一筋縄ではいかない高貴な御方々の結婚事情…!

お馴染みに過ぎるザ・テンプレな婚約破棄の台詞から始まる物語ですが、よくある定番の仕返し・見返しざまぁ的な展開にはならず、結婚話が御破算になったヒロイン(ただし冒頭の破棄台詞とは直接は無関係)の新たな相手探しを主軸に打算だらけの貴族同士の縁組事情があけすけに描かれています。
各エピソードの意外な裏事情・真相を追っていく筋立てはミステリ風味でもあり、駆け引きの中でしたたかに立ち回るヒロインらの策士ぶりも読みどころの一つではありますが、「貴族の女子は政略結婚するのが当然」という価値観上の展開の中で、タイトルにもある「誠実さとは」というテーマ的問いかけが通底にあるストーリー回しはなかなかに巧みだったように思います。
いわゆるナーロッパ世界観であり歴史描写的なリアルを追及した作品というわけではないですし現代的なカタカナ語も使われてはいましたが、「打算的な結婚なんて!」みたいに現代の価値観を安易に持ち込むことなく、闇雲に夢や希望を謳うことなく、この世界観の中での価値観に沿った形の現実的なやり取りに徹していた点は、それはそれでリアルな実感のある物語になっていたように思いました。

ただ4万字強と実質短編の分量ながら、名前のある登場人物だけで15、6人近くが入れ違いに登場しては腹の内を探り合う複雑なプロットは立派に長編並みのボリューム感があったように思います。この内容をこの文字数にまとめるの逆に大変だったのでは?とも思いますが、コンパクトにぎゅっと凝縮した…というよりはむしろ長編作品のひな型というか、本来長編向けに組まれたプロットを最低限体裁を整えて短編化したものでは、という感も若干ではありますが感じられました。終盤の戦争の下りなど、短編にしてもさすがにさらっと流しすぎの感もあったように思いますし…。
登場人物の多さもさることながら「とある貴族が…」と出来事のあらましをさらっと紹介しておいて次話でその人物視点からお話を詳しく語り直す、みたいな反復の中で、語り視点や人称も転々とするため、人物相関を追いかけるだけでもなかなか大変ではあったようにも思います。
(実は3話くらいまでの時点で人物が把握しきれなくなっていったん脱落、なんか悔しかったので最初に戻って人物名を逐一メモを取りながら読み進めました…貴族社会が舞台なので名前と一緒に爵位も把握してないと「子爵令嬢が…」と言われても誰?ってなりがちでしたし…)

全体のボリュームから言えば物語としての情報量はやはり過多な印象で、本来はやはりもう少し分量を費やして描かれるべき物語だったという気はします。ただラストのオチは短編的で、ここを生かして綺麗にタイトル回収したかったのだと思えばあまり長丁場にしたくなかったというのも正解と言えば正解だったのかも…。
書き出しから一般的に期待されるような悪役令嬢や追放ざまぁみたいな展開とは異なりますが、ゴシップまみれの華やかなりし宮廷絵巻としてなかなかに読み応えある一作だったように思いました。