第16話 私と心先生とファストフードチェーン

「ハンバーガー、食べたい気分」

 そんな心先生の要望もあって、仕事終わりに職場近くの有名ハンバーガーチェーンへとやってきた。

 店内はお腹をくすぐるポテトとかその他諸々の匂いで満ちていた。

 うん、仕事終わりの胃に効く。

 幸い、さほど混んでおらず、私たちはすぐに注文を受けてもらえた。

「何にします?」

「え? うーん……」

 少しだけ逡巡した後、心先生はダブルチーズバーガーのセットを注文した。

 私はテリヤキ的なやつのセット。

 商品を受け取り席へ着くと、早速私はポテトを一口。

 やはり、このファストフード店でしか味わえないこのポテトはいい。

 塩が染みる。

「ねぇ、千夏……」

「どうしました?」

 自分でハンバーガーを食べたいと言っておきながら、先生の表情はなぜか暗い。

「注文するときさ、ふと思ったの」

「何をですか?」

「なんでお酒ないんだろって」

「あー、まあお酒が欲しくなる濃さではありますもんね」

 やったことはないけど、ポテトと焼酎のロックとか意外と相性良さそう。

「さすがに思考が酒カス過ぎないかな私!? 高校生が部活後に仲間でワイワイしたりするような青春感溢れるお店で酒飲みたいとか、なんか悲しくなったよね! まあ、私の場合、別に中高生の時もそういう青春する友達もいなかったけどね! ごめんね!」

「んー、気にし過ぎでは?」

「え?」

「だって、酒こそが私たちの青春じゃないですか。仕事終わりに酒飲んでワイワイする。そんな時間が最高に楽しいですよ、私。私たちの青春は酒軸なんです。だから、先生がこのお店で酒のこと考えるのはむしろ普通ですよ。それに、昔青春できなくても、今出来てるならいいじゃないですか」

「そ、そっか! そうだよね! 酒軸青春な私たちなんだから仕方ないよね! 千夏ありがとぉ。過去のトラウマとも明るくさよならだよぉ」

 先生の表情がパッと明るくなる。

 うん、よかった。

 塩うまうま。

「うー、余計に酒恋しくなってきた! この後、どっか飲みに行こ? 酒青春しよ!」

「今日は無理です」

「鬼!」

「いや、私は仕事終わりですけど、先生はこれから当直じゃないですか」

 そう、先生はこれから仕事。

 仕事終わりは私だけ。

 酒は駄目、絶対。

「飲みたい時に飲めない酒の何が青春だよぉ」

 先生は不満たらたらにハンバーガーを頬張る。

「私はこうして先生と話してるのも青春だと思ってますよ。酒抜きでも」

「そう、なの?」

「ええ、ほんとにほんとです」

「めんどくさいから適当に理由つけて切り抜けようとしてない?」

 鋭いな。

 正直、今日は忙しすぎてもう既に眠い塩うまうま。

「明日、千夏休みだよね?」

「……まあそうですね」

「じゃあ当直終わりに飲み付き合って! こんな気持ちのままじゃ寝られないよ!」

「ええー」

「泣きたい!」

「わかりました。付き合いますよ。わかりましたから、こんなところで叫ばないでください」

「やった! 当直後飲みなんて社会人にしかできない青春だ! 中高生の頃の私、やったよ!」

 先生は嬉しさを噛み締めるように、ハンバーガーに齧り付いた。

 ちなみに、明日他の友達との予定があったが仕方ない。

 先生との青春は最優先事項だからなぁ。

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