第6話 紅の目のあやかし

朝の森は、ほんの少し肌寒い。

 こよりは神社の境内を掃きながら、昨日のユウの言葉を思い出していた。


 「【修行】って言ってたけど、本当にやるのかな……」


 つぶやいた瞬間、背後から狐火のような青白い光がふわりと浮かび上がった。


 「こより。今日は式札の扱い方を教えるぞ」


 「わ、出た!」


 「【出た】はひどいな。守り狐だぞ、俺は」


 からかうように笑うユウの姿は、少しだけ人間っぽく見えるようになってきた。

 狐耳はまだ不思議だけど、不思議と怖くない。


 「じゃあ今日は【修行】……ですか?」


 「その前に、異変の報せが入った」


 ユウの言葉に、こよりは思わず背筋を伸ばした。


 「また……あやかし?」


 「どうやら今回は、【姿を持って現れた】らしい。村のはずれ、廃社のあたりだ。少し離れているが、行ってみよう」


 廃社。聞き覚えのない言葉にこよりが戸惑うと、ユウが説明してくれた。


 「昔、別の神が祀られていた社だ。今はもう誰も訪れず、神もいない。……そういう場所は、あやかしにとって居心地がいい」


森を抜け、小川を渡ると、古びた鳥居が現れた。

 その奥には、崩れかけた社と、赤い花が咲き乱れていた。


 「彼岸花……?」


 「そうだ。【別れ】と【想い】を象徴する花。つまり——ここに、強い感情が渦巻いている」


 ユウの目が細められた直後だった。


 「……来たね」


 声がした。


 その声は少女のものだった。

 廃社の前に、赤い瞳を持つ少女が立っていた。髪には小さな鈴の飾り。着物は古風で、どこか現実から切り離されたような存在感をまとっている。


 「人間……だよね?」


 こよりがそう問いかけると、少女はにこりと笑った。


 「ううん、ちがうよ。私は【アカネ】。あやかし。——でも、もとは人間だったの」


 「えっ……」


 言葉に詰まるこよりの前で、アカネは一歩、踏み出した。

 けれど敵意はなく、どこか寂しそうな雰囲気をまとっていた。


 「ねぇ。あなた、【願い】って、叶うと思う?」


 その問いに、こよりはすぐに答えられなかった。


 ユウが警戒するように前へ出たが、アカネは手を上げて止めた。


 「大丈夫。今日はまだ、誰も呑みこまない。……ただ、話がしたいだけ」


 そう言ったアカネの瞳は、どこまでも紅く、まるで消えかけの灯のようだった。

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