異世界帰還者は歌いたい
Air
第1話 魔王討伐
この10年間の決着はあっけなかった。
「魔王様に平伏しろ‼︎」
頭陀袋を頭から取られた俺は周りを一瞬確認した後、正座しながら魔王を観察する。
おそらくここは魔王城の王の間だろう。俺を召喚した国王の情報が確かならばだが。周りには戦闘員の魔物が20体と宰相、大臣あたりの非戦闘員の魔物が10体いる。
目の前には全長5メートル程だろうか?全身をプラチナの装飾に身を包んだ龍が目前に座っている。こいつが魔王だ。
龍にしては小柄だが与えられるプレッシャーから明らかに見た目通りではないだろう。RPGなら2回ぐらい別形態で変身して厄介なことになりそうだ。装備は儀礼用の様で聞いていた戦闘用の斧は持っていないことが確認できた。
俺は顔色から心理を読み取られない様にすぐに頭を下げる。
魔王が尊大な態度で話し出す。
「此奴が10年間もの間、我が魔王軍の団員を影から殺していた勇者であるか?」
俺が何も答えないでいると、宰相であるガマガエルを醜く大きくした様な魔物が得意そうに答える。
「そうですとも‼︎魔王様、ステータス鑑定によると此奴は異世界からきた勇者でございます。LVを最大まで上げていることから間違いなく軍団員を殺してレベルを上げています。もちろん今は奴隷の首輪をつけているので攻撃はおろか、喋ることすら出来ませんがね。」
ゲッゲッゲッと耳障りな笑い声をあげる魔族に返事を返すことなく魔王はステータス鑑定と唱えた。魔王の面前に俺のステータスが表示される。
-----
ジョブ:勇者
称号:異世界人
Lv:999
HP:9,999
MP:50,670
攻撃力:600
耐久力:900
魔法攻撃力:48,800
魔法防御力: 2500
速度: 3,000
-----
「魔法タイプの勇者であるか、、異世界からの勇者は魔力に精通していないはずだが珍しいな。今までの報告から物理タイプの勇者かと思っていたが。」
まあ良いと呟き魔王は何かを小声で宰相と話し出す。
「四天王は、、、パーティメンバー、、、捕まえ、、方法、、、ぎそ、、、」
これはバレてそうだなと思った俺は苦笑いしつつすぐに戦闘準備を整える。
(スキル発動: 物理法則有効,攻撃優先権,範囲攻撃50m)
戦闘員たちは俺をどう処刑するか?誰に俺の経験値を分配するかを話し出している。
魔王が俺に向かって口を開いた瞬間、奴隷の首輪を引きちぎり最速で拳を地面に振り抜く。
拳の速度は限りなく高速に近づき、魔王以外は反応すら出来ていない。
//勇者の行動
//称号: 愚者の可能性(武器防具禁止+獲得経験値量10倍)の効果を適用します
//防具:奴隷の首輪による防御力,効果を無効化して判定します
//勇者の攻撃:通常攻撃(不意打ち)
//スキル:攻撃優先権により先手を取ります
//スキル:範囲攻撃により対象が魔物01〜30,魔王になりました
//スキル: 物理法則有効により物理攻撃無効を無効にしてダメージを計算します
//勇者の攻撃力301,572を等分してダメージ計算します
//それぞれの耐久力との差分をダメージ計算します
//魔物01〜10は9200のダメージを受けた
//魔物01〜10は倒れた
//魔物11〜30は8228のダメージを受けた
//魔物11〜30の気絶判定(不意打ちのため自動失敗)
//魔物11〜30は気絶した
//魔王は0のダメージを受けた
//経験値4,856,358を獲得した
//称号: 愚者の可能性(武器防具禁止+獲得経験値量10倍)の効果を適用します
//称号: 異世界人(獲得経験値量2倍+ステータス割り振り)の効果を適用します
//差分の経験値43,707,222を獲得した
//魔王が継続戦闘できることを確認
//レベルアップ処理を停止します
拳が地面に当たった瞬間、物理法則を無視して非戦闘員の10人が全て血の塊になる。戦闘員の20人もかなりの重症を負って倒れた。
この世界はゲームライクだ。ステータス、スキル、称号の効果は絶対であり、たとえ魔王だろうが神だろうがそのシステムには逆らえない。
スキル:範囲攻撃は"円形に指定した範囲の相手全員に攻撃する+ダメージは等分される"という効果だ。
俺の攻撃力を31人で割って、それぞれの耐久力を引いた値がダメージとして計算される。
魔王は無傷か、まぁ想定内だとログをチラ見しつつ魔王に飛び掛かる。
「やはりステータス偽装か、とはいえパーティメンバーもいない勇者など大したことはない。」
そういうと魔王は立ち上がり2重詠唱を始めた。
事実その通りで、この世界の人族はパーティを組まないと弱い。魔族はレベルアップ時に得るステータス上昇幅が人族より多く、統計すると5倍近く違う。なのでパーティを組みバフ、デバフと数の暴力により魔族に対抗しているのだ。
とはいえレベルが上がれば上がるほどその差は大きくなる。
魔王から感じるプレッシャーが膨れ上がり、口からブレスを吐き出した。
//魔王の行動
//称号: 魔王の特権(2回攻撃+相手の逃げるコマンドの強制失敗)の効果を適用します
//2回攻撃が可能になった
//称号: 王権(戦闘に参加している配下の数だけ全ステータスアップ)の効果を適用します
//配下が0のため全ステータスを0×1,000アップします
//魔王の攻撃:小手調べだ(自身の全ステータスを2倍+相手の全ステータスを1/2にする)
//魔王の全ステータスが2倍になった
//勇者は称号: 1人の勇者(パーティ禁止+バフデバフ状態異常無効)の効果によりステータスが変わらない
//魔王の攻撃: 龍のブレス(魔法攻撃力を2倍にして相手1体に攻撃)
//魔王の魔法攻撃力399,996(99,999×2×2)でダメージ計算します
//それぞれの耐久力との差分をダメージ計算します
//勇者は359,472のダメージを受けた
//勇者のスキル: 食いしばり(戦闘ごとに発動、HP0になる攻撃にHP1で1度だけ生存する、気絶判定自動成功)によりダメージが軽減されます
//勇者は101,309のダメージを受けた
//勇者の気絶判定(スキル: 食いしばりにより自動成功)
歯を食いしばりながらブレス攻撃に耐える。
通常の人のHPが20〜30だから日本にいた頃の俺なら何人死んでいるのか、こっちはパンイチに首輪つけてたんだぞと思いながらログを確認する。
魔王のステータスが倍になっていることが確認出来る。魔王の魔法攻撃力が最大値であることからおそらくタネ系アイテム(ステータスの値が1増える)を独占してステータスが全て最大値の99,999であることを推察する。
、、、良かった。なら、俺の勝ちだ‼︎
「ステータスオープン」
-----
名前:難波龍一
年齢:26
称号:
持たざる者(MP0固定+ステータス制限解除)
愚者の可能性(武器防具禁止+獲得経験値量10倍)
異世界人(獲得経験値量2倍+ステータス割り振り)
1人の勇者(パーティ禁止+バフデバフ状態異常無効)
ジョブ:勇者
Lv:20,262
HP:1
MP:0
攻撃力:301,572→ 484,192
耐久力:40,524→0
魔法攻撃力:0
魔法防御力: 40,524→0
速度: 301,572→200,000
スキル:
等価交換(HPをMPにMPをHPとして使用可能)
物理法則有効(物理攻撃無効を無効にする)
最上位回復魔法(消費したMPの10倍のHPを回復する)
攻撃優先権(相手の不意打ち以外は必ず初めのターンに先行になる)
食いしばり(戦闘ごとに発動、HP0になる攻撃にHP1で1度だけ生存する、気絶判定自動成功)
ステータス偽装(任意のステータスに偽装できる)
範囲攻撃(円形に指定した範囲の相手全員に攻撃する、攻撃力は分散される)
トドメばり(攻撃後に相手が気絶していない場合に固定ダメージ1を与える)
アイテムボックス(時の流れがない特定の場所の所有権とアクセス権を永続的に待つ)
-----
召喚されて10年間、魔族を殺し続けてきた。休みなんてなかった。世界の半分どころか3割ほどしかない人間の領域で、飯すら魔族を食うしかない世界で。残ったリソースを勇者召喚のガチャを回すしか勝ち目がない魔族との戦争で。
召喚された俺をステータス鑑定した国王がこういった。
「レベルを上げて物理で殴れ」と
ブレスが止んだ瞬間魔王に向かって飛び出す。
//称号: 異世界人(獲得経験値量2倍+ステータス割り振り)の効果によりステータスの割り振りを変更しました
//ステータスを反映します
魔王も爪を振り下ろして来るがスライディングで至近距離まで滑り込む。
体勢はそのままに地面を蹴り、拳を魔王の心臓に叩き込む。
//行動順を決定します
//勇者の速度:200,000が魔王の速度:199,998を上回るため勇者が先行します
//勇者の攻撃:通常攻撃
//勇者の攻撃力484,192でダメージ計算します
//それぞれの耐久力との差分をダメージ計算します
//魔王は284,194のダメージを受けた
//魔王のスキル: 食いしばり(戦闘ごとに発動、HP0になる攻撃にHP1で1度だけ生存する、気絶判定自動成功)によりダメージが軽減されます
//魔王は99,998のダメージを受けた
//魔王の気絶判定(スキル: 食いしばりにより自動成功)
//魔王のスキル:第2形態(次の自分の行動時第2形態へ移行、HP,MPを全回復)が発動待ち
「我もまた食いしばりを持っておるわ‼︎次の我の攻撃で貴様を殺してくれようぞ!」
魔王が第2形態になろうとするがそうはいかない。蜂の幻影が魔王の影から現れ、針を刺す。
//スキル: トドメばり(攻撃後に相手が気絶していない場合に固定ダメージ1を与える)によりダメージを与えます
//魔王は1のダメージを受けた
//魔王は倒れた
「馬鹿な、この我がここで、」
魔王を倒したログを確認し、地面にへたり込む。
「ふぅ、変身中に攻撃するのが新時代のマナーだよな?」
貧乏性ゆえにアイテムボックスからアクセサリーを取り出す。
//成長のブレスレット(獲得経験値量1.5倍)×2,成長のアンクレット(獲得経験値量1.5倍)×2を装備しました
俺は武器、防具を装備出来ないがアクセサリーだけは装備できる。
//経験値100,000,000を獲得した
//称号: 愚者の可能性(武器防具禁止+獲得経験値量10倍)の効果を適用します
//称号: 異世界人(獲得経験値量2倍+ステータス割り振り)の効果を適用します
//アクセサリーの効果((小数点切り捨て)獲得経験値量5倍)を適用します
//差分の経験値10,043,707,222を獲得した
//レベルアップしました
//レベルアップしました
//レベルアップしました
//レベルアップしました
...
ログを見るのを途中でやめて変更したステータスを戻し、今回のレベルアップで得たステータスポイントを割り振る。この10年間繰り返してきたため、もはやルーティンとなっていることだ。アイテムボックスからポーションを取り出してHPも回復しておく。
「そういや戦闘員がまだ気絶状態だったな、トドメだけ刺しておくか。」
1体1体殺していく。
ゾンビ、狼、ヴァンパイア、、気絶した相手を殺すことはやはり慣れない。
全て殺し終えた。これで俺がこの世界でやらなくてはいけないことは終わりだ。
魔族はまだ大量に残っているが、魔王さえ殺せれば後は、この世界の人たちでもパーティ次第で殺せる。
後は国に戻って、国王に報告して、飯を食って、女抱いて、その後、その後、、、
俺は何をすれば良いのだろうか?
10年間魔王を殺すことを目標にしてきた。
魔王を殺すために多くの魔族を殺して、殺して、魔族の村を焼き払って、子供の魔族でも殺して。
後悔はない。魔王を殺すためには必要なことだった。ただ、目標を達成したことでなんというか燃え尽きてしまった。
この世界はゲームライクであるがゲームではない。
日本にいた時はゲームが楽しかった。魔物を狩ってレベルを上げることが楽しかった。
悲鳴を上げて、血飛沫が上がって身体中が血まみれになる感覚を味わってなかったから。
魔族を喰らって、殺されかけることなんてなかったから。
「とりあえず国に戻るか?」
どうせ他にやることもないのだ。アイテムボックスから帰還の羽を取り出して使用する。
いつもの魔法陣が地面に表示されるのでその上に立つ。
//帰還の羽を使用しました
//称号:魔王討伐(全ステータス2倍+裏ボスへの挑戦権+世界192168000001への転移権)の効果を適用します
//世界192168000001 (hostname:endcont)へ転移しますか?
>Yes >No
目を疑った。
これログじゃなくてコンソールなのかよとか、魔王倒すまで選択肢現れないってどういうことだよとか、魔王倒した時に称号獲得してたのかとか、全ステータス2倍ってヤバすぎだろとか思うことはあるが、まずは世界192168000001が何なのかだ。
物語では元々いた地球に戻れるってのがよくある話だが、これは現実だ。慎重に選ぶ必要がある。そもそもendcontって怪しすぎだろ、裏ボス直行じゃねーの?
ぶつぶつ文句を言いながら、どうするのがベストか考えていると
//60s以内に選択されなかったためYesが選択されます
//世界192168000001への転移を開始します
//称号:異世界からの救世主(転移先を望むなら元世界192168000245(hostname:earth)に変更する+転移時刻を望むなら元時刻2025050320200358に変更する)の効果を適用します
//世界192168000245(hostname:earth)へ転移しますか?
>Yes >No
選択されないと強制Yesかよ!!
とりあえずhostname:earthならhostname:endcontよりはマシだろと思いYesのところに指を合わせる
//Yesが選択されました
//転移時刻を2025050320200358に変更しますか?
>Yes >No
これは、、どうしようかな?おそらく元世界の元時間に戻れるってことだろうけど身長も体重もそこそこ増えてる。それに身体の傷跡もあるし、、
迷っている時間はない。10年後に飛ぶぐらいなら元時間の方が良いだろうと思い、ここもYesを選択する
//Yesが選択されました
//転移を開始します
意識がだんだん遠のいていく、通常の転移とは全然違う感覚だ。不安を抱えながら意識を失った。
//Good-by,ryuichi
//称号:異世界帰りを取得しました
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます