優しさに溺れて
あなたの蕎麦
第1話 濡れた夜に壊れていく
雨音が、すべてを覆い隠していた。
紗月の部屋。
湿った空気の中、海翔は黙って立ち尽くしていた。
彼の頬には涙の痕が残り、指先は小さく震えている。
「……そんなに、ひとりで抱え込まなくていいのに」
紗月は、ただ静かにそう言って、彼の頭をそっと撫でた。
優しく、何度も。
まるで――壊れてしまったものを、抱きしめるように。
「俺、たぶん……壊れてます」
海翔の声はかすれていた。
苦しみも、渇望も、全部詰まった声だった。
「壊れてても、いいじゃない」
彼女は言った。
「私だって、もうとっくに壊れてるもの」
静かに、彼女の手が彼の頬を包み、唇が触れる。
優しく、そして、少しだけ震えて。
その瞬間、海翔の中で何かが爆ぜた。
服が脱がされる感覚が、現実味を失っていた。
背中に回された腕の温度。
肌の接触。
重ねた唇の熱が、じわじわと喉の奥まで落ちていく。
「ねぇ……もっと、近くに来て」
その囁きに応えるように、彼は紗月の身体に手を這わせた。
震える指先が、柔らかな起伏をたどっていく。
胸元をなぞると、彼女の呼吸が浅くなる。
――ここに、入れてもいい?
言葉にならない問いが、互いの目で交わされた。
彼女の脚が、静かに開かれていく。
シーツの上、湿った音が響く。
それは、愛なのか、依存なのか。
海翔にも、わからなかった。
ただ、彼女の奥が、彼を受け入れてくれる限り、
この痛みも、過去も、許される気がした。
朝になっても、海翔は眠れなかった。
隣で眠る紗月の背中を見つめながら、思った。
(このまま、二度と離れられなくなればいいのに)
それは、願いだった。
同時に――呪いの始まりでもあった。
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