第7話青空に澄んだ笑顔と自覚した芽1

 同居生活が始まり数日、一部は県外にいることや引っ越しにてまどり来れない者もおり、現状は俺含めて5人での同居となっていた。そして、その日は珍しく家には俺とわかばだけしかいなかった。




「ねね、信幸!ゲームしよ!!」


「いいねぇ~やろうぜ。」




 なんてありきたりのない日常で、俺とわかばはコントローラーを手に取り、ゲーム機を起動させる。懐かしさがあった。




「……そういや、小さい時もこうやってゲームなんかやったよな~。」


「だね~。信幸ボクに勝てなくて不貞腐れてたよね~クスクス。」


「そりゃあ、お前が基本的にハンデと称して鬼畜設定にしてるか、場外乱闘に持ち込んできたのは何処のどいつだよ。」


「は、ははは………ナンノコトダカボクワカラナイナ~。」


「そうやって、目を逸らすとこも変わらないな~。」


「むぅ、そんなこと言って、信幸だって変わってないところ沢山あるよ!!寝相が悪いところとか!」


「ん?ちょっと待て、なんでわかばは、俺が寝相悪いこと知ってるんだ??大体、それ知ってるの幸村か姉さんだけだぞ?」


「ギクッ!!」




 俺、初めて見たよ。ギクッて口から出す人。それよりも先になんで、わかばは知っているのかだけが不思議でしょうがなかった。




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 ゲームもひと段落して、俺とわかばは家を出てご飯を食べに行く。何を食べるか全く決めていない。取っていく道の店を眺めては2人でああでもないこうでもないと言って、昼ごはんは決まらない。


 結局、いつも行きつけになっていたラーメン屋に行き、俺は味噌豚骨の中盛、わかばはチャーシュー麺を頼み、お互いのんびりとした時間を過ごす。




「はいよっ!お待ち!!」




 店主の大きな声と同時に、感嘆の声が漏れた。腹の虫が同時になって一緒になって食べ始める。他愛の無い無言な時間がのんびりと過ぎていくことに、安心感と幸せが詰まっているんだなと思った。




「「ごちそうさまでした!!」」


「おうっ!また来な!!」




 店を出ると同時に店主のまた来てねと言う声に返事をして、外の世界に舞い戻る。4月の桜はもう散って、珍しく夏日の今日はどこかからか吹く風が少しだけ熱くて苦しかった。




「なぁ、わかば。次どっか行きたいとかある?」


「う~ん……あっ、なら久しぶりに、駄菓子屋行こ!!」


「おう、いいねぇ~!!行くか!!」


「行こ!!信幸!!」


「ッ!!」




 わかばに手を握られて、駄菓子屋までの道を半ば強制に駆け抜けていく。ゆっくりと変わって言った景色が、目まぐるしく変わっていく。




「早い!!早いって!!わかば!!」


「なら、もっと、足を速く回すんだよ!!信幸!……あっ!!」


「ちょっ!!」




 近くの土手に2人でこけた。初めて視界が空に向かった。今日はこんなにも青かったのか。澄んでいる青空に、少しだけ癒された。


 そんな時だった、突然わかばが、いつもよりも落ち着いたトーンで話始めた。




「ねぇ、信幸。」


「どうしたんだよ、そんな急にかしこまって。」


「恋をするって何だと思う?」


「どうした?悪いもんでも道草したか。」


「ひっどいなぁ。ボクは至って真面目に話してるんだよ?」




 分かっている。そんなことくらい。滅多にないから、いつの時だったかそんな顔を見た。中学に行く時だったかもしれない。私立中学に行くために相談されたこともあったなぁ。その時以来か。


 悩んでいる時のわかばはどこか大人っぽく見える。幼さの残る声と顔だから、その姿風貌が大人に見えたりする。同じようなこと言ってるな、うん。




「そうだなぁ、じゃあさ。わかばは、俺と許嫁になるって言われたときどう思ったんだ?」


「どうって…………そう言われても、分からないよ。俺だって、恋をしてるわけじゃあ無いし。」


「なら、探せばいいんじゃ無いのか?」


「うーん、でもさそう簡単に見つかるのかな〜。ボクって人にあまり興味ないでしょ?」




 自虐を嘲笑うようにわかばは、言葉を吐き捨てた。


寝転がって数分しか経っていないのにその時間はやけに長く感じる。風が少しだけ吹いた。




「なぁ、わかば。」


「ん?なぁに、どしたの。そんな顔しちゃって。」


「………そんな、今の俺酷い顔してるか?」


「してるよー。なんか昔の信幸みたい。」


「そっか、ならお前もおんなじような顔してるよ。笑ってるのにどこか無理してるところ。」


「さて、何のことやらね。」




 ケタケタとかくしごとを繕うわかばに少しだけ俺は寂しくなった。手が震えているのに、どうして言ってくれないんだろうな。そんなに頼り無いだろうか?


 青空は澄んでいる。しかし、わかばは自覚していない。芽生えていないのは痛みだ。気が付かず毒が回る。


 大概のことはわかる。元々だ、小さな時から不安を隠し続けてる。嫌なことですらも。トラブル巻き起こしては泣いていた、ある日を境に辞めた。弟ができてから、両親が自分のことを見なくなってから。


 わかばは、疲弊していたんだな。多分だけど、許婚関係のせいで。申し訳ないなホント。わかばに。そして苛ついた自分に。その日は何もなく家に帰った。若葉の横顔は綺麗だ、でも少しだけ曇っていた。

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