ライオンのいたずら
雌ライオンが寝ている。
動物園ではない。大自然の中。陽ざしは強い。
けれど、周囲には、子供のライオンもほかのメスライオンも見られない。
きっと、疲れているのだろう。喧騒から離れた、ひと時の安らぎに身を横たえている。
少し離れたとこに、一頭の雄ライオンがいる。
じっと、メスライオンを見つめている。その距離およそ10メートル。
そこから、ゆっくりとゆっくりと、抜き足差し足忍び足で、雌ライオンに近づく。
最後の2、3歩は、少しスピードを上げて、雌の腰に思いっきり嚙みついた! と同時に思いっきり雌から攻撃される。
それは、至極当然のこと。
「ちょっと怒りすぎじゃない? さすがに止めて」
というふうに、数歩威嚇する様子を見せるけれどやり返すことはせず。
雌は、落ち着かないわ、と去っていく ――。
そういう動画を見たことがあるだろうか。
雄ライオンは何を考えていたのだろう。絶対、怒られることはわかっているのに。
無茶苦茶、笑える。
さて。
子犬がいたずらをする。それは、興味を持った結果だったり歯固めのためだったりする。だから、本当の意味でいたずらをしているわけではない。
遊ぶためには、知能が必要だと考えられているらしい。
道具を使った遊びは、類人猿のほかには、カラスの遊びが良く知られている。滑り台をしてみたり電線を鉄棒代わりにしたりする。
では、ライオンは?
上記のライオンは、思いっきりいたずらをしている。道具はないけれど。
ただの偶然とは考えにくい。
ライオンがいたずらするなら、ほかの動物たちもしっかり意図をもって遊んでいるのだろうか?
動物は、いつ遊ぶ、ということを覚えたのだろう。
遊びを知って賢くなったのか、賢くなったから遊びを知ったのか。遊びから探求心が芽生えたのだろうか、探求心から遊びが発達したのだろうか。
賢くなった動物であるヒトは、ヒトになったときには、既に遊ぶことを知っていたに違いない。ライオンですら、いたずらを楽しんでいるのだ。
類人猿が音を楽しむように、音を発することを遊びとし、言葉を獲得していったのだろうか。
遊びの定義は、生存とは関係のない行動、ということらしい。しかし、それが結果として生存上の利益につながる。
では、いまの日本の子供たちを振り返ってどうだろう?
充分な遊びを経験できているだろうか?
そうでないとしたら、生存上の利益を獲得できないまま大人になるとしたら。
遊べない動物になってしまったら。
人間として、歴史を重ねていくことは出来るのだろうか ――。
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