追憶の河川敷

ヨイクロ

砂の味と蝉時雨

 私の散歩道には河川敷に広がるサッカーコートがあるのだが、それを見るたびに私の童心がくすぶられて辛いので、そんな未熟な心のはけ口としてここに記させていただく。


 私は幼いころ、此処のサッカーコートでサッカーを習っていた。年中砂埃すなぼこりが舞い、夏には蝉の鳴き声が耳をつんざく……そんな場所だった。ここでの練習はどこへやら、今ではリフティングすらまともにできやしないが、そこらのよりは長い期間やっていたと思う。


 そのせいだろうか、今でも「本気でやってたらプロ選手になっていたのではないか」などという淡い期待を抱いてしまう。


 当時のチームメイトたちは私がサッカーをやめた後もしばらくサッカーを続けていたらしいが、結局誰一人としてプロになるどころか、高校に上がる頃には別の生き方を見つけていた。てっきり、何人かはそのままサッカーを続けていて、インタビューされた時には「ああ、○○ですか?彼はいい選手ですよね、彼とは腐れ縁なので、偶に一緒に練習してますよ(笑)」などと世界に発信してるんじゃないかと妄想していた。それくらいに僕の目からはに見えた。


 しかし、そんなチームメイトたちでさえ上にあがっていくとでくの坊であった。ベンチにすら入れないのだ。そんな現実を突きつけられると、「本気でやってたらプロ選手になっていたのではないか」などという幻想を私が抱くこと自体が申し訳なく思う。そう思う権利すら私にはなかったのだ。


 今では連絡すら取っていない当時のチームメイトたちと取った集合写真は、日に焼かれてモノクロ写真のようになっている。それだけ月日が流れたのか、それとも私の心境を反映させているのか……まあ偶然だろうが。


 さて、ここまで散々自分を下げてチームメイトを上げてきたが、私だって活躍せずに選手生命を終えたわけではない。


 とあるフットサル大会にて、普段とは違う戦場の所為せいかチームメイトたちは動きにキレがなかった。そんな中、ドリブルだけは群を抜いて上手かった(パスをしない所為では下手であった)私は、その小さくなった戦場で相手を次々に抜いて行き、1点、また1点とゴールを決めていった。その大会は夏休みの間の5日間にわたって行われ、私たちは準優勝した。この一週間が、私が最も輝いていた時期だった。


 人の運動能力が最も上がる幼いころの時期をゴールデンエイジというなら、わたしはこの一週間をこうひょうそう……ゴールデンウイーク輝かしい一週間、と。


 少し格好を付けたことを謝罪する。ちょうど今私は冒頭で話した河川敷にいるのだが、心地よい砂の味が鼻に残り、蝉時雨が耳を揺らしている。

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