第8話 おっとりシスターと平和の終わり
ハイデ村の小さな教会には、美しい女が暮らしている。
その女の名はミディエラ。
非常に整った顔立ちと物腰柔らかなおっとりした雰囲気、何より服の上からでも分かる爆乳。
男の男たちは年寄りも青年も、まだ女を知らない幼い少年や既婚者すらも彼女を見て邪な感情を抱いてしまうのが常だった。
しかし、本人の性格は極めて善良だ。
村の女たちはミディエラに嫉妬することはなく、逆に純粋な彼女を男たちから守ろうと日々奮闘している。
男たちは男たちで互いに牽制し合い、未だにミディエラと親密な関係を築いている者はいない。
ただ一人の青年を除いて。
「あ、あの、ミディエラさん!!」
「あら? レオンさん、いらっしゃい」
ハイデ村の村長、その孫のレオンである。
目鼻立ちがくっきりした長身の好青年で、村人から慕われている人格者だ。
かつて冒険者を目指して村を飛び出したものの、高ランクの依頼を受けて足を負傷し、村に戻ってきた経歴がある。
その足の後遺症を治癒魔法であっさり治してしまったのが、ミディエラだった。
レオンはミディエラに片想いしている。
また自由に歩けるようにしてくれた彼女を心から愛している。
だが、彼女はシスターという神に身を捧げた身で自分と結ばれることは決してない。
頭ではそう分かっていても、告白しても彼女に迷惑をかけるだけだと理解していても、想いは止められない。
「今日もお祈りかしら? 信心深いのね」
「あ、ええと、あはは」
ミディエラが花壇にジョウロで水を与える手を止め、レオンに穏やかな笑みを向ける。
レオンはその笑みを見て、思わず緊張で固まってしまった。
だが、失敗するわけにはいかない。
今日のために村の女たちを必死に説得し、男たちとは喧嘩してまで告白する権利を勝ち取ったのだ。
レオンは一呼吸置いてから、口を開く。
「ミディエラさん、大事な話がある。その、僕と、つ、付き合っ――ぎゃ!?」
その瞬間。
レオンの顔に水色のぷるぷるした物体が体当たりしてきた。
「こら、プルルちゃん。レオンさんに体当たりしちゃメッよ? ごめんなさいね、レオンさん」
「い、いえ、お構い無く。慣れてますから」
「ぷるぷる……」
レオンの顔面に体当たりし、そのまますっぽりとミディエラの腕の中に収まった物体。
それはスライムだった。
知能が低く、ゴブリンよりも弱いと言われている最弱の魔物である。
後に村の子供たちによって『プルル』と名付けられたそのスライムは、数年前に道端で死にかけていたところをミディエラが助けたのだ。
その結果、ミディエラは懐かれてしまった。
今やミディエラを飢えた男たちから守る最終防衛ラインであり、村人からも受け入れられているマスコットのように扱われている。
ミディエラが魔物とも友達になれると考えるようになった切っ掛けだ。
レオンは告白を邪魔してきたプルルを一睨みした後、すぐに咳払いして再びミディエラに告白しようと向き直り――
「それで、その、ミディエラさん。僕と付き合ってくださ――」
その時だった。
ハイデ村で暮らす一人の中年男性が、慌てた様子で教会まで走ってきたのだ。
「た、大変だ!! うちの娘が倒れたんだ!! ミディエラさん、助けてくれ!!」
「まあ!! 急いで行きます!! レオンさん、ごめんなさい。お話はまた後で」
「あ、う、うん、そうだな。急いで治療に行ってあげてくれ」
ミディエラは腕に抱えたプルルをレオンに預け、人助けのために走り出す。
レオンは「ぷるぷる……」と何故か勝ち誇ったように揺れるプルルを見つめて、どこか残念そうに肩を落とした。
一方、ミディエラが向かったのは村の一画にある小さな家だ。
家の中に入ると、ベッドの上に横たわった幼い少女が苦しそうに呻いていた。
ミディエラが少女の容態を診る。
高熱を始め、腹痛や吐き気など何らかの毒による症状だとミディエラは思ったが――
「もしかしたら、何かの病かも知れません」
何故か病であると判断した。
頭では毒が原因だと思っているにも関わらず、そう言ってしまった。
ミディエラは自分の言動に疑問に抱いたが、それも一瞬。
すぐにその疑問は頭から消え、解熱作用のある薬草を調合した。
それを見て娘の父親はミディエラに困惑する。
「ミ、ミディエラさん、治癒魔法は使ってくれないのかい!?」
「いえ、使えないのです」
ミディエラは首を横に振った。
「この病は治癒魔法を使うと悪化してしまうかも知れません」
「な、なんだって!?」
「とにかく様子を見ましょう。腹痛や吐き気にも効く薬を調合しますから」
そう言って笑顔で父娘を励ますミディエラ。
ミディエラの調合した薬によって娘の症状は一時的に緩和したが、しばらく経てばまたぶり返してしまう。
それから数日後の出来事だった。
その娘の父や近所の老夫婦、いつも元気満々だった子供たちまで病で倒れてしまったのだ。
不幸中の幸いは死者が出るような致死性の高い病ではなかったことだろう。
しかし、いつまで経っても病を治せないことにミディエラは責任を感じていた。
一生懸命に患者の治療に当たっているミディエラを誰も責めようとはしなかったことが、逆に拍車をかける。
そして、事件は起こった。
「ふむ、ハイデ村の襲撃は成功じゃな」
「男は皆殺しにして、女はアース様のものにする。完璧な計画だな!!」
村は二人の美しい女たちから襲撃を受け、数少ない無事だった男たちは命乞いする間もなく殺されてしまった。
「そんな、どう、して……」
「む、あの者がアース様の言っていた女か」
「むぅ、なんという乳のデカさ。あれはダーリンも夢中になるじゃろうな。のぅ、ダーリン?」
その二人の女たちの間に立ち、胸や尻を撫で回している小さな影にミディエラは見覚えがあった。
数日前にミディエラが助けたゴブリンだった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「うーん、これは邪悪なゴブリン」
ア「一番邪悪なのは作者」
「レオンはミディエラを寝取られそう」「プルルは人化すると予想」「どっちも邪悪だよ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます