彼は、世界に背を向けた
@ippannjin
第1話【悪夢】
第1話【悪夢】
「お母さん……お父さん……」
声が震える。膝も震えていた。
目の前で起きているのは、現実とは思えない地獄だったのに、俺はただ、立ち尽くすことしかできなかった。
「うっわ、あの女マジで言ってたぜ?『子供だけは助けてください』ってさ〜!」
ゲラゲラと笑う声が耳に張りつく。
その【お願い】は、何の重みも感じられることなく踏みにじられていた。
「親の目の前で子供殺すの、やっぱ最高だわ〜」
……何が、“最高”だ。
吐き気がするほどの嫌悪感が、喉元までせり上がる。
こんな奴ら……人間じゃない。
「あれ、まだ子供残ってんじゃん」
やだ。来るな。来ないで。
一歩。さらに一歩。
「俺に近付くな!!」
叫びと同時に、咄嗟に振り上げた手が何かを叩いた。
その感触が、あまりにも生々しくて...
刹那、空気が凍りついた。
目を開けた先。視界が、赤い。
「え……?」
首が、吹き飛んでいた。
まるで冗談のように、男の身体から、頭部が抜け落ちていた。
何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
ただ、その血の中心で立ち尽くす自分だけが、妙にリアルで。
「俺が……やったの……?」
殴ったときの感触。
頬の肉が潰れる音。拳に伝わった生温い震え。
それだけが脳に焼き付いて離れなかった。
「こんんの化け物がぁぁぁ!!」
怒声。罵声。泣き叫ぶような罵倒が、耳を殴る。
でも……俺の中では、それよりも静かな確信があった。
化け物は……お前らだろ。
「死ね!死んじまえ!!」
でも、逃げられなかった。
力が、まったく入らなかった。
……だって、俺は“殺してしまった”。
それだけで、世界が止まった。
⸻
斗愛「……はぁ……はぁ……また……夢か……」
額を伝う冷たい汗。
呼吸が落ち着くまで、しばらくかかった。
斗愛「……………最悪だ。」
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