとしている。
あと数秒……。
午前零時。
新しい年の幕開けと同時に、俺は陽菜さんへのメッセージを打ち込んだ。
『白石さん、明けましておめでとう! 今年もよろしくお願いします。』
シンプルだけど、心を込めて。新年の挨拶と、そしてこれからも陽菜さんとの関係を大切にしていきたいという気持ちを込めて。縁起が良さそうな、可愛らしい門松のスタンプも添えた。
送信してすぐに、スマホが震えた。陽菜さんからだ。
『相川くん、明けましておめでとう!🎍 こちらこそ、今年もよろしくね!😊』
陽菜さんらしい、明るくて元気なメッセージと絵文字。それを見ただけで、新しい年が素晴らしいものになるような気がした。
『お正月は、ゆっくりできてる?』
俺が尋ねると、すぐに返信が来る。
『うん! おせち料理いっぱい食べて、もうゴロゴロしてる(笑)。相川くんは?』
『俺も似たような感じだよ。お雑煮が美味しかった。』
『わかるー! お餅ってなんであんなに美味しいんだろうね!』
そんな、お正月らしい、のんびりとした会話が続く。
そして、陽菜さんからこんなメッセージが。
『私、明日、美咲と初詣に行こうと思ってるんだ! 相川くんは、初詣とか行くの?』
『うん、俺も明日、家族と近所の神社に行こうかなって思ってるよ。』
『そっか! もしかしたら、どこかでバッタリ会っちゃったりしてね!(笑)すごい人だろうけど!』
陽菜さんのその冗談めかした言葉に、俺の心臓が小さく跳ねた。
(もし、本当に会えたら……)
そんな、あり得ないかもしれない偶然に、淡い期待を抱いてしまう。
『そうだね。もし会えたら……すごい偶然だね。』
そう返信しながら、俺は去年のことを思い出していた。
一年前の俺は、陽菜さんとこんな風に新年のメッセージを交わすことなんて、想像もしていなかった。隣の席の、少し遠い存在だった彼女。それが今では、こんなにも近しくて、温かい関係になっている。
この一年で、本当にたくさんのことが変わった。そして、その変化の中心には、いつも陽菜さんの笑顔があった。
(今年も、陽菜さんと一緒に、たくさんの景色を見たいな……)
新しい年を迎えて、俺の心の中には、そんな静かで、でも確かな決意が芽生えていた。
もっと、陽菜さんのことを知りたい。もっと、一緒に笑い合いたい。そして、いつか……。
その「いつか」が、どんな形になるのかはまだ分からないけれど。
『じゃあ、相川くん、素敵な一年にしてね! また学校で会えるの、楽しみにしてる!』
『白石さんもね。俺も、学校で会えるの、すごく楽しみだよ。』
そんな言葉を交わし、俺たちはメッセージを終えた。
窓の外は、新しい年の静かな夜が広がっている。
俺は、陽菜さんからのメッセージを何度も読み返し、そして、カメラのキーホルダーをそっと握りしめた。
三学期が始まったら、俺たちの関係は、またどんな風に変わっていくのだろう。
冬の寒さの中にも、確かな希望の光を感じながら、俺は新しい年の始まりを、晴れやかな気持ちで迎えていた。
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