クラクション

一ノ井 亜蛮

第1話

 突然、会社から栃木県へ三か月の出張を言い渡された峰 富士夫(みねふじお)。

 富士夫はその日の仕事が終わると、自宅に戻ってシャワーを浴び、着替えなどを準備すると、自分が所有している車で静岡県御前崎市の自宅を出発して、相良牧之原インターから東名高速道路に乗った。

 車好きの富士夫、もう出張慣れもしていたので、三か月の出張期間、休日は大好きなドライブを楽しもうという計画なのだ。

 『明日は休みだし、途中で寄り道しながら走って、会社が用意したアパートには明日の昼頃に到着すればいいか』

 そんな事を考えながら、ルンルン気分の富士夫だった。

 一人きりの車内。

 大好きな音楽を流して、熱唱をしながら走っていたが、大井松田を過ぎた頃、富士夫は不意に眠気を感じた。

 無理もない、今日もいつも通りに仕事をこなして、家には帰ったがシャワーを浴びただけで休憩も取らずに出発をしたのだから。

 『明日は休みだから、その判断はちょっと甘かったかな?  次のサービスエリアで少し仮眠を取ろう』

 富士夫は眠い目をこすりながらも、何とかサービスエリアに到着すると、駐車スペースに車を停めて寝始めた。

 数秒後か?数分後か?

 富士夫の車の左側からクラクションを鳴らす音が聞こえてきた。

 『うるさいなぁ』

 そう思いながらも、空きスペースの沢山ある深夜のサービスエリア。

 しかも駐車しているのだから自分には関係ないだろうと、無視をして眠り続けようとする富士夫。

 パッパー!

 パパパパー!

 パッパパパー!

 クラクションは、なおも遠く近く、絶え間なく聞こえて来る。

 『何だよ? 寝てるのに、うるさいな』

 執拗にクラクションを鳴らしている車に怒りを覚え始めた富士夫は、その車の運転手に文句を言ってやろうと、運転席の窓を開けた。

 その瞬間、物凄い勢いで風がブワッと車内に入ってきた。

 何だこれは?と思ったその瞬間。

 「あれ? 俺、あれ?」

 何故か富士夫はハンドルを握り、車を運転していたのである。

 そう、何を勘違いしていたのか? 富士夫はサービスエリアで車を停めて寝ていたのではなく、今も車を運転中だったのだ。

 しつこく富士夫の耳に聞こえていたクラクションは、徐々にスピードが落ちて、車線をはみ出していく富士夫の車の後方を走行していた車の運転手が、富士夫の居眠り運転を疑って、決死の思いで富士夫の車に接近をし、クラクションを鳴らして富士夫に気付いてもらおうとアピールし続けていたものだった。

 目は見開いているものの、ほとんど意識を失っている状態の居眠り運転をし、あまつさえ仮眠をとっている、という夢を見ていた富士夫がクラクションを鳴らし続ける車に文句を言おうと、寝ぼけながらもパワーウインドウのスイッチを押した事で窓が開き、社内に入り込んだ風によって目覚め、事故を未然に防ぐ事が出来た、というのが事の顛末だったのである。

 大事故にもつながりかねない、高速道路での居眠り運転。

 皆さん、くれぐれもご注意ください。

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クラクション 一ノ井 亜蛮 @abansyousetuka

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