私、重いですか!?(後編)

「うん、真白ちゃん。これでバッチリ!」


 晴れた日の土曜日。

 私の大好きな「最明千春さいみょうちはる」叔母様が着付けて下さった藍色の和服を鏡に映しながら、私は感動に打ち震えていました。


「叔母様、このお色とっても綺麗……嬉しいな。空もとっても綺麗だし、叔母様と私の願いをお祖母様もお空で聞いてて下さってたんですね……今度こそは良縁が結べますように、って」


「そうね〜。まるで真白ちゃんの前途を祝福してるかのようだわ」


「はい、私もそう思います。有り難うございます、忙しい時に……でも、こんな晴れの日を迎える時なんて、叔母様しか頼れなくて……」


「何言ってるのよ? 真白ちゃんの幸せのためなら、私いくらでも頑張るわ〜。……所でゴメンね。前回真白ちゃん、お相手の方に重いって思われちゃったんだよね? 昴君から聞いたわよ? だから反省しろ、って……それはそうよね〜。朱色を基調にしたお着物なんて、お相手の方も重く感じちゃうわよね」


「そんな……あのお色は私も気に入ってたから……でも、今度の藍色も落ち着いてて大好きです」


「これならお相手の方も、威圧感を感じる事も無いわよね……さ、行ってらっしゃい。あ、そうそう。ペンダントは持った? お相手の方にお渡しするんでしょ?」


「は……はい、持ちました! でも……大丈夫でしょうか……」


「緊張してる?」


「……はい。少々」


「気持ちは分かるけどデートは初回が肝心。しかも今回は映画からショッピングモール巡り。そして最後にレストランと言うまさにスタンダードコース。と、なると……真白ちゃんの魅力が丸裸にされるのよ!」


「うう……い、一生をかけた勝負のつもりで務めます。指輪のサイズもちゃんと測りましたし。これで突然指輪のサイズ合わせになっても対応できます」


「素晴らしいわ〜、さすが真白ちゃん。後は……自信を持つだけ」


「はい! では叔母様、行って参ります」


「うん、じゃあ……最後に……」


 そう言うと叔母様は深呼吸すると私をキッと睨むように見ると、言いました。


「真白ちゃん、可愛い!」


「私、可愛い!」


「真白ちゃん、最高!」


「私、最高!」


「今日の主役は?」


「春日部真白!」


「完璧ね。勇気出た? さ、行ってらっしゃい……幸せになりなさいね。あなたにはその資格があるの」


「……はい!」


 ●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●


「さて、伯母さんと姉さん……まずは話聞こうか? ってか、今度は早かったな。夕方まで持たなかったか……」


 リビングのソファに腰掛けて、どこか疲れたような表情の我が弟の昴を見て、私は泣きながら言いました。


「いきなりゴメンね……昴……でも……さ、加奈子さんも遊びに行っちゃったし……ぐすっ……だから……さ……」


「う〜ん、何でかしらね〜。最近の男の方の好みはさっぱり分からないわ……まるで宇宙人みたい……」


「その言葉、二人にそっくり返すよ。せっかく向こうから滅茶苦茶アプローチされてたのに……ってか、俺とか加奈子さんの忠告聞いて無かったろ?」


「聞いてた……よ。だからさ……ぐすっ……今日は結婚式の事とか……子供が……最低二人は欲しいとか……話さなかった……もん」


「今まで話してたのかよ!? ……ま、ともかく何でフラれたの? 理由は山程あるだろうけど決定的なのは?」


「……何だろ? 一生懸命思い出してるんだけど……わかんないよ」


「そう言えば真白ちゃん、アレはちゃんと渡したの? ペンダント。忘れてないわよね?」


「うん……大丈夫……です。忘れないように……緊張して倒れそうだったけど、頑張って……渡しました」


「なに? そのペンダントって」


「中に……ぐすっ……私の切った髪の毛を入れたの。いつでも……一緒に……って。そしたら……急に『忘れてたけど、婚約者がいたんです!』って……酷いよ……そんなの忘れてるなんて」


「は!? 怖い怖い怖い! 何、サイコホラーやってんだよ。それじゃん、原因。まさかこの後、そいつの家のクローゼットとかに忍び込んだりしないだろうな!」


「そんな事しない! 酷いよ……あの人の事、私死ぬまで忘れないもん……ずっと幸せを願ってるから……しないよ、そんなの」


「もうそれが重いんだって……とにかく、姉さん、しばらく恋愛休みな。その間、色々と恋愛物のドラマや映画、後は姉さんよく書いてるだろ、小説。恋愛小説とか読め。で、とにかく脳死状態でそのヒロインを真似しろ。そうすればサイコホラーみたいな事しなくなるから」


「意識してんだけどさ……その時になると……うれしさや緊張で忘れちゃうんだよ」


 ああ……皆さん、どうやって彼氏を作ってるのでしょう……


「叔母様……恋愛ってホントに奥が深いです……」


「そうね〜、私もずっと悩んでるけど、未だに答えが出ないのよ……」


「難しそうに言ってるけど、二人の場合は答えがハッキリ出てるだろうが……」


 昴の深いため息を聞きながら、私はしょんぼりしてしまいました……


「ゴメンね昴、叔母様。今度こそ初回のデート、成功させるね。そしたらぜひ家族みんなで顔合わせを……」


「それも重いんだよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る