第10話 神社を襲う禍つあやかし
深夜。
こよりは、ふとした違和感で目を覚ました。
空気が重い。息を吸うたび、胸がざらつくような、そんな気配。
「……ユウ……?」
布団から抜け出し、社の外に出る。
月明かりはなく、空は黒い雲に覆われていた。風が止まり、虫の声すら聞こえない。
「……鈴の音が、しない」
胸元の守り札も、どこか冷たかった。
そのとき——社の奥、結界の中心から音がした。
パキン。
氷の割れるような音。
そして、闇の中に目が現れた。
「——っ……なに、あれ……」
社の床板の隙間から、黒い靄が吹き上がる。
それはもはや人の形をしておらず、まるで怨念の集合体のようだった。
いくつもの手足のような影が蠢き、うめくような音がこよりの耳を締めつける。
「ここに……人間の……願いが……」
「……やめて!」
こよりが守り札を握った瞬間、そこにユウが飛び込んできた。
狐火のような光が一瞬、闇を押し戻す。
「こより、下がれ! こいつは【禍つあやかし】——封印を超えて侵入してきた存在だ!」
「でも、私、守り手として——!」
「無理をするな。今はまず、社を守ることに集中しろ!」
ユウの声は鋭いが、その目はこよりを信じていた。
こよりは息を整え、守り札を社の四隅に向かって振りかざす。
「結界、はって……! この神社は、みんなの【想い】でできてるんだよ……っ!」
札が淡く光り始める。
アカネの涙、ユウの後悔、自分の不安と決意。すべてを込めて、こよりは結界を呼び起こす。
「……これ以上、誰の願いも壊させない!!」
その瞬間、神社全体に光の膜が走り、禍つあやかしが苦しげにのたうった。
ユウがすかさず印を結び、狐火を解き放つ。
「——還れ」
怒りも憎しみも、全てを飲み込んだ黒い塊は、ひときわ大きなうねりを見せ、やがて煙のように消えた。
闇が晴れ、風が戻る。
神社の鈴が、ようやく静かに鳴いた。
「……守ったんだね、わたしたち」
こよりは、膝に手をついて息を整えながら言った。
ユウは肩を並べて、ふっと笑う。
「ああ。おまえの力が、あれほどまでとは思わなかった」
「でも……怖かったよ」
「それでいい。【怖さ】を知る者ほど、強くなれる」
ユウの言葉に、こよりはゆっくりと頷いた。
その夜、彼女は本当の意味で【守り手】になった。
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