今日もヒーローは夢に向かって走ってる

芦毛逃亡

ep.1世紀末覇王襲来

生物の死は突然だ、今日もどこかでこの世を去り新しい生命に生まれ変わる準備をしている。


私の名前は神田弥生かんだやよい小さい頃に生死をさ迷うほどの事故を起こしてから特殊な力を手に入れてしまった。

名前はついていないようだ、なので私はこの力をこう呼ぶ


『死者の囁き』


この力はある一定の条件の時、誰もいない膨大に伸びる芝の場所に飛ばされる。

そして目の前に死者が現れる。

ただただ話を聞くだけなのだが、話を聞くだけで死者はしっかり成仏できるらしい。

そして今日もいつものように飛ばされるのであった。






「えっと、こんにちは」

最初は誰なのか全くわからないから挨拶をする、ちなみに死者が外国人だろうが人間じゃない動物だろうが日本語が通じるらしい。

「こんにちは」

「早速ですがあなたのお名前は?」

「僕はテイエムオペラオーと言います、人間さんからは『世紀末覇王』と呼ばれたこともありました。」

「もしかして競走馬?」

「はい、精一杯走ってました!私なりにですが」


なぜなのか、私のこの力の8割が競走馬なのだ。

時々来る人間がうれしいくらいに。


相手が名乗ると私の頭上からその者の人生が示された一冊の本が降ってくる。

最初は本当に頭上だったので頭を何度もぶつけていた。


今日の相手は競走馬のテイエムオペラオー

1996年3月13日~2018年5月17日

彼の言う通り人々は彼を『世紀末覇王』と呼んでいた

それだけの伝説を作った馬だった。


「古馬中長距離G1完全制覇!?」

「はい、相棒と共に頑張りました!」


元々競馬は1つも知らなかったがいろんな競走馬と話すことで知識が身についてしまった。だが完全制覇をする馬は彼が初めてだった。


「そんなあなたがどうしてこんなところに?早く次に行かないともったいない!!」

「それはそうなんですけど...一つだけ心残りがあって」


ここに来るのはみんな訳ありなのだ、そして私のこの力でどうにか次の生命に行ってもらう、それが私の使命らしい。


「僕ある約束をしたんですけどその約束守れなかったんです」

「約束?」

「はい、僕が約束したんじゃなくて相棒なんですけどね」

「相棒ですか...」


競馬は馬だけで走ることは無い、必ず背に人を乗せて走る。

だいたい人は固定されることがあるが、たまに乗り替わりがある、テイエムオペラオーはノリ変わりはなかった、だから相棒と呼んでいるのだろう。


「えっと...」

「竜二です」


和田竜二この人が相棒。

私的には競馬の知識が浅すぎて何も言えないが、とにかく名前は聞いたことある。


「和田さんとの約束って何?」


ここからが本題だ。

私は全知全能の神では無い、普通の一般人よりかは力が使えると言ってもできることは限られている。

テイエムオペラオーの内容によっては叶えられないこともあるのだ。


「竜二との約束は...」


『竜二がG1を取るまで僕と合わない』


「そう言ってました」

「それでここにいるってことは...」

「はい、僕が約束を果たす前にここに来ちゃいました」


テイエムオペラオーが引退したのが2002年そして亡くなったのが2018年。

16年間も会っていないらしい。


「そっか...でも君はまだ当分和田さんとは会えないよ?」

「それは分かってます...でも僕が引退してから竜二全然勝ててないんです!!それで先日僕はここに来ちゃって...」


確かに和田竜二はテイエムオペラオーが引退してから鳴かず飛ばずの成績で、約束してたG1は1度も勝てていない。

これは私にはどうすることも出来ない。


「僕竜二に申し訳なくて、死んでも死にきれないんです」

「でもこれは私にはどうすることも...」

「そこをなんとか!お願いします!!」

「え〜...」


だが目の前にいるテイエムオペラオーの真剣な眼差しを見ていると、どうしても何とかしてあげたいと思ってしまう。


「じゃあ今できることとかでも大丈夫?」

「今できること?」

「そう、テイエムオペラオー貴方はもう現世で和田竜二には会えない、でも人間もいつか死んで次の生命に生まれ変わるの、そこでまた再開することは出来る」

「でもそれじゃあ...」

「だから私が今できる精一杯の力で貴方に納得してもらう」


テイエムオペラオーはさっきまでの申し訳なささと不安な顔から一転笑顔で言った。


「本当にありがとう」






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