ep3覇王の帰還

「本当にそんなこと僕にできますかね...」

「君ならできるよ、だって君は...」

「そうですよね、僕は...」


『世紀末覇王だから』





6月24日

阪神競馬場天候は良好

久しぶりに私は遠出をした。


「よっちゃん...ここ人多すぎ...」


目の前でゾンビのような声で私を呼ぶのは唯だった。


「仕方ないでしょ?ここは競馬場なんだから」

「だましたな...」

「だってこうでもしないとゆーちゃん来ないでしょ?」

「だからって呼ぶ口実に豊崎愛生様の名前を使わないで...」

「まさかすんなりと騙されるとは思わなかったよ」

「だって最近私こっちの世界の情報収集してなかったんだもん...」

「あれからずっとあの世界に居たの?」

「いやいや、ブラストの新宿ジャックライブ見て帰ってきた」

「へー」

「力使いすぎて...体が...ボロボロ」

「私利私欲のために使うからだよ」

「いいでしょ〜この力のために犠牲にしたものがいくつもあるんだから!!」


ゆーちゃんこと小崎唯はこの力を自分のものにするために数々のものを犠牲にしてきたらしい。


「そうだ!これお土産」


そう言って手渡されたものはイチゴ柄のグラス3つだった。


「これは...」

「ふふふ、これはNANAにおいて欠かせないキーパーソン」


『イチゴ柄のグラスなのだ!!!』


さっきまでゾンビだったゆーちゃんが生き返って叫び出した。


「嬉しいけどなんで3つ?」

「よくぞ聞いてくれた!このグラス作中の大切なシーンで幾度となく登場する、そして3つの意味は、まず2つを大切に観賞用として保存して、そして最後のひとつはいつかその時がきたら割って」

「え?割る?」

「うん割る」


とうとうこの力のために社会性を無くしてしまったらしい。

なんだか泣けてきた。


「ありがとう...」

「いいってことよ...って泣いてる!?そんなに嬉しかったの?」

「あ、うん...」

「もしかしてよっちゃんも行きたかった?」

「いえ、それは大丈夫」


危うくまた面倒なことに巻き込まれるところだった。



『うぉぉぉぉ!!!』


スタンドから何千万の人々が一斉に叫んだ。

本馬場入場と言うやつだ。


「ゆーちゃんちょっと任せた!」

「え?何を?」

「私を!」


ゆーちゃんに告げると私は体を脱力させた。





「やぁ世紀末覇王元気にしてた?って...」


私の目の前にいたのは確かに私の知っているテイエムオペラオーなのだが、姿が全盛期のテイエムオペラオーになっていたのだ。


「あ!見に来てくれたんですね!!」

「まぁ私が提案したからね...ところでその体どうしたの!?」

「だって言ってくれたじゃないですか」

「言ったけど...まさか本当にやるの!?」

「はい!相棒の晴れ舞台を一緒に作りたいんで!」




私は確かに彼に提案した。


「君の相棒が次の宝塚記念に出るんだって、だから君も相棒と併走してみない?」

「そんなことできるんですか!?」

「一応君はまだこの世に留まってるみたいだから思いが強ければ強いほど可能性はある、ただ100%って訳じゃないから他の案も...」

「僕それやります!相棒と同じ舞台に立ちたいです!!」




確かに言ったがまさかここまで仕上げてくるとは思わなかった。

それだけ彼は相棒との約束が心残りだったのだろう。


「でも本当にいいの?叶えたら君ここじゃなくて別の生命に行くんだよ?」

「大丈夫、またきっと競走馬になりますよ」


そう言って笑顔を見せた。

この笑顔を私は忘れることは無い。


「じゃあそろそろだから私は戻るね、君は相棒との最後の走りなんだから、しっかりと噛み締めて相棒に挨拶してきなね」

「はい!世紀末覇王の勇姿を相棒との活躍をしっかりと見ててください!」

「はいはい、この目で見てますよ」

「それと...」

「ん?まだ悩んでることでもあるの?」


『あなたのおかげで未練もなくなりそうです、ありがとう!』


改めて誰かに感謝されるのは小っ恥ずかしい、だがそれ以上に嬉しいものだ。





「よっちゃん!よっちゃん!」

「あ、ただいま」

「もしかして私このために呼ばれたの?」


私は沈黙という名の返答をした。

やーちゃんはまたいつものかという顔をしてため息をついた。


「で、その方との会話はできたの?」

「はい、しっかりと」

「ならレース見届けよっか」


そして高らかにラッパの音が響き渡って馬がゲートに向かった。











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