第50話 私と心先生と学会パート2

 心先生が学会に行っている。

 しかも、今回は海外へ。

 たしか、バンクーバーとか言ってたかな。

 なので、さすがに、前の時のように学会から当日帰って来るということはない。

 ということで、今日は退勤後、直帰してだらだらとした夜を過ごすことにした。

 基本的に夜勤がない時以外は、心先生と飲むことが多いので、久しぶりに一人の時間、のような気がする。

 そんなことを考えつつ、ぼんやりとネットサーフィンを嗜んでいたら、スマホがフルフルと震えた。

 家でもマナーモード。

 それが私スタイル。

 知らんけど。

 スマホを見ると、そこには心先生からの着信を告げる文字が浮かんでいた。

『千夏ー。おはよー』

 ビデオ通話だったようで、画面いっぱいに心先生の顔が映る。

「おはようございます。って、そっち今何時なんです?」

 こっちは午後八時を回ったあたり。

 バンクーバーとの時差ってどれくらいだっけ?

『こっちは今、4時だよ』

「4時って、もしかして朝の?」

『そう、朝の!』

 先生は元気よく親指を立てる。

「いや、寝てください」

『寝れたら電話してないよー。時差が凄すぎて全然寝れない』

「言っても、こっちも夜の8時なので、時差凄いですけど一周回ってそこまでじゃなくないですか?」

 あちらが朝4時ということは、時差は16時間。

 なんか微妙に悪くない時差な気もする。

『私みたいな繊細な存在には、その微妙な時差もしんどいの!』

 先生はご立腹inバンクーバーみたいで、不満気に眉根を寄せる。

「はいはい。じゃあ、何をご所望ですか?」

『あ、今日ね、空港着いてから電車に乗ったんだけど……』

 先生はにこやかに話を始めた。

 バンクーバーでの体験や気づきを披露してくれる先生。

 私は、話を聞きつつ、先生の豊かに表情を作り続ける顔を見つめる。

 そう言えば、普段飲む時も先生は正面に座るけれど、こうしてしっかりと顔を見て話すってこと、そうはなかったなと思い返す。

 いや、最初の頃は見ていたけど、いつの間にかそれが当たり前になり、気が付けば当たり前にいる、という存在になりすぎていたのかもしれない。

 うん。

 大切さを再確認できてよかった。

 私は胸の中に生まれる温かさに頬を寄せた。

 そして、一時間後。

「先生? 寝てます? 寝たようですね」

 元気に話したのが功を奏したようで、先生は途中でうとうとし始め、数分で静かに寝息を立て始めた。

「まったく、せっかくの一人の時間が台無しですよ」

 私は先生の寝顔と寝息を静かに見守りながら、そのまま眠りについた。

 起きた時には既にスマホの充電は切れていた。

『なんで起こしてくれなかったのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 発表に遅れちゃって大変だったんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 と、スマホ復帰後にメッセージが来たのに気づき、そっ閉じした。

 うん、こんなメッセージ送れるくらい元気なら大丈夫。

 帰ってきたらご飯くらい奢ろう。

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