体育祭



 今日は体育祭。

 イベント最終日で全生徒の盛り上がりが最高潮の日。

 昨日のように誠也は知り合いを連れて私の学校へ先に向かっていた。

 そういえば誠也、準備体操してから行ったし、最低限の装備もつけていたな……

 それはそうと私も早く行かないと。


「麗華ちゃん!ほらほら、髪のセットするよ!!」


 学校についてすぐに楓に髪をいじられて普段しないような高い位置のポニーテールをされてしまった。


「可愛いねぇ……えへへっ。」


 気持ち悪い笑を見せる楓の奥に私達を見つめる男子たちが見える。

 そんなに可愛いのかな、私。

 そして開会式や選手宣誓など色々と行われて早速競技が始まる。

 オーソドックスな徒競走。私は最後に走る。最後の選手というのはそれぞれのチームで最も足が早いメンツで固められている。

 順番が来てスタートのブザーが鳴るのを待つ。歓声の中、耳に集中してその音だけをひたすら待つ。

 ブザーの電子音がなった瞬間、私は地面を蹴って走り出した。

 直線もカーブも関係ない。私はスピードを落とさずに加速する。

 私がゴールした頃には他の相手達はまだカーブを抜けた所だった。


「速いねぇ〜流石麗華ちゃんだ!」


 そう言って順位が書かれたカードを渡して来た緋依先輩は私含めて他の選手の誘導をしていた。

 思わず本気を出してしまって少し反省したが、それを忘れるぐらい私はテンションが上がっていると感じ、そのあとの競技も圧倒的な差をつけて勝利を重ねた。

 戦機の力だけではなく、誠也との訓練のおかげで、私はすごく楽しめている。


 昼頃に差し掛かり、休憩の時間になった。

 昼食をいつものメンツで食べながらこの後の競技について話していた。


「麗華ちゃん。連戦になるけど大丈夫?」


 陽菜は私の心配をしてくれた。正直ハードな競技に連続で出る事になっている。色対抗の選抜騎馬戦、綱引き、障害物競走、そしてリレー。

 運動神経がいいからと言って流石に私を使い過ぎなところはある。


「大丈夫、これぐらい出来るくらいの体力はあるから。」


 そうだ、その程度の体力はある。

 むしろ無いとガーディアンなんて出来ない。

 昼食を食べ終わってグラウンドを見ると昨日と同じように人だかりができていた。

 グラウンドの真ん中に10は人ぐらいが向かい合って立っていて今から何か始まりそうな予感がした。

 そういえば予定表に昼休憩の時間で観客だけで何かをするという事が書かれていた。

 ……最低限戦う準備をした誠也に彼の知り合い……

 そして今にも戦いが始まりそうなグラウンドの空気。


「ねぇ、楓。昼の観客だけの企画って何だっけ。」

「え?確か観客も参加するリレーの出場権争奪戦だったハズ。」


 うん、間違いない。

 今から惨劇が始まる。

 生徒が参加しなくてもなんだかんだで盛り上がりを見せていた。

 それぞれの生徒の親や身内が出ていたりするからだ。

 ぼーっと200メートル走を眺めているとで誠也の番が回って来て、彼は一番外側のレーンに立った。

 彼の周りは大きい人達がいて彼はかなり小さく見える。


「誠也結構絡まれてるなぁ……」


 そんな事を私は呟いていた。

 周りからも、相手の人達からも散々煽られていたから。でも彼はそんな事気にしていないと言うような顔をしていた。


「位置について……よーい……」


 スタートのブザーがなった瞬間、彼は他を圧倒する速度で200メートルを走りきった。

 勝負にすらならないレベルだ。周りの人達は呆然とする。

 私はなんとも思わなかったけど、それは私が彼を知っているから。私がもし誠也の事を知らなければ、当然驚いていただろう。

 徒競走の後の障害物競走やリレーも、誠也が率いていたチームが圧倒的勝利。

 騎馬戦もあったが、あれは誠也達が相手の鉢巻を取るというものではなく、馬をひたすら倒すという荒業で場を掻き乱していた。


「なんだよあれ……ズルじゃねぇか。」


 間違いない。男子生徒の1人がそう口にする。

 誠也とその知り合い……恐らく七強部隊か全員七強。当然他との実力差が圧倒的。


 余裕で出場権を勝ち取った誠也達は正体をバラす事なくそそくさと観客席へと戻った。


「あの気配……茅葺さんだ……茅葺さん……来てくれたんだぁ……」


 隣で楓は目を細めて愛する人を見るような笑みと声色で喜んでいたが……彼女から気味が悪い。

 茅葺さんと知り合ってから、彼女は俗に言うヤンデレというものを拗らせたのかもしれない。

 私はこんなのにはならないようにしないと。

 そして午後の部が始まり、クラス選抜対抗リレーが一番目の種目で、私はその準備に向かう。


「麗華ちゃん、アンカー任せたよ。」

「うん、楓もトップランナー頑張って。」


 私と楓はクラスのツートップで、他とは比べ物にならない位には速い。

 スタートの合図と同時に楓は圧倒的な差をつけて次の走者にバトンを繋げた。


「私にはグラウンドは狭過ぎるかな……」


 そう楓が言うが分かる気がする。

 そもそも私達は同年代の人からしたら化け物と言われてもおかしくないだろうし。

 ……というか楓はなんでそんな身体能力を持ってるんだろ。

 教えてもらおうとしても上手いこと逃げられるし。

 そうこうしてる間に私へとバトンが回って来て難なくリレーが終わった。

 そして運動会が終わりに近付くまでに熱気は高まっていく。

 そしてとある競技で私はとんでもなく葛藤する事になるのであった。


「借り物競争か……すぐ見つかるといいけど。」


 私は配られて来た封筒の中身を開けて内容を見るとそこには「誰でもいいので二人でゴールをする事。」と書いてあった。

 ……めんどくさい物を引いた。

 楓とか陽菜とか先輩達を選ぶのが無難だけど。

 どこにいるのかな。人が多いから戦機システムで探そう。

 ……久しぶりに使うなぁ……これ。誠也にはあまり使わないで欲しいって言われてたけどこれぐらいならいいよね。


「えっ……」


 私は静かに驚いた。

 皆がこういう時に揃いも揃って席を外している。

 なんでそうなるの。そうだ、誠也ならいるかも。でも……

 いや、変に誰かを選んでクラスでからかわれるのはもっと面倒だ。

 それに……誠也は知り合いなわけだし。

 短い葛藤に決着を付けて私は決めた。

 私は頭の中に彼の姿を思い浮かべ、一瞬で彼のいる場所を特定した。


「……よし。」


 私は地面を蹴って全速力で誠也の元へと走る。

 そして彼は目の前にやって来た私に困惑した顔を向けてきた。


「来て。」


 手を差し出してそう一言短く言うと彼は頷いてその手を取る。

 

「まさか、俺を誘ってくれるとはな。」

「黙って着いてきて。」


 さっさと走ってゴールをしてこの場から離れようとするのだが……誠也は離れようとしない。


「……ねぇ、離して。」

「離したいけど。手が離れない。」


 そして私は誠也と繋いだ手を見る。


「……!?」


 驚いた事に私の手は彼の手を強く指を絡めて握りこんでいたのだ。

 そして彼の手の方はというとどこか離れようと手を開いていたが私の手に締められていて窮屈そうにしていた。


「ご、ごめん。」

「構わないが、大胆だな。」

「ち、違っ!!」


 私が即答で否定しようとしたがその頃には彼は背を向けて観客席へと戻っていた。

 ……バカ。そんなつもりじゃないのに。

 私の番が終わって戻る頃には楓と陽菜は帰って来ていた。


「どこ行ってたの?」

「ん?いやぁ、陽菜ちゃんがトイレ探してたからねぇ……」


 楓は私の質問にそう答えて「ふぅん。」と当たり障りのない反応を返して次の競技を待った。

 ここから暫くは私が出ることが無い。

 ……出るのは最後のこの学校恒例の観客者も参加する選抜ドッチボールだ。

 各学年から二人づつでクラスで選ばれた人と参加する観客数人が均等になるように割り振られる。

 観客に七強二人は確定……参加者は三位までのチームだから12人。そこから割り振られて4人。

 もしかしたら誠也と一緒に!?活躍したら誠也は褒めてくれるかな。

 帰ってから「よく頑張ったな。」とか「流石は麗華だ。君は俺の誇りだ。」とか。

 えへ、えへへ……困っちゃうよ。


「……ちゃん。」

「麗華ちゃん。」


 ……!?

 肩を叩かれ、陽菜の声で元の世界に戻ると彼女は眉をひそめた表情で「楓みたいな顔してたよ。」と言う。

 なっ……そんな。


「……み、見なかったことにして。」

「それはいいけど、肩慣らしはしなくていいの?参加するであろう人達が凄く肩慣らししてるけど。」


 そう言って陽菜はある方向へ指を指した。

 って、誠也達じゃん。


「んー……やっとこうかな。後3種目だもんね。」


 肩を回して軽く振って肩慣らしを始め、ボール投げるイメージを頭の中で描く。

 ……イメージは優希さんのあの自由自在な投擲。

 彼女に1度教えてもらったことがある。相手に当てるにはどうしたらいいのか。

 全方向からの一斉攻撃ではなく、思考を誘導させること。誘導させてひとつのコースに集中し始めたらパターンを変えて当てる。

 そして変化をする投擲には握力と腕の柔らかさも。

 身体を使い、腕を使う。そういうイメージ。


「おー!麗華ちゃん!!張り切ってるね!!」

「先輩!」


 緋依先輩が大きい胸を引っ提げ……引っ提げてない……!?

 私が先輩の胸に驚いていると彼女はそれに気が付いて「やっぱ動くなら邪魔だからね……苦しいけどサラシでちょっと潰したよ。」


 サラシで潰せるレベルなの?

 ……というか、何かかっこよく見える。

 ゆるふわで天然な雰囲気を醸し出している彼女だけど、今の彼女姿は本気だとそう感じた。


「まぁ、先生が出るから手は抜けないね……あはは。」


 彼女はそう言って笑う。彼女の言う先生は七強の緒原 立輝。彼も来ているらしい。

 七強勢揃いになりそうな気がする。

 最後の種目、ドッチボールの時間がやって来た。

 私のチームは赤。赤の鉢巻をしている人が私達のチームに来る。


「誰が来ようと関係ぇねぇよ。な?望月。」


 私のクラスからは中平 良が一緒に出る。

 彼がそう言うがそういう訳にもいかない。相手に七強が紛れ込んでいるかもしれないから。


「そう思ってるなら、心強いね。」

「お、おぅ。」


 彼にそう言って私は辺りを見渡して割り振られた人を探す。


「まさか、緋依の所と割り振られるとはな。」

「先生!!」


 一人はどうやら立輝さん。先輩は明らかに喜んでいる顔をしていた。

 そんな彼女に彼は頭に手刀を軽く当てて「落ち着きなさい。」と言って笑った。

 仲がいいな。私も誠也とあんな事したいな。


「あれがもう一人じゃないか?」


 中平が指を向けた先にいたのは誠也だった。

 彼は呑気に準備体操をしていた。

 ちょっとくらい私を探してくれてもいいのに……


「なんか魔力もそこまで感じねぇ。それに、他と比べりゃ小さいからこりゃダメだ。」


 そういう中平は呆れてどこかに行くが、彼の目の前にいるのは七強だと言うことだけは黙っておこう。

 アナウンスが流れ、私のいる赤組と青組が試合をする時間になった。

 青組のコートには驚いた事に七強ではなく、誠也の弟である勇さんが立っていた。

 ……厳しい戦いになりそうだ。

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麗華の戦歌 みきりはっちゃー @siganaiipanjin

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