猫が行く!~昔ばなしの主人公になりたくて~

キジトラタマ

1 僕が生まれた日

 むかしむかし、あるところに―――


 幼い頃の僕は、そんな出だしから始まる昔ばなしの物語は全部、遠い過去に実際に起きた出来事だと信じていた。



 枯れ木に花を咲かせた、『花咲かじいさん』

 桃から生まれた、『桃太郎』

 月からやって来た、『かぐや姫』

 ―――――

 ―――

 ――――



 みんなみんな、遠い昔に、本当にあった話だと。


 僕はそれら非現実的な出来事や、登場する魅力的な人々、動物たちに、たくさんのドキドキやワクワクをもらった。

 時には胸打たれて、涙が出たりもした。


 だから…。



「翔ちゃんは、大きくなったら、何になりたいのかしら」

「僕は、昔ばなしの中の人になりたい」



 母に尋ねられて初めて口にしたのは、5歳の誕生日の時だった。


 あの頃はまだ幼かったから、将来の夢はたとえばアニメのスーパーヒーローなんかでも、とくにバカにはされなかった。

 母も、「へえ~」と感心してくれたし、「どんなことをしようか」なんて、一緒に考えてくれたりもした。

 だから僕は、しばらくの間、将来の夢を訊かれた時にはずっとそう答えていた。


 だけど成長するにつれ、子どもながらに、少しだけ幼稚かな?っていう恥じらいが出て来たんだよね。


 だから、小学校高学年になった頃からは、


「昔ばなしの中の人…みたいな、スゴい人になりたい」


 って言うことにしたんだ。


 実際、何かスゴいことを起こさないと、昔ばなしの主人公にはなれないだろうしね。

 僕は昔ばなしの主人公になって、それを読んだ人たちみんなの心に、何かを残したい。

 ずっと、それを願っているんだ。

 だって、僕という人間が存在した話が未来永劫語り継がれるなんて、スゴくない?



「それは、楽しみね。それじゃあその夢を叶えるためにも、たくさんお勉強をしなくちゃね」


 母は、うふふと笑いながらそう言っていた。



 それから年月が過ぎ、僕は今日、14歳の誕生日を迎えた。


 体は大きくなったけど、今もまだ、初めて夢を語ったあの時と同じ場所にいる。



 病院の、ベッドの上。



 どうやら僕は、あまり健康的に生まれて来なかったらしい。



翔也しょうやの、将来の夢は何かしら?」



 母は適当というか、忘れっぽいというか、毎年誕生日が来るたびに、同じ質問をする。

 毎回、真剣に聞いてくれているのかどうか、疑問だ。



「僕は…、人々を幸せにする仕事…が、したいかな」



 さすがにもう、中学生だから、子供っぽい言い方はしないよ。

 でもちょっと言い方を変えただけで、中身は同じだけどね。

 僕は今でも、遠い遠い先の未来の人たちに読まれる昔ばなしの、主人公になりたいと思っている。

 その夢は、幼い頃からずっと変わっていない。


 もちろん今は、昔ばなしの多くがフィクションであることは知っている。

 だけど中には、実在した人物がモデルになった作品も、あるんだよね。

 『金太郎』とか。

 だから決して、不可能な夢ではないと思う。

 


「そう。素敵ね。それじゃあその夢を叶えるためにも、たくさんお勉強をしないとね」



 …やっぱり、そう来たか。

 毎年のことだから、何と答えてもそう返されるのは、想定済みだ。

 けど…、 母にはもう少し、表現力を磨いてもらいたいものである。



「はいはい」



 その言葉はもう聞き飽きたよ、お母さん。

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