死神体質

らいむぎ

奇妙

自分には、昔から仲良くしていた友人がいる。


小さい頃は、当たり前のように一緒に遊んでいたのだが、次第に周りの目に気づき始め、なんとなく、その友人は他とは違うような気がしていた。


そして、ある日母親から、「あんたそろそろ、その独り言、怖いからやめてちょうだい。」と言われたことを境に、友人はこの世のものではないことを悟った。


それでも、その友人とは波長が合ったのか、関係は続いていた。


彼は学校には通わなかったが、自分はよく近所の公園で彼と会って、遊んだり喋ったりしていた。



小学生の頃、一度だけ、彼に尋ねてみたことがある。


「なあ、お前、幽霊だったりする?」

「なんでそう思うん?」

「いや、その…なんとなく?存在感薄いし」

「人のこと言わんといて」

「俺はパン屋のおばちゃんと仲良いし」

「ほな今度お前から話しかけてみ」

「いや話しかけられるからこそ存在感は浮き出るんやろ」

「何をゆうとんねんコミュ障丸出しやな」


でも彼とはこんな感じで、真面目な話よりも、どうでもいいような話ばかりしていたため、結局どういう人なのかよくわからなかった。


自分も、彼とのこんな日々が続くのなら、どうでもいいことだと思っていた。




しかし中学生になり、そうも言っていられない事態に遭遇する。


一回目は中一の夏。

自分の隣の席の女子が、突如行方不明となる。

学校中で噂になり、教師たちや警察が探し回り、一ヶ月後にようやく見つかったが、身体中ボロボロだったらしい。


二回目は中二の夏。

学校で仲良くしていた同じクラスの男子が、プールで溺れた。

すぐに病院に運ばれたが、後遺症が残り、今では別人のようになってしまった。


三回目は中三の夏。

進路について親身に相談に乗ってくれていた先生が、交通事故に遭う。

打ちどころが悪く記憶障害になり、もう教師として復帰することはないという。




これらは、明らかに自分の身の回りで起こりすぎている。


この事実に気づいた中三の自分は、学校に行くのが怖くなり、一時期不登校になった。誰も傷つけたくない。どうしたらいいか分からず、毎日祈ってばかりだった。


そんな時、幸か不幸か、親身になって自分の話を聞いてくれたクラスメイト達がいた。特にその内の一人の女子が、毎日のようにプリント類を届けにきて、「明日も待ってるから!」と玄関から叫んで帰っていった。自分はそのことに救われ、再び学校に通えるようになった。


そして高校生になり、その女子と同じ学校に通うことになった。恋仲になるのは自然な成り行きだったように思う。しかし、中学での経験を度々思い出し、身近な存在となった彼女の身に何か起こってしまったらと思うと、不安は膨らむ一方だった。




ある日友人に、思い切って聞いた。


「あのさ、真面目に答えてほしいんだけど」

「なんや改まって」

「お前なんか俺に呪いかけてる?」

「ようその調子で真面目に答えてくれなんて言えたな」

「いや、マジなんだって」

「考えすぎとちゃうん?」

「そんなわけない。俺の周りの人が悲惨な目に遭いすぎてる。」

「それはたまたま…」

「だってお前、絶対人やないやろ!!」

「おっ、喋り方うつった?」

「そんなんゆうてる場合…」

「…そろそろ話さなあかんか」


急に、彼の目の色が変わった。


「ど、どうしたんだよ…」

「今、自然と俺の喋り方になったん、偶然とちゃうで」


彼はじっとこちらを見つめて話し続ける。


「え、どういう…」

「お前と俺、実は兄弟なんや」

「は!?」


彼は両手を大きく広げ、なぜか誇らしそうだ。確かに、笑った時の目元や口角の上がり具合なんかが妙に自分と似ている。


「しかも、同い年や。」

「は、え!?じゃあ双子…!?」

「そや、嬉しいやろ〜」

「いやいやいや待ってどういうこと全然追いつかない」

「ほんで俺は、死んだんや」

「……は?」


彼の目からすっと、光が消え、大きく広げていた両手をだらんと降ろす。


「俺たちが5歳の時、家族みんなで交通事故に遭ったんや」

「そんなん、知らん…」

「やろ?お前はその時記憶を無くしててん。」

「う、うそやろ…」

「嘘やないで。真実や。お前が全部忘れてたのをいいことに、父さんも母さんもその悲しい事実を記憶の奥底に沈めて、話し言葉も変えて、引越しまでして、お前が傷つかんように気い配っとったんや」


ありえない。

しかし、目の前には自分と瓜二つの人間がいる。

これが真実だった。


「じゃあ、俺の身の回りで色々起こってたのって…」

「お前は事故で死に損なったんや」

「そうなん!?」

「神様が、お前は死んだら死神になるいうから、俺がずっとそばで見守るから〜って泣いて頼んだんやで」

「死神に、なるところだったん?俺が?」

「そや。でも体質として残ってしもたんやな」

「!?」

「だから俺が、お前の体質を一生懸命抑えとるんや」

「あ、だから全員、一応生きてるのか…」

「おー飲み込み早いな」


彼はさらに続ける。


「さあ全部わかったら、あとは一つだけや」

「一つって?」

「何をすっとぼけてんねん、お前のgirlfriendのことや」

「いや急に綺麗な発音せんでええねん」

「今年の夏、彼女の身に何も起こらんように、なんとかせなあかんな」

「いやもっと前に教えてくれよ…」

「だってショックやん」

「うーん優しさには抗えない…」

「お前ええやつやなあ」


二人でふーっと一呼吸おくと、そのまま静かに空を仰いだ。

そして、「そろそろ帰るわ」「ほなまた明日」とその公園を後にする。

話の内容はショックそのものだったが、ここで「よっしゃ頑張るぞー」なんて言ったら、今伝えられた真実を、全部そのまま受け止めてしまいそうで怖かった。


それでも、なんとかしよう。

彼がいれば、何とかなる。


「あれ、そういえば、あいつの名前覚えてないな…」

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死神体質 らいむぎ @rai-mugi

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