第24話:夏フェス④
ステージの照明が一度ゆっくり落ちる。
代わって、スクリーンに夏らしいイラストがふんわりと浮かび上がった。夜の神社、屋台の提灯、制服姿のキャラクターたち……幻想的なタッチのイラストに、観客からざわめきと拍手が起きる。
《うお、イラスト綺麗すぎ!》
《え、アニメ始まった?》
《誰!?》
ステージ中央に立ったこはるがマイクを回して言った。
「ということで、ここからは──夏フェス限定! 2期生による生アフレコミニドラマ、スタートですっ!はい拍手!」
会場が一度暗転し、スクリーンに映し出されるのは静かな夏の田舎町と「真夏の夜の願いごと」というタイトル、そして配役。
配役(2期生)
•星霧メルナ:少女役(静かな視点者)
•雨宮こはる:親友役(明るく元気)
•白月リナ:母親役(落ち着きと包容)
•煌坂レイ:少女の未来像(幻想的な“もう一人の私”)
どこか懐かしさを感じさせる田舎の風景。緩やかな坂道、揺れる木漏れ日、遠くで響くセミの声。カメラは一軒家の縁側をなめるように映し、時折風鈴の音が混じる。
BGMもない、静かな“間”が続いたあと──少女のモノローグが、そっと始まる。
少女
「夏の音って少しだけ柔らかいと思う。
遠くで響くセミの声も、ゆっくり動く影も、全部──誰かの気配がする」
少女
「……来てくれるかな」
そこに自転車のブレーキ音とともに現れたのは、Tシャツに短パン姿の元気な少女。くしゃっと笑った顔に、夏の明るさがそのままにじんでいる。
風に帽子を押さえながら、笑い合う2人の姿──その背後で、ゆっくりと風景が流れる。
親友
「おっそーい! 置いてくよーって言おうと思ったけど……来ちゃった!」
少女(笑いながら)
「……うん。来てくれて、ありがとう」
親友
「今日はスイカあるからね! バケツに氷も入れてきたし、夏って感じでしょ!」
(2人の姿が、少し遠くから映し出される。風に麦わら帽子が飛ばされ、笑い声が重なる)
* * *
(夕暮れ、線香花火の火がゆらめいている)
縁側の柱に吊るされた風鈴が、時折カランと揺れる。
夕焼けが少しずつオレンジから藍色へ変わる時間。
影が長く伸びるなか、線香花火の火がゆらゆらと揺れている。
リナの落ち着いた声が、まるで風と混ざるように流れた。
母
「線香花火ってね、終わる瞬間が一番きれいなのよ。……儚いものって、そういうもの」
少女
「……終わるの寂しいな」
母
「でも、終わりがあるからちゃんと残るのよ。誰かの中に」
* * *
(時間が進み、少女は一人で坂道に立つ。背後には小さな町並みと遠くの山影。風が強くなり、帽子をぎゅっと押さえる)
同じ少女が、少し大人びた表情で佇んでいる──髪型も、服装も違う。
どこか幻想的な夕景の中、“未来の私”が、少しだけ迷いを吹き払うように言葉を紡ぐ。
未来の私
「まだ見えないかもしれないけど、
あなたの中には、ずっと夏がある。静かで、確かで、消えないものが」
少女
「……それを、誰かに渡せる日が来るのかな」
未来の私
「来るよ。あなたが歩き続ければ、きっと」
映像が暗転する最後の瞬間、少女が振り返り、小さくうなずく姿が映る。
その余韻を残したまま、照明がゆっくりと会場へ戻る。
数秒の静寂を置いたのち──大きな拍手と歓声が、一斉に響き渡る。
(スクリーンが暗転し、照明がステージを照らす。数秒の静寂のあと、大きな拍手が広がる)
《演技すごかった……》
《空気感やばい》
《これ生アフレコって信じられん》
《リナさんのお母さん感完璧》
《メルナの語り沁みた》
《レイの一言で鳥肌立った》
《こはるの自然な明るさほんと大事》
「というわけで……私たち2期生による、夏フェス限定ミニドラマでした!見てくれてありがとう〜!」
「緊張しましたけど……とても、楽しかったです。少しでも夏の記憶に残ったなら、うれしいです」
「映像と一緒に、こうして“声”だけで世界を描くのも……改めていい体験でしたね」
「……届けられてたらいいな」
(再び、会場から拍手。サイリウムが揺れ、コメントが飛び交う)
《ほんと最高だった》
《2期生の演技力エグい》
《夏、もらいました》
《このあと終わってほしくない……》
* * *
ステージの上に、ゆっくりと灯りが落ち着いていく。
《最高だった!》
《ありがとう!》
《尊い空間だった》
《2期生ほんと大好き》
といった声と拍手が、まだ鳴りやまない。
そんな熱気の中、こはるが一歩前に出て、満面の笑顔で手を振った。
「ふふっ、みんなー……ありがとーーっ!!」
《こはるー!》
《最高!》
「なんか……ほんと、あっという間だったね? えっ、まだ30分くらいしか経ってないんじゃないの?ねえ?」
《いや1時間半はある!》
《濃すぎた!》
「でも……こんなにいっぱい最高のイベントをみんなで一緒に楽しめたの、ほんと嬉しかったな〜!」
拍手がまた起こる。
「ってことで、最後に! みんな一言ずつ、今の気持ち言っちゃおうか!」
私たちがうなずき、ひとりずつ話し始める。
「……今日は、本当にありがとうございました」
リナの声は穏やかで、芯がある。
「夏のイベントってどこか懐かしさとか、切なさとか……たくさんの感情が混じっている気がしてまして。でも、それをちゃんと楽しいって言える今日が、私はとても幸せですわ」
《リナさんらしい……》
《やさしい声に泣きそう》
「皆様に支えられて、私たちはここに立てています。これからもどうぞよろしくお願いしますね」
次に、こはるが自分の胸に手を当ててから、前に進む。
「私は……ほんっっっとに楽しかったっ!」
満面の笑みで叫ぶように。
「やっぱさ、みんなの声があって、コメントがあって、それを感じながら話せるって……最高だよね!」
《こはるかわいい!》
《元気もらえた!》
《俺たちこそ最高の思い出になったよ!》
「またこんなふうに、みんなと会える日が来たら……ぜったい私は一緒に笑いたいな!」
そして私が少し微笑みながら話し始める。
「皆さん……今日は、来てくれて本当にありがとうございました」
やわらかな声に、観客の空気がすっと静まる。
「たとえば、日常の中でふと、思い出してもらえるような……そんな“夏のひとこま”になれたなら嬉しいなって思います」
《メルナちゃん優しすぎる》
《語りが沁みる……》
「……ちゃんと皆さんに届いていたなら、それだけで私はじゅうぶんです」
そして最後はレイ。
「……来てくれて、ありがとう」
その一言で、客席から拍手が湧く。
「……ちゃんと私たちを見てくれてたなら、それでいい」
静かで短い言葉だったけれど、その余韻は、誰よりも長く残った。
《レイえらかったぞ》
《やっぱ2期生みんな好きだ!!》
4人が一列に並び、同時に一礼する。
「「「「本当にありがとうございました!」」」」
照明が一度落ち、スクリーンには「Thank You for Coming!」の文字が浮かび上がる。
そして、次のステージへと──物語は、続いていく。
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